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トランプ大統領の一挙手一投足に、市場が敏感に反応している。

4日には、メキシコとカナダへの25%の輸入関税を同日に発動する考えを改めて示したかと思えば、翌5日には1カ月猶予すると方針を急転換。一連の流れを受けて、ドル/円相場は再び150円割れまで急落するなど乱高下している。

今後もトランプ氏の発言に振り回される状況が続くのか―。

円も人民元も「通貨安」容認しない姿勢

トランプ氏は中国からの輸入品については既存の追加関税(10%)にさらに10%を課すことも表明済みであり、こちらは4日に発動された。

実体経済への影響は今後試算が進むであろうが、短期的にはインフレ誘発的、長期的にはデフレ誘発的な政策と考えるべきであろう。

注目は為替市場の反応である。トランプ大統領は関税を引き上げる理由を説明する際、中国とともに日本が通貨安を誘導してきたと批判する趣旨の発言を行っている。

具体的に、トランプ大統領はホワイトハウスで記者団に対し「日本の円であれ中国の人民元であれ、彼らが通貨を下げると我々に非常に不公平な不利益をもたらす」と述べ、追加関税によって「迅速かつ効率的に公平性をもたらす」という趣旨を強調している。

ちなみに、「中国の習近平国家主席や日本の首脳たちに電話をして『通貨を切り下げ続けることはできない』と伝えてきた」とも述べているが、これが第二次政権発足後の話なのか、それとも第一次政権時代の話なのかは不明だ。

これらの発言を受けて、ドル/円相場は再び150円割れまで急落したが、かなり危うい動きと言わざるを得ない。

政治的発言でさらに積み上がる「投機の円買い」

IMM通貨先物取引に映る「投機の円買い」は2月25日時点で実に2016 年 10 月以来の水準まで積み上がっている。

日本が意図的に通貨安誘導しているという事実は全くないため、こうしたトランプ大統領の不規則発言で上乗せされた円買いポジションは剥落するのも早いと考えるべきであろう。

そもそも2022年以降、円買い・ドル売り為替介入を行っている政府・財務省の姿勢に対し、米当局者は、通貨安誘導とは真逆の対応につき問題視しない意向を断続的に吐露している。

例えば2024年7月26日、イエレン財務長官(当時)が日本経済新聞のインタビューに対し「米国やほかの国を犠牲にして貿易黒字を達成しようと通貨を操作する国」を問題視してきたと説明し、日本の状況はそれとは異なるという趣旨の発言をしている。多くの説明を要しない。当然の話である。

日銀には「渡りに舟」か?

敢えて「日本が意図的に通貨安誘導している」という立場に立つのであれば、「日銀の利上げペースは遅過ぎる」という主張を放つことになるだろう。

事実、1年前はまだマイナス金利政策を採用しており、現時点でも利上げが始まったとはいえ実質マイナス金利の環境を謳歌している。

長引く円安相場については、むしろ政府・日銀が「私たちも困っている」と主張したい立場にあるが、「通貨安に困っているならば実質マイナス金利の環境は修正すべき」と米国から言われれば反論の余地は小さい。

事実として実質ベースの日米金利差とドル/円相場の挙動は非常に安定した関係があるようにも見えるため、米国がそのように主張したとしても一理ある話だ。

そうであれば、日本は利上げを行えば良いではないかという話になるが、周知の通り、低金利が常態化してきた日本では、連続利上げのハードルが政治・経済的に高く見積もられやすい。

とりわけ実質ベースでの国内成長が滞る現状を踏まえれば、今夏に国政選挙を控える環境ではどうしても躊躇されやすい状況はある。

この点、「米国からの外圧」という材料が加わったことは世論を懐柔するという意味では「渡りに舟」という考え方もある。

投機性の「円高」持続性には疑問

また、今回の発言の真意は「円が安い分、日本の輸出品は有利になっているので追加関税を課す」ということに尽きるだろう。端的に言えば、「円安はずるい」の一点張りである。

それが通貨安誘導の結果かどうかはさておき、円が安いことは事実であり、これを非関税障壁と見なして関税適用の根拠と化すという発想である。

一応の理屈が通っているようにも感じられるが、円が安いのはあくまでファンダメンタルズに沿った事実であるため、トランプ大統領が不満を覚えたところで修正には限界がある。

少なくとも冒頭で言及したような「投機の円買い」の蓄積に関してはその持続性を疑っておくことが短・中期的には報われやすいというのが筆者の基本認識である。

唐鎌大輔