
地主株式会社の本社がある新丸の内ビルディング(PHOTO : t.sakai / PIXTA)
企業の決算から、不動産業界の現状について考える本連載。今回取り上げるのは地主株式会社です。
地主株式会社はその社名の通り、地主としての事業を展開しており、その特徴は「底地」に特化している点にあります。建物を所有するのではなく、借地権などが設定された⼟地のみへ投資している企業だということです。
本社従業員は2024年12月時点で60名、従業員の平均年収は1718万円となっています。今回は、そんな底地を中⼼に⼤規模な事業を⾏う企業の現状を⾒ていきましょう。
土地の購入からリート運営まで
地主株式会社は、これまで20年にわたり428案件(5314億円)と多くの開発を行ってきた企業です。開発実績を地域別と⽤途別の構成で⾒ていくと、主なものは以下の通りです。

2024年12月期 決算説明資料をもとに作成
開発実績(⽤途別)
・スーパー:24.7%
・ホームセンター:19.2%
・ドラッグストア:8.8%
・カーディーラー:8.6%
・ホテル:7.7% など
⼤都市圏を中⼼に、スーパーやホームセンターなど多様な⽤途で活⽤される底地を展開しています。
それではまず、事業内容から⾒ていきます。地主の事業のステップや特徴は以下の4つとなっています。
(1)⼟地を買う:仕⼊れリスク低減のためテナントを決めたうえで取得
(2)⼟地を貸す:建物を所有せず、テナントと20~50年の定期借地権を設定
(3)貸している⼟地を売る:国内唯⼀の底地特化型の私募リートである、地主リートを中⼼に売却
(4)投資家の資⾦を運⽤する:リートを運⽤し、マネジメントフィーを受け取る
⼟地を取得し、⻑期的な借地権を設定しリートに売却、そしてリートの運⽤まで⾏っています。
テナントを決めてから⼟地を取得することもあり、仕⼊れから売却までの期間が1年~1年半という資⾦回収が早い点や、地主リートへの売却後もマネジメントフィーを継続的に受け取れる点に特徴があるビジネスモデルとなっています。
収益源としては⼟地の売買によるフロービジネスと、リートのマネジメントフィーや売却前の⼟地からの賃貸収⼊などによるストックビジネスがあります。
2024年12⽉期の収益源別の売上総利益は以下の通りです。

2024年12月期 決算説明資料をもとに作成
1件当たりの規模が⼤きいフローが主⼒ではありますが、ストックに関しても4分の1ほどを占めていることが分かります。
これまでの開発実績が多く、ストックビジネスの規模も拡⼤しており、⼀定の安定収益が期待できるということです。ストックビジネスに関しては積み上がりが期待されますので、業績を⾒る際にはこの点にも注⽬です。
「底地と言えば」で地位を確立
事業の拡⼤には⼟地の仕⼊れが重要です。⾦融機関や仲介会社からの⼟地情報の取得の他に、テナントからの持ち込み、住宅ディベロッパーとの共同開発など多様な⼿段によって⼟地を仕⼊れています。
そして、底地に特化して20年以上も⻑期的に事業を展開してきたこともあり、地主株式会社を指名した取得依頼も多いとしています。
底地に特化していますから、底地を取り扱う際には顧客に思いついてもらいやすい存在となっているのが1つの強みということです。
仕⼊れの他に重要なのはやはり出⼝の確保で、それを担うのが地主リートです。地主リートは現在は国内唯⼀の底地特化型私募リートとなっています。
このリートへの売却によって資⾦の回収を早めると共に、マネジメントフィーによる⻑期収益化を実現しています。
ちなみに、この地主リートは機関投資家向けの商品で、底地事業の安定性や円建ての債券運⽤と⽐べた利回りの⾼さなどから、⻑期運⽤を⾏う⽣命保険や年⾦などが積極的に出資をしているようです。
⻑期運⽤を前提とする機関投資家にとっては、ポートフォリオの1つとして価値が⾼いということですね。

PHOTO : genzoh / PIXTA(ピクスタ)
そして地主リートは先⾏者利益を確保して成⻑してきたことで、2024年9⽉末時点の資産規模は2576億円まで拡⼤しています。
これまでの実績で信頼性を獲得していますし、これだけの規模で展開することは難しいため、他社が安全性や利回りで同様の商品を提供するのは困難だとしています。
そういった事情でリート運営は参⼊ハードルが⾼く、事業の参⼊障壁になっているようです。
出⼝の確保ができなければ、資産を⾼回転で展開できませんから、リートによって⼤きな出⼝を保有していることが事業上の優位性に繋がっているということです。
近年は⼀般投資家向けの商品の販売も始めています。2023年10⽉に1号案件を開始し、2024年9⽉時点では3号案件まで募集が⾏われています。
まだまだ規模は⼩さいものの、出⼝の確保は重要ですから、今後はこの⼀般投資家向けの商品でも出⼝が拡⼤していくかに注⽬です。
インフレに強いビジネスモデル
ビジネスモデルとしての強みは安定性にあります。
ストック収益が⼀定の規模を持っているという点もそうですし、20年~50年という⻑期の定期借家契約を結び、建物への投資はテナント⾃⾝が行うため、退去リスクが低く⻑期的な収益が⾒込めます。
さらに、建物を持たないためインフレや⾦利上昇局⾯でも建築費⾼騰の影響は受けませんし、賃貸原価としても固定資産税のみとなるため市場変化への耐性が強いです。
むしろインフレ下では、⼟地の価格が上昇するため含み益が拡⼤し、売却時のキャピタルゲイン拡⼤に繋がるというポジティブな影響があります。
インフレや⾦利変動など、市場環境としては不安定性が⾼まっている中、低リスクで事業を⾏えるのも1つの強みだということです。
⼟地の仕⼊れと販売を繰り返しているため、2024年12月期の財務状況を⾒てみると、総資産1154億円のうち現預金が237億円なのに対し、販売用不動産が706億円と大半を占めています。
負債⾯を⾒ていくと、706億円のうち借入金が628億円と⼤半を占めており、有利⼦負債による積極的な資⾦調達を活⽤して事業を展開していることが分かります。
そしてこの資⾦調達に関しても、不動産市況の変動を乗り越えられるように⻑期での借り⼊れを⾏っているようです。基本的にリスクを抑えた形で事業を展開している企業だということです。
ストックビジネスで安定した拡大
事業内容が分かったところで、続いて業績の推移を⾒ていきましょう。
創業から20年を⾒ると、⻑期的には増加傾向となっていますが、基本的に増減ありつつの推移となっています。
フロービジネスの規模が⼤きいですから、業績は⼤型案件の売買に左右されやすいことが分かります。
とはいえストック収益が拡⼤し、資産規模ともに事業規模も拡⼤していることで、⻑期的には増加傾向となっています。
地主株式会社は2020年から12⽉決算に決算期を変更しています。それ以降の2023年12⽉期までの3年間について業績推移を⾒てみると、売上は減少が続いていますが、⼀⽅で利益⾯は増加が続いています。これはなぜなのでしょうか。
ストックビジネスとフロービジネスの売上総利益の推移を⾒てみると、拡⼤しているのはストックビジネスです。2021年12⽉期→2023年12⽉期の売上総利益の推移は以下の通りです。
フロービジネス:77.4億円→77.2億円
ストックビジネス:15.1億円→27.7億円
利益⾯の拡⼤には、積み上がりが期待されるストックビジネスが貢献していたと分かります。
業績はその期にどのような案件があったかにも左右されますが、これまでの累計の開発案件の積み上がりによって、利益⾯は⼀定の安定した成⻑が見込まれます。今後も利益⾯は堅調な状況が続くと期待されます。
「底地市場」は景気低迷時に伸びる
⼀⽅、フロービジネスに関しては横ばい傾向の推移が続いており、事業規模は拡⼤しているわけではありません。ですが底地の市場環境は拡⼤が続いていることから、今後も拡⼤が期待されています。
⽇本不動産研究所の調査によると、22年には約6兆円の市場だったのが、2026年には約10兆円の市場へ拡⼤するという予測があるようです。
底地の市場はリーマンショック後の13年で6.7倍に拡⼤したという歴史があります。⻑期的に安定収益が獲得できる底地は、景気低迷時や市況の変化が⼤きい時に需要が増すと考えられます。
現在も市況は大きく変動する状況が続いていますし、さらに⾦融市場の発展によって⾦融商品としても流動性を増しています。そういった中で底地は安定した投資先として、マーケットの拡⼤が期待されます。
ただ、市場拡⼤する中でも近年は事業規模が拡⼤していない状況ですから、⼀定の停滞が起きていると考えられます。今後は市場の拡⼤を捉えて再拡⼤を⾒せられるかがポイントということですね。
現在はテナント業種のさらなる多様化、事業エリアの拡⼤、⼟地のオフバランス提案など積極的な取り組みを進めています。
こういった取り組みによって、市場の成⻑を捉えてフロービジネスに関しても拡⼤を⾒せられるかに注⽬です。
(妄想する決算)
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