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オーナーにとって便利な仕組みである一方、さまざまなデメリットやリスクで注意喚起されることもある「サブリース」。きちんとそのシステムを理解しておかないと、思わぬトラブルに見舞われることになります。
2024年度の賃貸不動産経営管理士試験の問20でも、サブリースにおける法規制が出題されました。典型論点からの出題でしたが、正答率は約51%と見られ、合否を分けた重要な問題だったといえます。
今回は、そんなサブリースについて改めて重要なポイントをお伝えしていきます。
この記事を通じて、しっかりとサブリースの法規制について理解してもらえればと思います。
サブリースの仕組み
サブリースとは、不動産会社がオーナーから賃貸物件を借り上げ、入居者へ転貸する仕組みです。その対象が住宅の場合で、不動産会社等が事業として行うと、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸住宅管理業法)が適用されます。
民法や借地借家法では、単に「転貸借」と呼ばれます。
賃借人(転貸人)が適法に賃借物を転貸したときは、図に示すように、原賃貸人Aと賃借人Bの賃貸借契約(以下、原賃貸借契約)と、Bと転借人Cの転貸借契約が生じ、三者間の権利義務が生じます。
オーナーとサブリース業者(AとB)の法的な関係
上記の図に沿うと、Bは、Aとの間で賃貸借契約を締結するため、Aとの関係では賃借人の地位に立ちます。両者の関係は、転貸借を伴わない通常の賃貸借と異なるところはありません。
なお、Bは、Aとの関係では賃借人の立場になることから、CはBの履行補助者となります(大阪高判昭和39年8月5日、大判昭和4年6月19日)。そのため、Cの故意・過失はBの故意・過失と同視され、Cの過失により賃貸物件を毀損した場合、Aとの関係ではBが責任を負います。
○履行補助者の理論
これは、なかなか難しい理論なのですが、噛み砕いて説明すれば以下のとおりです。
Cの故意・過失で賃借している建物が焼失してしまったとしましょう。この場合、Aは、自分の家が燃やされたわけなので、当然に、その加害者であるCに対して不法行為に基づく損害賠償を請求することができます(民法709条)。
ただし、この場合、Cの故意・過失については訴える側のAが立証しなければなりません。また、入居者Cにその賠償能力がない場合は訴えたところで債権回収は困難です。
それに対して、BはAと賃貸借契約を結んでいる関係なので、Aは、Bの善管注意義務(大切に建物を使う義務)違反を根拠に、債務不履行で損害賠償を請求することが可能です。
債務不履行での損害賠償請求の場合は、訴えられたBの方が、自らに帰責事由(故意・過失等)がないことを立証しなければなりません。また、Bがサブリース業者ということであれば賠償能力もある可能性が高いです。
しかし、Bに帰責事由があるとするにはもうひと工夫必要です。そこで、考え出されたのが履行補助者の理論というものです。
つまり、本来Cの故意・過失であるものを、Bの履行をCが補助する立場にあると理論構成して、それはBの故意・過失と同視できるとするわけです。
かなり無理筋な理屈ですが、我国の最高裁が採用する理屈です。
オーナーと入居者(AとC)の法的な関係
一方、AとCとの間には、直接の契約関係は生じません。しかし、Bが適法に賃借物を転貸したときは、Cは、AとBとの間の賃貸借に基づくBの債務の範囲を限度として、Aに対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負います(民法613条1項)。
ちなみに、2020年改正前の民法では「賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転貸借は賃貸人に対して直接に義務を負う」としか定められていませんでした。これでは具体的にどのような義務を負っているのか明らかではなく、賃貸人と転借人との法律関係が明らかでないとの指摘があり、明文化されました。
直接の義務には、賃料支払義務、保管義務、保管義務違反による損害賠償義務、終了時の目的物返還義務などがありますが、もっとも重要なものは賃料支払義務です。
具体的に、AがCに請求することができるのは、原賃貸借契約で定めた賃料の額までの範囲内の転借料です。たとえば、原賃貸借契約の賃料が月額40万円で、転貸借契約の賃料が月額30万円の場合、Aが請求することができるのは月額30万円までで、残額の10万円はBに請求できるにとどまります。
ちなみに、AのCに対する賃料請求は、BのCに対する賃料請求に優先しません。また、AのCに対する賃料請求権とBのCに対する賃料請求権とは、連帯債権類似の関係になります。(東京地判平成14年12月27日)。
なお、この東京地裁が示した「連帯債権類似の関係」とは、AとBの債権が相互に密接に関連し、Cからの債権回収に関して協力関係にあることを意味します。
つまり、どちらの債権が優先するというよりも、Cからの賃料支払いを確保するために、AとBが協力して権利を行使できるということです。
たとえば、CがBに賃料を支払った場合、その支払いはAに対する債務の弁済としても有効となり、逆に、CがAに直接賃料を支払った場合も、それはBに対する債務の弁済として有効となり得ます。
これにより、賃貸人Aは、賃借人Bが倒産した場合などでも、転借人Cから直接賃料を回収できる可能性が高まります。また、C側からしても、どちらに支払っても、賃料支払いの義務が履行されるので二重で支払う必要はありません。
ただし、Cは、転借料の前払いをもってAに対抗することができません。
サブリース業者が賃料を滞納したら?
もし、サブリース業者(B)が賃料滞納を行った場合、Cの立場はどのようになるのでしょうか?
転貸借契約は原賃貸借契約を前提に成立しているので、原賃貸借契約が債務不履行により解除されると、転借人は寄って立つ基礎を失うことになります。
したがって、AがCに対して賃貸物の返還を請求した時に、BのCに対する債務の履行不能により転貸借契約も終了します(最判平成9年2月25日 民集51巻2号398頁)。
転借人の原賃貸人に対する直接の義務は、原賃貸人保護が目的で、原賃貸人の転借人に対する請求は権利ではあっても義務ではないからです。
ちなみに、AがCの退去を望まなかった場合、Cと直接賃貸借契約を結び直して、入居させることなどはできるのでしょうか?
もちろん、AとCとの間でそのような契約を締結することは自由です。一般的には、AB間のマスターリース契約書とBC間のサブリース契約書に、AB間の契約が終了した場合の契約関係について特約を定めておきます。
なお、Aは、原賃貸借契約の賃料の延滞を理由に解除する場合、Bに対して催告をすれば足り、Cにその支払の機会を与える必要はありません(最判昭和37年3月29日 民集16巻3号662頁)。
サブリースに借地借家法は適用されるの?
よく問われる問題として、「サブリース方式の賃貸借に借地借家法は適用されるのか」というものがあります。
借地借家法は、建物の賃貸借契約と、建物所有を目的とする地上権または土地の賃借権(借地権)に適用される法律です。間借りや使用貸借(無償での貸し借り)には適用されません。また、建物の賃貸借であっても、一時使用のために建物を賃借したことが明らかな場合には適用されません。
なお、建物賃貸人と建物賃借人、または借地権設定者と借地権者が、借地借家法の規定と異なる特約を結んだ場合、その内容が建物賃借人または借地権者に不利であれば、原則として、その特約は無効となります。
さらに、民法と借地借家法が競合した場合、借地借家法が優先します。借地借家法が定めていない点については民法が適用されます。
借地借家法は、建物の賃貸借や建物所有目的の土地賃貸借などについて、民法の規定を修正する法律です。賃貸借については、民法に一般的な規定がありますが、建物と土地の賃貸借契約については、弱い立場にある賃借人を保護するために借地借家法が民法に修正を加えているわけです。
前記の図にもあるように、サブリースには、AB間とBC間の2つの賃貸借が存在します。BC間に借地借家法が適用されるのは当然です。問題となるのは、AB間です。というのは、AとBを比べると多くの場合、Bの方が経済的に強い立場にあるからです。弱い立場にある賃借人を保護するという趣旨に合わない状況を生む可能性があります。
この点、最高裁は、借地借家法32条の賃料増減額請求権の規定について、サブリース方式におけるマスターリース契約(原賃貸借契約)にも適用される旨を判示しています(最判平成15年10月21日 民集 第57巻9号1213頁 センチュリータワー事件)。
○センチュリータワー事件
不動産賃貸業等を営むA(住友不動産株式会社)が、B(センチュリータワー株式会社)が建築した事業用ビルで転貸事業を行うため、Bとの間であらかじめ賃料額、その改定等についての協議を調え、その結果に基づき、賃料自動増額特約、中途解約禁止、賃貸期間15年等の約定の下、Bからその建物を一括して賃借することを内容とする契約を締結しました。
その後、Aが賃料減額すべき旨の意思表示を行ったところ、Bが賃料自動増額特約に従って未払賃料等の支払を求めて提訴し、Aが借地借家法32条に基づく賃料減額請求を求め反訴した事案です。
これについて、最高裁は次のような判決を出しました。
1. Aが、Bが建築した建物で転貸事業を行うため、Bとの間であらかじめ賃料額、その改定等についての協議を調え、その結果に基づき、Bからその建物を一括して賃料自動増額特約等の約定の下に賃借することを内容とする契約(いわゆるサブリース契約)についても、借地借家法32条1項の規定が適用される。
2. Aが、サブリース契約を締結した後、借地借家法32条1項に基づいて賃料減額の請求をした場合において、その請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては、当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情を総合的に考慮すべきであり、同契約において賃料額が決定されるに至った経緯や賃料自動増額特約等が付されるに至った事情、とりわけ約定賃料額と当時の近傍同種の建物の賃料相場との関係、Aの転貸事業における収支予測にかかわる事情、Bの敷金及び融資を受けた建築資金の返済の予定にかかわる事情等をも考慮すべきである。
つまり、本件の自動増額特約は無効となり、賃借人であるAから借地借家法に基づき、Bに対して賃料減額請求できるということになります。
なお、最高裁はその他の判例も含めて、借地借家法32条の増減額請求権の適否について判断していますが、更新拒絶や解約における正当事由の適否については、直接的には判断していません。しかし、この点についても、多くの地裁判決で正当事由制度が適用される旨が判示されています(東京地判平成27年8月5日等)。
なお、賃貸住宅管理業法におけるサブリース規制、特に、特定賃貸借契約締結前の重要事項説明(第30条)の中には、「借地借家法(平成三年法律第九十号)その他特定賃貸借契約に係る法令に関する事項の概要」が定められています(同法施行規則46条14号)。
つまり、2020年12月15日に施行された賃貸住宅管理業法の中にあるサブリース規制は、これまでの裁判例の蓄積を踏まえ、サブリース業者のオーナー(顧客)に対する重要事項説明(リスクの説明)という形で明文化しています。
過去問にチャレンジ
それでは、ここまでの解説も踏まえ、2025年度の賃貸不動産経営管理士試験の問20に挑戦してみましょう。
【問題】サブリースに関する次の記述のうち、正しいものはいくつあるか。 なお、本間において 「原賃貸借契約」とは、賃貸人と転貸人 (賃借人)との契約関係を指し、「転貸借契約」とは、転貸人(賃借人)と転借人との契約関係を指すものとする。(2024年度問20)
(ア) 転貸を事業として行うサブリースの場合、原賃貸借契約には借地借家法の適用はないが、転貸借契約には同法の適用がある。
(イ)転借人が故意により居室を毀損したことは、転貸人の賃貸人に対する債務不履行にあたる。
(ウ) 転借人は、転貸人に転貸料を前払いしていれば、賃貸人からの賃料の請求を拒むことができる。
(エ)原賃貸借契約が賃料不払を理由に債務不履行解除されると、転貸借契約も当然に終了する。
1.1つ
2.2つ
3.3つ
4.4つ
さて、いかがでしょうか。
それでは、問題文を改めて見てみましょう。
(ア)転貸人(賃借人)が賃貸人に行う特定賃貸借契約を締結する前の重要事項説明にて、賃貸人に対し、借地借家法第32条第1項(借賃増減請求権)ならびに第28条(更新拒絶等の要件)が適用されることの説明が必要となります。
よって、原賃貸借契約にも借地借家法の適用があることとなり、本文は誤りとなります。(「解釈運用の考え方」)
(イ)転貸人(賃借人)が原賃貸人との関係で借主の立場に立つことから、転借人は転貸人の履行補助者となります。そのため、転借人の故意・過失は転貸人の故意・過失と同視され、転借人が過失に基づき賃貸物件を毀損した場合、原賃貸人との関係では転貸人が責任を負います(大判昭和4年6月19日民集8巻675項)。故意責任の場合も同様です。
よって、記載の通り、正しいものとなります。
(ウ)賃借人が適法に賃借物を転貸した時は、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負います。この場合、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができません(民法613条1項)。
したがって、転借人は賃貸人からの請求を拒絶することができません。
(エ)原賃貸借契約にて賃料不払いによる債務不履行解除があった場合、当然に終了する訳ではありません。転貸借契約は、原賃貸借とは別の契約となるためです。原賃貸借が終了しても当然には終了せず、原賃貸人が転借人に対して建物の返還を要求した時に、原賃借人(転貸人)の転借人に対する債務不履行によって終了します(最判平成9年2月25日)。
よって正しいものはイのみとなり、正解は「1」となります。
◇
サブリース方式に基づき、オーナーとサブリース業者、そして入居者(転借人)がそれぞれどのような立場・関係にあるのか、理解は深まったでしょうか。
実務的にも、非常に重要なポイントとなりますので、複雑ではありますが、ぜひ今一度おさらいしておいていただければと思います。
(田中嵩二)
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