大泉学園駅南口。写真奥にはタワーマンション(筆者撮影)

東京都練馬区の北西部に位置する、西武鉄道池袋線の「大泉学園駅」。西武鉄道の全駅の中で8番目に利用者の多い駅だ。「日本アニメ発祥の地」として親しまれている場所でもある。

そんな大泉学園駅から見て北側のエリアは、鉄道路線の通らない「空白地帯」として知られている。住民は一度バスを利用して、大泉学園駅などの駅まで出てくる必要がある点はやや不便だ。

しかし現在、練馬区東側を走っている都営大江戸線が、そこに延伸するという計画が持ち上がっている。交通利便性の向上により、エリアの評価が大きく変わる可能性もあるだろう。

本記事では、現地を訪問して感じた大泉学園エリアの特色や、今後の見通しについて紹介していく。

なぜこんなに駅の利用者が多い?

大泉学園駅は、東京都練馬区にある西武池袋線の駅だ。池袋駅から15~20分程度のところにある。池袋線は、東京メトロ有楽町線・副都心線と相互直通運転をしているため、大手町、渋谷、横浜などにも1本で行くことができる便利な駅だ。

乗降人員は7万8557人(2023年度1日平均)。急行は止まらない(通勤急行は停車する)駅なのだが、西武鉄道の駅の中で第8位の多さだ。快速急行や急行が停車する、隣駅の石神井公園駅よりも多い。

西武池袋線路線図(出典:西武鉄道

なぜこんなにも、大泉学園駅を利用する人が多いのだろうか。

その答えの1つに、広大な駅勢圏があるだろうと筆者は考える。駅勢圏とは、その駅を利用すると期待され、需要が存在する範囲のこと。大泉学園駅は北口・南口の両方にバス乗り場があり、吉祥寺・阿佐ヶ谷方面行きや埼玉県の新座・朝霞行きなど、多くのバスが発着している。

この辺りは、東武東上線、西武池袋線、西武新宿線、JR中央線が走り、東西の鉄道交通網は充実しているが、南北の公共交通機関はバスが担っている。

バスの発着が盛んな大泉学園駅は、南北にまたがった広い地域の人が利用するのだ。もちろん、駅周辺にタワーマンションや住宅街があることは言わずもがなである。

商業施設も充実している。駅の北口・南口それぞれに、食料品店・生活雑貨店・飲食店などがそろった商業施設がある。どちらも、ペデストリアンデッキでつながる便利な場所だ。

北口には「グランエミオ大泉学園」があり、成城石井やカルディコーヒーファームなどが入っている。夜9時まで営業しており、仕事帰りに立ち寄るにも便利だ。南口には、昔から地元住民に親しまれている「ゆめりあフェンテ」がある。1階のスーパーは24時まで営業している。

ゆめりあフェンテ(筆者撮影)

駅の周辺にはタワーマンションが複数建っているほか、飲食店などが並ぶ商店街もあり、なかなかに活気ある印象だ。

日本アニメ発祥の地

駅北口を出ると、『鉄腕アトム』のアトムや『銀河鉄道999』の星野鉄郎とメーテル、『あしたのジョー』の矢吹丈などの銅像が出迎えてくれる。というのも、大泉学園は日本アニメ発祥の地として知られているのだ。

『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』を手掛けた漫画家・松本零士氏が長年、居を構えた場所でもある。

駅から徒歩15分ほどのところには、数々の名作を生み出し続けている「東映東京撮影所」や「東映アニメーション大泉スタジオ」がある。

大泉スタジオに併設された「東映アニメーションミュージアム」は入館無料で、昔懐かしいアニメから現在放映されているものまで、さまざまな作品に触れることができる。

東映アニメーションミュージアム入口(筆者撮影)

付近には商業施設、レジャー施設、映画館があるほか、「牧野記念庭園」など緑が多いのも特徴的だ。東京にいながら緑の中で散歩を楽しめる。

幹線道路から1本入ると、戸建てなどが並ぶ閑静な住宅街が広がっている。賑わう駅周辺から少し離れたエリアは、ファミリーに需要のある様子がうかがえた。

23区内では低めな地価上昇率

周辺の賃貸物件を探してみると、家賃の相場は、単身者向けの物件で5万5000~6万円、1LDK・2LDKで8万~9万円、ファミリータイプで9万~11万円ほど。物件の数は単身者用かファミリータイプが多い印象だ。

大泉学園駅がある練馬区の地価は、全国的な傾向と同じく、近年は上昇傾向が続いている。最新の2025年の地価公示では、住宅地が45万1400円、商業地が91万7700円(いずれも1平米あたりの平均価格)だった。

東京都財務局「地価公示価格(東京都分)」より筆者作成

対前年の変動率を見ると、23区内においてやや低めの上昇率となっていた。全用途平均で10%を超える地価上昇率となった区が多い中で、練馬区は5.7%の上昇にとどまった。

都営大江戸線の延伸計画の影響

そして、大泉学園駅周辺エリアを語る上で外せないのが、都営大江戸線の延伸計画だ。

現在の終点である「光が丘駅」(練馬区)から、大泉学園町方面に延伸する計画があり、検討が進められている。練馬区内に新たに3駅を設け、最終的にはJR武蔵野線の「東所沢駅」(埼玉県所沢市)まで延ばす構想だ。

新駅として、(仮称)土支田駅、(仮称)大泉町駅、(仮称)大泉学園町駅が整備される予定。西武池袋線の大泉学園駅と名称が似ているが、近い場所を通るわけではないようだ。

都営大江戸線の延伸予定図(出典:練馬区

延伸が計画されているエリアは、西武池袋線と東武東上線の間にある。両線の間隔が広いため、このエリアから鉄道駅まではやや距離がある。そのため、大泉学園駅までバスを利用する人も多い。距離的には都心に近いものの、交通利便性には課題がある。いわば「鉄道空白地帯」なのだ。

もし延伸が実現すれば、副都心方面への所要時間が大きく短縮され、バスとの乗換もなくなるなど、アクセスが大きく向上するだろう。

現在は、東京都副知事をトップとするプロジェクトチームにより検討が進められている段階。練馬区としても、延伸推進の基金を積み増しなどを行うなど、事業着手に備えて動いているようだ。

さらに、新駅の予定地など、すでに用地確保が進められている。(仮称)大泉学園町駅や(仮称)大泉町駅の予定地周辺では、市街地再開発事業や駅前広場の整備計画などの検討も進んでいるという。

延伸計画が動き出せば、新駅周辺のエリアはもちろん、大泉学園駅と新駅計画地に挟まれたエリアも、2駅利用可能となることで需要の高まりが期待できる。賃料や地価への影響も注視したい。

一方、これまで大泉学園駅までバスで出てから電車を利用していた層は、大泉学園駅を利用しなくなる可能性もある。延伸後は人の流れに変化が起こることも考えられるだろう。

さまざまな特色がある大泉学園駅周辺だが、大江戸線の延伸計画を含め、今後の行方が気になるところである。

(福本真紀/楽待新聞編集部)

福本 真紀
不動産・鉄道分野のフリーライター。鉄道会社に10年以上勤務していた経験を活かし、都市開発の最新事情やビジネス関連の記事を執筆する。趣味は鉄道巡り、街歩き。埼玉県出身。