「不動産競売」で自宅を買った漫画家・根本尚さんの実体験を描くルポ漫画、『競売物語』。札幌市の戸建てを345万円で落札し、無事に住み始めることができました。
しかし、競売物件は「購入後」もトラブルがいっぱい…。自宅として住むからには、そのすべてに自力で立ち向かわなければなりません。早速汲み取り式のトイレがあふれてしまいましたので、対応に奔走しています。
いっそのこと水洗トイレにしてしまいたいですが、そもそも家の「下水」ってどうなっているのでしょうか?
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【登場人物】


本作のあいづち役。北海道弁がチャームポイント
阿部弁護士のひとこと解説
丸の内ソレイユ法律事務所の弁護士、阿部栄一郎です。これまでに不動産トラブルを数多く担当してきました。『競売物語』に関連して、競売にまつわる豆知識や、私の元に寄せられたトラブル事例などをご紹介します。
解説:汲み取りトイレ、「接続義務」があるのになぜ?
本編でも出てくるとおり、下水道が整備された場合、汲み取り式トイレの排水設備を公共下水道に接続しなければなりません。これを「接続義務」といいます。
これは、下水道法11条の3第1項が次のとおり定めているからです。まずは原文を見てみましょう。
第十一条の三
処理区域内においてくみ取便所が設けられている建築物を所有する者は、当該処理区域についての第九条第二項において準用する同条第一項の規定により公示された下水の処理を開始すべき日から三年以内に、その便所を水洗便所(汚水管が公共下水道に連結されたものに限る。以下同じ。)に改造しなければならない。
「処理区域」とは、公共下水道が整備され、汚水が終末処理場で処理される区域のことです。
なお、下水道法「第九条第二項において準用する同条第一項の規定により公示された下水の処理を開始すべき日」とは、公共下水道を使用できるようになった日という趣旨です。
本編にあるように「下水道がその地域に作られたら、3年以内に下水道に接続しなければならない」ということです。
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では仮に、期限までに下水に接続しない―すなわち、汲み取りトイレから水洗トイレに切り替え切り替えなかった場合はどうなるのでしょうか。
下水道法11条の3第3項本文は、「公共下水道管理者が、違反者に対して、汲み取り式トイレから本水洗トイレに改造するよう命令をすることができる」旨を定めています。
さらに、この命令を無視した場合、違反者には30万円以下の罰金が科される可能性があります(下水道法48条)。刑事罰まで用意されているのは少し意外ですね。
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このような決まりがあるなら、この家の汲み取りトイレも期限までに水洗トイレに替わっていたはず…と思いましたか?
しかし実際のところは、建物所有者の金銭的な負担などもあるため、公共下水道管理者からの「命令」が出ること自体それほど多くないようです。
たとえば下水道法11条の3第3項ただし書きには、「建物の解体予定や移転予定があったり、資金調達が困難などといった事情があったりする場合には、公共下水道管理者は命令を出さないこともできる」といった内容があります。
(漫画:根本尚、監修/解説:弁護士 阿部栄一郎)
根本 尚/漫画家(X)
『プリンセス』(秋田書店)で連載中。 『怪奇探偵・写楽炎』(文藝春秋) 『現代怪奇絵巻』(秋田書店・週刊少年チャンピオン)、 『恐怖博士の研究室』(同・ミステリーボニータ)他。 同人サークル名、札幌の六畳一間。 北海道ミステリークロスマッチ会員。北海道の自宅を競売で取得した。
阿部 栄一郎/弁護士
2007年東京弁護士会登録。不動産オーナーや大家さんのサポートを中心に、不動産に関する問題の解決実績多数。賃貸借契約にまつわる建物明け渡しや賃料の回収、原状回復から不動産の売買契約等まで幅広い案件を担当しているほか、不動産関連のイベントや相談会などにも積極的に参加。不動産専門紙への寄稿も行っている。
『競売物語』作者の漫画家。北海道の自宅を競売で買った。