
PHOTO:スポッティー/PIXTA
2005年に開業したつくばエクスプレス(TX)は、2045年を目途に延伸する計画がある。
計画では、都内区間として現在の始発駅・秋葉原駅から南方向へ延伸し、JR東京駅に隣接する新駅を設置する構想が進められている。また茨城県内では、現在の終着駅であるつくば駅から東へ約10キロメートル延ばし、土浦市内に新たな終着駅を設ける案が検討されている。
さらに東京側の延伸計画においては、2040年開業予定の「都心部・臨海地域地下鉄」と接続する構想もある。
新駅が設置される土浦、東京駅に隣接して新設される新東京駅一帯はどのような場所なのか、延伸計画の概要と共にレポートする。
茨城県内の新駅設置場所は、4案から土浦に決定
つくばエクスプレス(TX)は第三セクターの首都圏新都市鉄道株式会社が運営、同社には東京都や茨城県、柏市やつくば市など沿線の自治体と民間企業が出資している。
TXの最高速度は時速130キロメートルで、秋葉原駅~つくば駅間の58.3キロメートルを最速45分で結んでいる。
途中の主要駅は流山おおたかの森駅、北千住駅、浅草駅などで、つくば市民の重要な交通手段となっているほか、流山おおたかの森駅をはじめ各駅周辺は新興住宅街として宅地開発も進んだ。
茨城県内の延伸計画においては、当初(1)筑波山、(2)水戸、(3)茨城空港、(4)土浦の4案が新駅の設置場所として検討されたが、2023年3月に県が設置した第三者委員会による土浦案の提言書を踏まえ、同年6月に土浦案に決定。
アクセスの利便性のほか、建設コストや収益性に優位性があったという。概算事業費は1320億円である。2025年2月に公表された事業計画素案によると、つくば駅から東へ約10キロメートルのJR土浦駅まで延長し、新土浦駅を設置、さらにつくば駅と土浦駅間に中間駅を設ける計画である。
つくば駅~新土浦駅間の想定所要時間はおよそ9分。現在は両駅間の移動はバスで約30分かかるため、大幅な短縮になる見込みだ。
JR土浦駅周辺の様子は地方都市そのもの

土浦駅駅舎:東口(筆者撮影)
JR土浦駅は土浦市の南側、霞ヶ浦にほど近い場所に位置する。
土浦市の人口は2000年に14.4万人のピークを迎え、以降減少に転じたが、新興住宅街の開発もあり2020年以降横ばいに推移、2025年3月時点で約14.1万人となっている。
常磐線の開通以来、駅周辺には大型マンションが立つなどベッドタウンとして機能してきたいわゆる地方都市の1つとも言えるエリアだ。
また、霞ヶ浦などの観光資源があるほか、毎年11月に開催される「土浦全国花火競技大会」など、市内外からの来場客を見込める大きなイベントも複数ある。
土浦駅を訪れてみた。
栄えているのは駅の西口側だ。再開発によって1997年に建てられた複合商業施設「URALA」がシンボルマークと言えよう。
URALAは地上31階建ての住宅棟「ソリッドタワー」と低層階の複合施設で構成されている。
低層階は当初「イトーヨーカドー」を中核とする施設だったが、2013年のイトーヨーカドーの撤退に伴い、2015年からは市役所の本庁舎として使われ、飲食・小売店もいくつか入居している。
URALA周辺にも低層の雑居ビルや店舗が並ぶ繁華街ではあるが、人通りは少なく車の交通量が多いように感じた。
駅から離れたエリアには住宅街が広がっている。古い戸建が多いものの、徒歩で10分歩いた場所にマンションも多く見られる。
都心への利便性の点から一定の住宅需要は今後もあると思われる。広い駐車場も多いので、開発の余地もありそうだ。

駅西口にある「ULARA」(筆者撮影)
一方、東口側は西口側よりも閑静な印象を受ける。線路に沿うように県道263号線が通り、「東横INN」などのホテルが数件あるほか、雑居ビルが並ぶ。
周辺一帯は住宅街でもあるため、駅近にはマンションも建っている。戸建が並ぶ港町を15分ほど東に歩けば霞ヶ浦にたどり着く。

駅東口から県道を望む(著者撮影)
マンションは古いもので1000万円を下回る
土浦は、上野からはJR常磐線の各駅列車で70分前後、特急を利用すれば最速40分強で着く。
中古マンション価格は駅近の新しい物件で3000万円を超えるが、徒歩10分強のところにある90年代に建てられた物件は1000万円を下回る。
参考までに売りに出ている物件を下記にご紹介する。ちなみに(1)はソリッドタワーの物件で、築30年以上の物件は1000万円を下回るものが多い。
(1)4LDK+S、1997年築、徒歩2分 …3780万円
(2)3LDK、2008年築、徒歩3分 …3280万円
(3)3LDK、1991年築、徒歩11分 …850万円
駅周辺は古くから街が形成されていることもあり、新築の戸建物件は見つけられない。しかし、駅から1キロ以上離れた場所では2000万円台後半で新築物件が売りに出ている。
中古の戸建においても同様で駅近での供給数は少なく、離れた場所では築年数にもよるがわずか数百万円の物件が売り出されている状況である。
昨今は都内近辺の物件高騰が進んでいるので、出社回数が少ないテレワーク勤務の人には現実的な物件があると言えるのではないか。とはいえ、古い物件が1000万円を下回る市場であるため、投資物件としては不向きかもしれない。
新東京駅は都心部・臨海地域地下鉄と接続を予定
東京駅への延伸計画も新土浦駅と同じく45年の開業を目指している。新駅の場所は現JR東京駅直下、丸の内側(仲通り)、八重洲側(日本橋エリア)の3案が出ており、いずれもTX秋葉原駅と同様、地下が想定されている。

新東京駅の設置候補地の1つである日本橋エリア(筆者撮影)
とはいえ、建設費の関係から現東京駅直下の可能性は低いだろう。そして、「都心部・臨海地域地下鉄」と接続する構想を踏まえると、同路線と同じ日本橋エリアに新駅が設置される可能性が高そうだ。
TX延伸後の秋葉原駅~新東京駅の所要時間は約3分。概算事業費は1750億円となっている。なお、都心部・臨海地域地下鉄は新東京駅を起点に勝どきや晴海などを通り、有明・東京ビッグサイトを結ぶ路線で2040年頃の開業を目指している。
現在、日本橋の南岸側では「日本橋一丁目中地区第一種市街地再開発事業」など大型の再開発事業がいくつか進んでいる。
川の上に首都高が走り、中層ビルが並ぶ殺風景な景色がおなじみだが、2040年頃には高架が撤去され高層ビルが建ち並ぶリバーサイドに生まれ変わっているだろう。そこに新駅の風景が加わるかもしれない。
注目すべきは延伸先ではなく途中駅エリア
2045年を目標に茨城と東京の両側で延伸する予定のTX。つくば駅から土浦駅、秋葉原駅から新東京駅の延伸による効果だが、終着駅を設置する周辺への影響は限定的と言えよう。
現在でも東京駅まで1本で行けるにもかかわらず、前述の通り駅周辺には駐車場が多いなど、大規模な開発が進んではいるわけではないからだ。
一方、流山おおたかの森など、都内に近い途中駅周辺ではさらなる開発が進むかもしれない。
現在のTXは秋葉原が終着点であり、やや中途半端な感も否めない。これが東京・日本橋まで1本で行けるとなれば、沿線の魅力は高まるだろう。TX沿線における延伸後の各駅周辺の不動産状況に注目したい。
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