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企業の決算から、不動産業界の現状について考える本連載。今回取り上げるのは「キムラタン」です。
ベビー用品や子供服を取り扱うアパレルメーカーとして知られている企業で、2010年代には250店舗を超える規模まで事業を拡大していました。
しかし、近年は一気に店舗の閉鎖を進めており、2024年12月末時点では5店舗まで規模が縮小しています。
その一方、最近注力しているのが「不動産事業」です。キムラタンは現在、アパレルから不動産業への転換を進めているのです。
同社は2022年、著名な個人投資家・木下孝之(たかゆき)氏が代表を務めていた「和泉商事」を買収して話題となりました。そしてそれ以降も、同社は不動産関連企業のM&Aを進めています。
今回は、そんな不動産企業への転換を進めている企業の現状を、決算から確認していきましょう。
10年で40億→13億まで売り上げ減少
キムラタンの不動産事業について見ていく前に、まずは同社のビジネスがどのように変化してきたのか確認したいと思います。以下は、2014年3月期以降の業績の推移です。

キムラタンの2014年3月期から2024年3月期までの売り上げの推移(単位=百万円、同社決算資料を基に著者作成)
2014年3月期から2019年3月期までは売り上げが縮小傾向で、2020年3月期は一定の拡大を見せています。
しかし、それ以降は再び減少傾向となり、2023年3月期はこれまで40億円台だった売上は35億円まで減少、2024年3月期には約13億円まで急激な減少を見せています。
続いて純利益の推移を見ていくと、2014年から2015年3月期は数百万円程度の黒字を確保しているものの、それ以降は継続して数億円単位の赤字が続いています。

キムラタンの2014年3月期から2024年3月期までの純利益の推移(単位=百万円、同社決算資料を基に著者作成)
2023年3月期には10億円を超える大きな赤字となったものの、2024年3月期に4000万円ほどとわずかながら黒字化しています。
まとめると、利益面はそもそも低収益で、2016年3月期以降は基本的に赤字継続でしたが、2024年3月期は黒字化を達成した――という推移ですね。売上・利益ともに変化の大きい企業だということが分かります。
売り上げと利益、変動の要因は?
では、どうしてこのような業績の変動があったのでしょうか? 転換点ごとの事業の状況を確認していきましょう。
まず、2010年代におけるキムラタンの事業セグメントは、すべてアパレル関連で以下の通りでした。
・リテール
ベビー用品店「Baby Plaza」などの店舗販売を中心とする一般消費者向けの販売
・ホールセール
総合スーパーなど業者へのアパレルの卸売り
・海外
中国を中心とした海外事業
ここで、若干の黒字を維持していた2014年3月期と、赤字となった2017年3月期について、それぞれの事業の売上とセグメント利益の推移を見てみましょう。

キムラタン 決算資料より作成
2014年3月期はリテールを中心として黒字となっており、そこから全社費用を引いても若干の黒字を維持できていました。
2017年3月期はリテール事業は増収ながら大幅減益となり、ホールセールや海外事業は大幅減収で赤字と苦戦した結果、全社費用を補えず赤字となっています。
なお、2017年3月期の増収は店舗数の増加が要因であり、リテールの売上は拡大したものの、収益性は大きく悪化し、2010年代の事業は全体的に苦戦傾向だったことがわかります。
また、先にグラフで示したとおり、2020年3月期の売上は拡大していました。これには、「中西」という子供服を展開する企業を買収したことが影響しています。この買収による影響を除くと、実質的には減収だったということです。
2020年3月期以降も減収が続いていますし、2010年代以降のアパレル事業は長期的な低迷が続いていたということですね。
「少子化」と「寡占化」で負のスパイラルに
では、どうして長期的に業績が低迷したのでしょうか? これには「少子化」と「寡占化」が影響しています。
ご存じの通り日本では少子化が続いており、それに伴って子供服の市場も停滞が続いています。一方、子供服を取り扱う企業が軒並み苦戦しているのか? というとそうではありません。
例えば業界最大手企業の1つである「西松屋」は、30年連続増収が続いており2025年2月期には最高益も更新しています。

西松屋「財務・業績ハイライト、業績予想」より
その他に子供服を扱う大手アパレル企業としては、「ユニクロ」や「しまむら」もあります。この2社は子供服が主力ではないため、子供服単独での業績は開示していないものの、売上は拡大傾向にあります。
現在の子供服業界では、ユニクロやしまむらのような、低価格帯の商品を展開する大手企業による寡占化が進んでいるということです。
事業規模が大きければ、当然それだけスケールメリット(たくさん作れば安く作れるなどのメリット)が効くようになります。大手企業は事業規模の拡大とともに、より競争力を高めて拡大を続けています。

PHOTO:ponta2012/PIXTA
このように、市場が停滞し大手の寡占化が進んでいる一方で、2010年代のキムラタンは先ほど見たように店舗数を増やしていました。
結果として過剰在庫の状況が続き、その消化のために値引き販売を拡大することで収益性が低下、それによってブランド価値も毀損する、という負のスパイラルに陥ってしまいました。
2020年3月期には再編を目指し子供服の事業を展開する中西を買収したものの、それも成果を見せられず、2010年代中盤以降は赤字が続くようになったというわけです。
アパレルは縮小、不動産事業を拡大へ
ここまで見てきたように、キムラタンは子供服事業では改善が見込めない状況でした。
さらに、赤字が継続したことで財務面も大きく傷ついており、2022年3月末時点での自己資本比率は3.8%、純資産は1億2000万円と、債務超過直前まで悪化してしまっています。
そういった中、2022年に大きな事業の転換を発表しています。それが「アパレル事業の縮小」と「不動産事業の拡大」です。
アパレル事業では、210店舗にも及ぶ大規模退店や本社人員の大幅削減を進め、EC中心への事業へ転換、大きく規模を縮小させ黒字化し、その一方で不動産事業を拡大させることで成長を目指す、と発表しました。

キムラタン決算説明資料より
実際、2023年3月期は大規模な店舗の閉鎖を進め、217あった店舗を9まで縮小しています。一方で、全国に約70の収益物件を所有する不動産賃貸業の「和泉商事」を買収し、不動産事業に参入しました。
先のグラフでは、2023年3月期は特に大きな赤字となっていましたが、これは店舗撤退のために大規模な閉店セールなどを行い在庫の消化を進めたことが影響していたわけです。
そしてポートフォリオの転換が進んだのが、2024年3月期です。2024年3月期の事業構成は以下のようになっています。

キムラタン 決算資料より作成
アパレル事業は赤字が続いているものの、規模が大幅に縮小したことで赤字の額も大幅に減少しました。一方で不動産事業が黒字となっており、それによって企業全体でも黒字化を達成しています。
構造改革の取り組みが一定の成果を見せていたことがわかります。
またキムラタンは、不動産事業に関する専門的な知見やノウハウは基本的に持ち合わせていないはずですから、事業拡大のためにはM&Aを活用しています。
前述の通り、2022年には全国に約70の収益物件を所有する不動産賃貸業の「和泉商事」を買収し不動産事業に参入したわけですが、2024年には静岡の伊豆で不動産賃貸業を行う「月光園」、宮城県でリフォーム工事や不動産賃貸業を行う「イストグループ」を買収、さらにメディカグループから新築不動産マッチングサイト「HOUSEリサーチ」事業を取得しています。

キムラタン「事業の譲受けに関するお知らせ」より
2025年に入ってからも、2月にはリノベーション事業や不動産特定共同事業を行う「SwanStyle」、3月には福岡県南部に15棟の賃貸用戸建住宅を所有する不動産賃貸業の「九建機材」を買収するなど、矢継ぎ早に企業買収を進めています。
資金調達はどうやって?
さて、キムラタンは2022年3月期時点では債務超過目前となっていたわけですが、なぜこれだけの買収を行えているのでしょうか?
それはやはり、キムラタンが上場企業であり、資金調達力が高いということが影響しています。
2022年3月期には純資産が1億2000万円となり、債務超過目前となっていましたが、DES(デット・エクイティ・スワップ)の活用や増資を行うことで、直近の2025年3月期の3Q時点では純資産が11億3000万円まで回復しています。

キムラタン「2025年3月期 第3四半期決算短信」より
もちろん非上場企業でも、DESや増資などは可能ですが、圧倒的に上場企業の方が容易です。
上場企業はそれ以外にも多様な手段で資金調達がしやすいですから、そういったメリットを活用して資金調達し、その資金でM&Aを進めているということです。
ここで、直近の2025年3月期の3Qまでの業績を見ていきましょう。

キムラタン 決算資料より作成
大幅な増収で営業利益も大幅増益、一方、経常利益は改善はしたものの赤字継続、純利益は赤字転落となっています。
純利益が赤字となったのは、前期の固定資産売却益などの一時要因の反動、税金負担の増加です。前期は純利益が久々に黒字化していましたが、これには一時要因もあったということですね。
経常利益の赤字が続いているのは支払利息として6600万円ほどの負担があったことが影響しています。不動産事業を買収したことで支払利息が拡大しており、経常利益ベースでは黒字化には至っていないことが分かります。
不動産事業は拡大しているもののまだまだ低収益であることは変わらず、一定の苦戦が続いています。
主要な事業セグメントにおける前年同期比の数値も見てみましょう。以下の通りです。
■売上高(2024年3月期3Q→2025年3月期3Q)
不動産事業:6億1000万円→10億1000万円
アパレル事業:2億8000万円→2億7000万円
■利益
不動産事業:9000万円→1億9000万円
アパレル事業:-7000万円→-7000万円
積極的な買収を進めた不動産事業が拡大していますが、アパレル事業が黒字化に至っておらず、収益性改善の取り組みには遅れが見られますので、その進捗に注目です。
また、2024年や2025年に入ってから買収した企業も多数ありますので、そういった企業が通期で業績に貢献する2026年3月期からは、さらなる不動産事業の成長が期待されます。
とはいえ、積極的な買収を進めたのは2024年に入ってからです。
2022年に買収した和泉商事は、これまで利益に貢献しており成果が見られますが、それ以外の案件の成否はまだ不透明です。
キムラタンは不動産事業に参入したばかりであり、どれだけの知見を保有しているのか不透明です。買収後にどれだけシナジーを生み出していけるかも分かりません。
買収の失敗が今後出てくる可能性もありますので、まだまだ今後の動向には注意が必要そうです。
(妄想する決算)
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