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確定申告後に「申告漏れ」が発覚―。そんな経験をした人はいるだろうか。
今月初旬、プロ野球・坂本勇人選手(巨人)に約2億4000万円の申告漏れが発覚したというスクープが報じられた。
坂本選手は料亭やクラブでの飲食代のほか、自主トレにかかった費用を業務上の必要経費に含めて計上。年俸などから差し引いて所得税を申告していたという。
取引先などとの会食に伴う費用は、一般的に「交際費」として扱われ、不動産投資の経費としても認められている。経費をなるべく多く計上し、所得を抑えて節税に努めている投資家も多いだろう。
飲食代などは「仕事」と「プライベート」の境界があいまいになりやすく、経費になるかどうか微妙なケースもある。
今回は、主に「交際費」を計上する際の注意点について、大家さん専門税理士でKnees bee税理士法人副所長の大野晃男氏に話を聞いた。
また、ベテラン投資家は交際費などの経費を計上する上で、どのような点に気を付けているのかも聞いた。
大家さんの「必要経費」はどこまで認められるか?
報道によると、税務調査を行った東京国税局は、坂本選手が2022年までの過去3年間に経費として計上した2億4000万円について、収入を得るために必要な支出にはあたらないとして、所得の申告漏れを指摘した。
過少申告加算税など約1億円の追徴課税を受けたが、悪質ではないとして重加算税は課されなかった。すでに修正申告を行ったとみられる。
不動産投資においても、大家仲間などで会食する機会はあるだろう。あるいは、遠方の物件の視察や取引のために、飛行機や新幹線などで移動し、宿泊を伴う「出張」を行う場合もあるだろう。
これらの費用は、果たしてすべてが「経費」として認められるのか、確定申告の際に迷ったことがあるという人もいるのではないだろうか。
「飲食費であっても、交通・宿泊費であっても、業務上必要な経費であることを証明できれば、万が一税務調査が入っても問題ありません。そのためにも、領収書は保管し、どんな目的で誰と会ったのかなどを記録しておくことは必要です」(大野税理士)

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不動産投資の経費といえば、代表的なものとして、退去が発生した時にかかる原状回復費用、管理会社に支払う管理費、物件の固定資産税・都市計画税などが挙げられる。
そのほかに、物件の見回りや視察などにかかる交通費、セミナー参加費や書籍代などの研修図書費なども経費として認められており、大家仲間同士の情報交換のための食事会などは交際費に含むことができる。
一方で、税務調査官からみて、大家業は「交際費がかからない業種」と認識される傾向があり、交際費が多めだと怪しまれるケースもあると大野税理士は指摘する。
大野税理士が実際に担当している大家さんの中には、入居者の満足度を上げるために建物の飾りつけをしてクリスマス会を開いたり、入居してくれた人に商品券をプレゼントしたり、入居付けをしてくれた不動産会社に菓子折りを持って行ったりといった「営業努力」を日常的に行っているケースもある。
「このような実情を知らずに、大家業には交際費がかからないと決めつけてくる調査官もいます。しかし、こうした営業努力は売上を上げるために必要なことと言えます。よい物件を購入するためには、大家仲間と情報交換する場も重要です。万が一、税務調査が入っても、業務上必要な経費であることを堂々と説明すれば問題はないでしょう」
料亭や高級クラブでの会食はアリorナシ?
不動産投資においても、情報交換のための会食費などは経費として、収入から差し引くことができるという話をしてきた。では、その会食場所が料亭やクラブなどでも、経費として認められるのだろうか?
この点について、大野税理士は「一概にダメということではありませんが、1回あたりの金額が大きいとか、頻度があまりにも多いと怪しまれてしまう可能性があります。なぜ、そのお店でなければならなかったのか、調査官を納得させる理由が求められます」と話す。

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また、遠方の物件を所有する投資家の場合、物件の見回りや視察と個人的な旅行を兼ねて家族や友人と移動したり、食事をしたりすることもあるだろう。このような場合の経費計上の仕方について、大野税理士は次のように説明する。
「プライベートな部分と業務の部分を何らかの客観的な基準で分けることが必要です。例えば、5日間の旅程のうち2日を物件の視察に充てたのなら、かかった費用のうち5分の2は経費として計上する。もしくは、家族旅行を兼ねた視察の場合で4人家族のうち法人の役員が自分1人だけであれば、かかった費用の4分の1だけを経費にする、といった具合です」
本当に業務が含まれていたことを証明する材料として、視察でもらった物件資料や案内してくれた担当者の名刺、現地で撮影した写真なども残しておくとよいという。
税務調査が来るタイミングは?
3月で確定申告が終わり、ひと息ついている人も多いだろう。しかし、提出した書類に申告漏れなどがあった場合、ある日突然、税務署からの「お尋ね」が来たり、税務調査の連絡が入ったりする可能性がある。
大野税理士によると、税務署からの連絡は確定申告後まもなく来る場合もあれば、時間が経ってからくる場合もあるという。

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「申告から数年後に税務調査が入り、過去にさかのぼって修正を求められることもあります。仮にプライベートの費用が一部経費に含まれていたとして、今年指摘されなかったからと言って、『OK』と解釈するのは危険です。税務署に『泳がされている』可能性もあります」
確定申告後、すぐに税務調査が入るような場合、以前から税務署に目を付けられていた可能性が高いそうだ。
また、明らかに怪しい点がないとしても、税務調査が入ることもある。「不動産所得を赤字にして、損益通算で所得税の還付を受けている高年収のサラリーマンは狙われやすい」(大野税理士)という。
悪質な場合は「重加算税」も
意図的ではなくても、「申告漏れ」は生じうる。申告後に自らミスに気付いたら、どのような対応をとればよいのかについても、大野税理士に聞いた。
この場合、その年の申告期限の前か後かで、「ペナルティ」の有無が決まる。申告期限前に気付いて「訂正申告」を行う場合、もう一度申告書を作り直すことにはなるが、ペナルティは発生しない。
一方、申告期限後に申告漏れが発覚した場合は「修正申告」が必要になり、「過少申告加算税」として追加税額の10%に加えて、延滞期間に応じた「延滞税」がペナルティとして課される。
さらに、悪質な場合は「重加算税」として追加で納めなければならない税額に対して35%のペナルティが加算される。領収証を捏造して架空経費を計上する「仮装」や売り上げの一部を除外する「隠ぺい」がこれに当たる。
ベテラン投資家はどうしている?
では実際、投資家はどのような点に注意しているのだろうか。
「交際費というのは非常にあいまいなものです。特に、法人は個人事業主よりも経費の範囲が広いため、なんでもかんでも経費で落としたくなる気持ちもわかりますが、節度を持たないと後でしっぺ返しをくらうことになると思います」
こう話すのは、不動産投資歴30年のMOLTAさん。不動産投資家向けの交流サロンを主宰する傍ら、宅建業者としても活動しており、会員を集めた会食や不動産会社と食事をする機会もあるという。
「これらは、会員になってもらうための営業活動や、不動産会社との付き合いの一環として法人の交際費に入れています」
購入を検討している物件を視察するための「旅費交通費」も法人の経費として計上することができる。ただ、視察という名目で頻繁に経費を計上するのは無理があると考えている。

交際費などの経費を計上する際に気を付けていることを話すMOLTAさん
「頭金がある程度求められる時代ですから、物件を購入するとしても、普通はせいぜい年に1~2棟ですよね。そんな中で、先週は北海道、来週は沖縄で物件調査に行きました、なんていうストーリーは通用しづらくなっていると思います」
自戒を込めてこう話すMOLTAさん。自身が保有している遠方の物件に家族を連れて行った際には、どのように経費として処理するか、税理士に相談して決めたそうだ。
「こんな物件を持って不動産業をやっているんだよと、両親や子供たちに見せる目的で、家族6人くらいで地方に行ったことがありました。その時は、妻だけを法人の役員に入れていたので、私を含む役員2人分だけを経費に計上し、それ以外のメンバー分は除外しましたね」
MOLTAさんは、領収書の管理にも気を付けている。会食時に発行してもらった領収書の裏に「誰と行ったか」「何を話したか」など手書きのメモを残すようにしている。
「例えば、大人数で食事をして、いったん僕が立て替えて、あとでみんなから現金やPayPayで支払ってもらうこともありますが、そういう場合も領収書にメモを残して10人で5万円だったら自分の分の5000円だけを経費計上する、といった感じです」
備品の交換などが発生した際も、どの物件にかかった費用なのかが後から区別できるように領収書にメモを残している。さらにメモ以外にも、会食などのスケジュールは基本的にGoogleカレンダーに登録して、後日確認できるようにしている。
「今までに税務調査を受けたことはありませんが、今後もし税務調査が入って、会食の目的などを聞かれてもきちんと説明できる自信はあります」
◇
税務当局が坂本選手への申告漏れを指摘した背景には、高所得者が多いプロ野球界をけん制するための「見せしめ的な意味合いがあったのでは」との見方もある。
推定年俸5億円ともいわれる坂本選手。収入が増えるほど節税への意識が高まるのは不動産投資家も同じだが、今回の一件を他山の石とし、日頃から緊張感を持って賃貸経営に臨んでほしい。
(楽待新聞編集部)
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