JR千歳駅前(2025年3月・筆者撮影)

2024年の公示地価において、商業地の上昇率48.8%と全国第1位を獲得した北海道千歳市。

人口10万人に満たないこの街が、半導体製造企業「Rapidus」(以下、ラピダス)の進出により、大きく変わりつつある。

2025年春に同社の試作ラインの稼働がリリースされた今、街はどうなっているのか。現地よりレポートする。

北海道の空の玄関口・新千歳空港のある街

北海道中部にある千歳市は、2025年3月1日現在で人口9万7148人(出典:千歳市「住民台帳」)と、10万人に満たない規模でありながら、独自の魅力を持つ街だ。

まず千歳市を語るうえで欠かせないのが、北海道の玄関口である新千歳空港の存在である。

新千歳空港国際線ターミナルビル(2025年4月・筆者撮影)

新千歳空港はJR札幌駅から約45キロメートルほどの距離に位置し、最短33分で札幌駅へアクセスできる。

札幌市内と比較して降雪・積雪量が少ない千歳市は、札幌圏において空港建設に適した地理的条件があったとされている。

北国でありながら冬季でも安定した運用が行われている新千歳空港は、2023年には年間利用者数が2200万人を超え、現在はコロナ禍前の水準に戻りつつある

国際線の需要も回復してきており、新千歳空港を運営する北海道エアポート社は、国際線の更なる受け入れに向けた応需体制の拡充を中期事業計画で発表している。

また、市内には陸上自衛隊東千歳駐屯地・北千歳駐屯地、航空自衛隊千歳基地などがあることから、自衛隊関係者が多く居住しているという特徴もある。

自衛隊基地の存在は若年層人口の確保にも寄与しており、千歳市の高齢化率の人口比率は、2024年1月1日現在24.1%と、北海道内の自治体の中で最も低い(出典:北海道「北海道の高齢者人口の状況(高齢化率順 )」)。

本格始動に向け着々と計画を進めるラピダス

千歳市において、近年最も大きなトピックが2022年に設立された半導体企業ラピダスの進出だ。

国内大手企業による出資や政府からの開発費支援もあり、設立当初から注目を集めたラピダスは、千歳市の工業団地「千歳美々ワールド」を半導体の製造拠点に選定。

建設中の工場が新千歳空港からの出発ロビーからよく見えることもあり、大きな話題となった。

新千歳空港滑走路の向こうに見えるラピダス工場(2025年3月・筆者撮影)

ラピダスはすでに稼働開始に必要な半導体製造装置の設置を完了しており、2025年4月1日には量産化技術確立のためのパイロットラインの立ち上げ開始を発表。2027年の量産開始を目指し、着実に動き出している。

千歳市内道路よりラピダス工場をのぞむ(2025年3月・筆者撮影)

ラピダスの進出・稼働と並行して、市内は半導体企業が集積する拠点となりつつある。そのため千歳市では公式サイト内に半導体情報のページを立ち上げ、ラピダスの動向のほか半導体企業マップなどを掲載するなど、「半導体の街」としての施策を打ち出している状況だ。

JR千歳駅周辺は大型ビル建設ラッシュ

千歳市はもともとオフィスビルの供給が多い地域ではないことから、ラピダスの進出によるオフィス用スペースの不足が懸念されている。

JR千歳駅には、2004年に開業した複合ビル「千歳ステーションプラザ」が隣接している。

ビジネスホテル、医療モール、ショップ、レストラン、立体駐車場のほか、オフィステナントもあり、堀場エステック、ASMASML JAPANパン、東京エレクトロンFEなど複数の半導体関連企業がすでに入居している。

しかし、開業から20年以上経過している同施設だけでニーズを賄うことは困難であろう。

「千歳ステーションプラザ」外観(2025年4月・筆者撮影)

この状況に対応すべく、現在、駅東口側にてアルファコートによる新築計画が進行中だ。当該ビルは7階建て、延べ面積3896平方メートルで、2026年春の竣工を目指しているという。

JR千歳駅周辺は、オフィスだけでなく宿泊施設の不足も懸念されている。以前から駅前には空港利用者の宿泊を想定したビジネスホテルが複数あるものの、ラピダスの進出により関係者のホテル利用が増加しているからだ。

こういった状況を受け、「ホテルクラッセステイ千歳」が2025年1月に新館をオープンしたほか、駅周辺ではほかにも複数のホテルの新築計画が進んでいる。

これら大型ビルの建設ラッシュによる再開発が街の今後にどのような影響を及ぼすのか、動向に注目したい。

ラピダス効果で上昇が続く千歳市の地価

JR千歳駅前の目抜き通り(2025年4月・筆者撮影)

JR千歳駅周辺の住宅事情に目を向けてみよう。

まず注目すべきは、市内における地価の上昇率だ。

2024年9月に公表された基準地価の前年比上昇率では、千歳市栄町が24.5%と道内で最も高い値となった。

現在、JR千歳駅の徒歩15分圏内の単身者向けマンションは、概ね築10年未満であれば5万円を超え、築30年を超える物件でも3万5000円以上で募集されている。これは札幌市内の地下鉄駅近物件と同等、あるいはそれ以上の賃料水準だ。

千歳市内には2つの大学があるが、こうした状況は学生の賃貸事情を厳しいものにしているかもしれない。

ラピダス進出の効果が、千歳市の今後の住宅事情にどのくらい影響を及ぼすのか、注目していきたい。

さらなる街の発展への寄与が期待される再開発候補地

JR千歳駅周辺以外でも、今後の利用方法が注目されている土地がある。

JR南千歳駅前の大規模商業施設「千歳アウトレットモール・レラ」だ。

開業以来、道内最大規模のアウトレットモールとしてにぎわいを見せてきた同施設だが、周辺地域における競合施設が増加の影響などから徐々に衰退。

2024年1月の施設側による運営終了告知以降、テナント撤退が相次ぎ、2024年11月をもって大規模小売り店舗としての営業を終了。現在は契約が残っている4店舗のみ営業している状態だ。

JR南千歳駅側から見た「千歳アウトレットモール・レラ」入口(2025年4月・筆者撮影)

敷地面積はおよそ2万7000平米で、ラピダスから直線距離で4キロメートルほど、さらには南千歳駅前という好立地のため、今後の展開が期待されるエリアである。

千歳市は国立公園である支笏湖などの観光資源もあり、多彩な顔を持っている。

商業地の急激な上昇により一部でバブルの懸念もささやかれる一方、ラピダスの本格稼働はまだ先であり、息の長い効果を期待できるという声もある。

さらに、インバウンドによる新千歳空港の利用者の増加も見込めることから、今後の伸びしろが期待できる街と言えよう。

(羽田さえ/楽待新聞編集部)

羽田 さえ
札幌在住のフリーライター。不動産デベロッパーでの勤務経験があり、保有資格は宅建士・FP技能士2級。新築物件も古民家もヴィンテージマンションも大好きです。