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住宅需要の変化には、働き方や価値観の多様化など、さまざまな社会的背景がある。中でも、近年増加しているのが「地方への移住」だ。

東京のマンション・住宅価格が高騰を続ける中で、広さを確保するために都心から離れたり、テレワークの定着によって都心に居を構える必要性が低くなったり、地方への移住にもいろいろな理由があるだろう。

今回は、総務省の「2023年度における移住相談に関する調査結果」と認定NPO法人ふるさと回帰支援センターが2024年に実施した「地方移住に関するアンケート」から、近年の移住の動向を探ってみたい。

移住相談件数は宮崎県が全国トップ

総務省では、2015年度より「各都道府県及び市町村の移住相談窓口等における相談受付件数等に関する調査」を実施している。

各都道府県及び市町村の移住相談窓口等における相談件数は、統計を取り始めた2015年度以降、新型コロナの感染拡大がピークだった2020年度を除き、増加し続けている。

総務省「各都道府県及び市町村の移住相談窓口等における相談受付件数等に関する調査」より著者作成

特に、2016年度は前年度比50.6%という増加率を記録した。その後も2020年度を除き、相談件数は前年度比10%を超える増加が続いている。

各都道府県が設置している常設の移住相談窓口は、2023年度時点で179カ所あり、相談件数は前年度比3万8103件(10.2%)増の40万8435件と、いずれも過去最多となった。

この調査結果では、都道府県ごとの相談件数や窓口も公表されている。相談件数の多い順に並べてみると、2023年度のトップ10は以下のようになった。

総務省「各都道府県及び市町村の移住相談窓口等における相談受付件数等に関する調査」より著者作成

前年度17位だった宮崎県が1位に躍進し、相談件数は前年度の8782件から2万2548件と2.5倍になった。

その背景の1つには、宮崎県都城市の手厚い支援が影響していると見られている。報道によると、県全体の相談件数のうち約7割が都城市への移住に関するものだったという。

都城市は、ふるさと納税による寄付を財源に、移住検討者に宿泊費や交通費の補助を行ったり、将来の人材確保のために奨学金返還の支援事業を行ったりしている。

なお、トップ10に関東地方の県は1つも入っておらず、北海道、四国地方、九州地方の県が多くランクインしている。

ふるさと回帰支援センターの相談件数も増加

一方で、認定NPO法人ふるさと回帰支援センターの「地方移住に関するアンケート」の結果は少し様相が違う。

同センターは全国約650の自治体と連携し、移住に関する情報を提供している。また、東京都千代田区にあるため、関東地方の在住者からの相談が中心となっている。

2024年の結果によると、移住相談件数(面談・電話・メール・見学・セミナー参加)は6万1720件だった。2023年の5万9276件に対し4.1%増となり、4年続けて過去最高を記録した。

総務省の調査に比べて相談件数の総数は少ないが、ここ10年間の相談件数の推移をみると、2015年時点(2万1584件)から相談件数は約2.8倍になっていることがわかる。また、新型コロナの感染拡大がピークだった2020年を除き、右肩上がりの増加だ。

認定NPO法人ふるさと回帰支援センター「地方移住に関するアンケート」より著者作成

群馬県・静岡県が人気、世代による違いも

次に、同センターがまとめた移住希望地ランキングの3年間の推移を見てみよう。窓口相談の希望者数は2022年、2023年と静岡県が1位だったが、2024年は群馬県が1位となった。

一方、自治体などが開催する、移住に関するセミナーの参加者数は、2022年に広島県が、2023年と2024年は群馬県が1位となった。

認定NPO法人ふるさと回帰支援センター「地方移住に関するアンケート」より著者作成(2022年の窓口相談件数は、群馬県・神奈川県が同数で9位)

同センターによると、群馬県は「漠然と地方移住を考えはじめたライト層」「伸び伸びと子育てをしたい層」から注目を集めているという。

また、「アクティブな50代におけるセカンドライフへの需要」や「首都圏へのアクセスの良さ」、自然環境に魅力を感じての「テレワーク移住」などの観点から相談されることもあるようだ。

静岡県については、「東京からのアクセスや気候の良さなどから、もともと移住候補地に上がりやすい」と指摘した。

窓口相談者の年代別で移住希望地ランキングを見ると、群馬県は20代以下~50代で1位、60代で2位、70代以上で3位となっており、どちらかというと若年層からの人気を集めていることがわかる。

認定NPO法人ふるさと回帰支援センター「地方移住に関するアンケート」より著者作成

静岡県は20代以下で3位、30代~50代で2位、60代~70代以上で1位と、比較的年配者に人気だ。

また、栃木県と長野県は3位と4位を取り合っているような状況だ。東京への交通利便性から若い世代は栃木県を選び、軽井沢などのリゾートを抱える長野県は40代以上を中心に注目されているのかもしれない。

総務省とふるさと回帰支援センターの調査で、共通してトップ10入りしているのは長野県、福島県、北海道、静岡県となった。

このほか、総務省調査で1位となった宮崎県や、ふるさと回帰支援センターの調査で1位となった群馬県も、移住先として人気だと言えるだろう。

不動産投資は東京など大都市圏に目がいきやすいが、移住需要に目を向ければ、地方都市でも投資妙味が得られる地域がありそうだ。

(鷲尾香一)