ゴキブリや虫が発生、悪臭がするとすでに悲惨な部屋になっている
「ええっ!? ごみ置き場? 部屋??……」
部屋の玄関を開けたとたん、背丈ほどまでに積み上げられたごみの周りにハエが飛んでいる……。悪臭で息ができない……。
全国的に社会問題となっている「ごみ部屋」、「ごみマンション」、「ごみ屋敷」のトラブル、不動産オーナーにとっては人ごとではないでしょう。
今年7月、奈良県五條市で、元教師の女性が自宅前の道路に家財道具などを大量に積み上げたことによる道路法違反の疑いで逮捕される事件がありました。これまで行政としてなす術がなかったごみ屋敷問題に、警察が踏み込んだことで話題となりました。
「ごみ部屋にされる」ことは、オーナーにとって具体的にどんな問題が起こりえるのでしょうか。「快適で安全な暮らしへのアドバイス」をモットーに活躍する、不動産アドバイザーの穂積啓子さんに詳しいお話を伺いました。
「ごみ部屋で最も懸念されるのは、火災です。腐敗した生ごみから出たガスで火がつきやすくなり、実際に入居者が焼死された事件もあります。
次に、腐敗臭、ゴキブリ、ハエなど害虫の発生による近隣への迷惑です。汚物と生ごみが混じり合う、ペットの遺骸が放置されていたという事例もあります。悪臭や害虫が発生した時点で、すでに部屋の内部は想像の域を超える事態になっていると予想されます。
隣家のごみ屋敷の住人を殺害したという事件がありましたが、そういった事件まではならずとも、近隣の住民の不快感は察して余りあります。
さらに、『ごみ部屋を残して夜逃げされる』という例もよくあることです」
ごみ部屋が事件事故物件に……。害虫の巣窟に……。あげくにどろん……。
さらに穂積さんは、「退去時に、排水管が詰まって水回りが使えない、壁のクロス、床、トイレや風呂の汚損もひどく、原状回復にいたらないケースは多々あります」と追い打ちをかけるように悲惨な状況を伝えます。
ごみ部屋の住人は見た目で判断できない
30代前半、一人暮らしの女性、会社員のケースをご紹介します。
「身なりも髪型も化粧も雰囲気も、きれいな方だなあと思う、ある中小企業の社長のお嬢さんでした。入居されて3カ月目、『キッチンの排水ができない』と呼ばれて駆けつけたところ、玄関を開けた時点で鼻を突くような臭いが漂っています。靴とごみが散乱し、スリッパがないので靴を脱いで上がることにちゅうちょするほど、床も汚れていました。
そこで女性にお願いし、新聞紙を敷いて上がりました。それでも足元がねちゃねちゃする感触があります。キッチンに行くと不穏な予感は的中しました。流し台のごみ受けに、麺や食べかすがぎっしりと詰まってあふれていたんです。
その状態で排水ができるわけがありません。周囲には洗っていない汚れたなべや食器が積まれたままで、食べ物の腐った臭いを放っています。洗面所にも食事の残がいを流したあとがあり、詰まる寸前でした。小虫もいます。
バスタブはごみ集積場のよう、トイレにはペーパーの芯が何十個も散らばり、壁も便器も汚れ果てたありさまです。
1DKの部屋のベッドの上には、着替えた洋服や下着が散らばり、周囲にはごみを入れたコンビニのビニール袋が無数に積み上げられ、また床全体に生ごみやペットボトル、空き缶、カップ麺が残り汁ごとむき出しで散乱しています。
この女性は広告代理店勤務で営業の仕事をされているとかで、いつもスーツを着ておられました。明るいタイプではありませんが、見た目に不潔感はまったくありません。
ごみ部屋の住人だけは、見た目では判断できないんです」(穂積さん)。
どう対処されたのでしょうか。穂積さんは、こう続けます。
「同行した男性社員と二人で流し台の掃除をして、一時的になんとか流れるようにしましたが、油汚れで排水溝が汚損しているのは明白でした。
そのときの女性の様子? 黙って知らない顔をしていましたね。
『どうしてこうなったの? これだけの虫、平気なの?』と問うと、『虫がいるのは知っているけれど、ごみに紛れ込むので捕まえられない』、『除菌消臭スプレーを何度か使ったけど意味がないのでやめた』、『臭い、しますか? 私は感じない』という返答でした。
つまり、『自分がごみ部屋にしている』、『異様な事態だ』という自覚はないのでしょう。だから『排水溝が故障した』と思って連絡してこられたのですね」
部屋の始末は、
「連帯保証人である親御さんに連絡すると、『清掃業者に頼んで』とのことでした。費用を出されるわけではないので、わたしから女性にそのように説得し、清掃時には私とオーナーも立ち合いました。オーナーは臭いやゴキブリで気分が悪そうで、立っているのがやっとの様子でした。
業者はスタッフ2名で5時間、ごみは3トン、荷物撤去と清掃、除菌消臭代を含めて、97,000円。それでも割引してもらった値段です」(穂積さん)
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