ごみの積み上げは「ひざの下まで」のうちに解決する

その後、女性の暮らしは改善されたのでしょうか。
「お母様によると、『子どもの時から掃除ができない子でねえ』、また、『長く精神科に通っている』ということでした。

女性のことも部屋のことも心配だったので、月に1~2度は訪問するようにしました。一度見られているからか、ごみを処理しようと思ったのか、わたしだけは部屋に上げてくれていたんです。

そこでごみ処理の仕方を細かくお教えし、一緒にごみを捨て、掃除を手伝うなどもしました。1カ月するとでまたため込んでいましたが、ごみの量は少しづつ減っていたように思います。

1年後に、親御さんが女性に分譲マンションを購入され、そこへ移転されました」

この女性の例からしても、なぜごみ部屋になったのか、という理由を把握することは今後の予防につながりそうです。女性の場合は、ごみを捨てるという行為が日常にはなかったのでしょう。

別の男性(26歳・会社員・独身・一人暮らし)のケースでの原因について、穂積さんはこう説明します。
「入居してすぐ、『ごみの分別が悪い』と同じマンションの人に厳しく注意されたことをきっかけに、『その人に会うのが嫌で、ごみ置き場に行けなくなった』、『分別の方法が分からないし』と、2年近く部屋にごみをためていた人がいます。この理由はけっこう多いんです」

ごみ置き場での近隣トラブルは多いとよく聞きますが、2年とは……ごみも積もれば負債になるわけです。誰かが気付いて話をすると改善されるのでしょうか。
早期に発見できると、周囲の人の援助次第で解決できると思います。早期とは、わたしの勘では、ごみが床全体に敷き詰められているとして、自分のひざの下までにとどまっている状態です。その時点なら、改善率が高いと思います」(穂積さん)

追い詰めると、ごみを放置したまま夜逃げ……

解決できなかった、こういう例もあります。
「トイレの汚損が激しく、オーナーの依頼で管理会社が連帯保証人である親御さんに連絡し、善管注意義務違反で契約解除、つまり退去を通達された男性(38歳・会社員・独身・一人暮らし)もいます。真面目そうな方で、家賃もきっちり払っておられたそうですが……」と、穂積さんは悲劇的な結末を憂います。

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『不動産屋は見た! ~部屋探しのマル秘テク、教えます』
(東京書籍)より。原作・文 朝日奈ゆか、漫画 東條さち子

その人たちの部屋には、親せきや友人が訪問することはなかったのでしょうか。退去させられる前に、何らかの方法はなかったのでしょうか。

穂積さんは、こう分析します。
「先の女性ですが、ある雨の日、マンションの入り口に停めた乗用車の中で、同年代の男性と2人でお弁当を食べられているところを見かけたことがありました。

『ああ、部屋には呼べないのだな』と思ったものです。ここまでごみを積んだ部屋の住人たちが、誰かを部屋に招き入れることはありません。絶対に見られたくない、と思っています。

一方で、ごみ部屋での生活に慣れてきて、片付けようという気持ちは失せ、自らその環境になじんでしまうのではないかと推測しています。火災や事件になる可能性は想定外でしょう」

「ごみ部屋にして夜逃げ」の例も続きます。
「『返事がないので部屋で倒れているかもと心配になり、連帯保証人の許可を得て部屋を開けたら、無人のごみ部屋だった。住人はそのまま行方知れず』というパターンです。

『ごみ部屋の住人が家賃を滞納している場合、追い詰めるとごみを放置したまま夜逃げすることも』ということはオーナーとして想定しておきましょう。

ごみの上で息を引き取られていたという事件もあるのですから、どのようなことも起こりえると考えておくべきでしょう」(穂積さん)

オーナーにとってはあまり想定したくない例ばかりです。予防する方法はあるのでしょうか。穂積さんは、経験に基づいて次のように話します。
「縁あって入居された方です。オーナーや管理会社なら、少しでも快適に暮らしてほしいと思い、対処するようにしたいものです。

繰り返しますが、ごみ部屋の場合、身だしなみや外見はきちんとした方が多いのです。前回の記事『第3回 部屋で違法行為! 水道代は物語る』でお伝えしたような、入居時の審査を慎重にしたとしても、こればかりは事前に見抜くことはできません。

ただ、『消防や設備の定期点検のときに、さまざまな理由を付けて部屋へ入ることをかたくなに拒む人は、部屋で人に見られたくないことをしているかも』という推測はできます。

清掃会社の人に聞くと、『消防点検や設備点検の前日に、ごみ部屋掃除の依頼が多い』ということでした。

わたしは、設備点検の際に、『業者だけが訪問するのはご不安だとおっしゃる住民の方がいますので、うちでは立ち合うことにしています』と説明し、オーナーとともに点検に立ち合い、部屋を拝見しながら、少しの時間でもコミュニケーションをとるようにしています」

確かに、誰かが部屋に入るとなれば、掃除への意識は高まりそうです。