「これが、当たり前なんですよ。これが高齢者が、独りで死ぬ(=孤独死)ってことなんです」そう呟くのは、千葉県で遺品整理業を営む『フェイス株式会社』の稲山修代表。
とはいえ、目の前に積み上げられた膨大なゴミ袋の山には、しばし呆然とするしかありませんでした。
ここに住んでいた故人は、現役時代は一部上場企業幹部。
バリバリのキャリア人生を歩んできた故人ですら、死に際はこんな大量のゴミに囲まれていたことを考えると、「どうして……」という言葉が頭を駆け巡らざるを得ませんでした。
※衝撃的な画像のためモザイクをかけております。
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知られざる「孤独死」の実態とは?
「高齢になり、足腰が立たなくなれば、若い世代が少しの労力で済むことも、本当に大変になります。買い物に行くのが億劫になれば、食材を溜め込む。
食が細くなれば、それが傷んでいきます。ゴミ出しも大きな労力ですから、自然と部屋の中にゴミが溜められていく。当然のことです。
だから僕は遺品整理の際、ご遺族に必ず言うようにしているんです。
こんなにゴミまみれにして!と、故人を責めないで欲しい。
これが独りで亡くなる高齢者の、当たり前の姿なんです」と稲山氏は言います。
切ない話ではありますが、アパートやマンションの賃貸大家にとっては、孤独死は現実的に大きなリスクです。
風評被害はもとより、発見が遅れた場合に遺体から染み出る体液や臭気によって汚染される室内。
築古物件を安い賃料で経営している場合などは、清掃費用だけで年間賃料を上回ってしまうこともあるでしょうし、汚染の進行具合によっては物件そのものの継続使用が難しくなる、または建て替えてしまったほうがマシということにもなりかねません。
残された膨大なゴミと遺品。
そして遺族とのトラブル。
果たして賃貸大家はこのリスクにどのように備えるべきなのでしょうか。
知られざる業界の内幕を覗きました。
静岡県清水市に拠点を置き、全国展開する『株式会社リスクベネフィット』は、発見の遅れた孤独死などを多く手がける特殊清掃・遺品整理の専門業者です。
代表の惟村徹さんは、こう言います。
「賃貸大家さんにとって、確かに孤独死は脅威でしょう。遺族が料金の支払いをしてくれないこともあります。
かといって、管理会社の清掃事業部などが特殊清掃をやれるかといったら、ほぼ無理と考えていい。
逆に当社も大手の管理会社さんから作業依頼を請けるほうですが…」
まず、大手の管理会社に任せているから孤独死や特殊清掃が発生しても大丈夫だという考え方は、捨てたほうがよさそうです。
「例えば夏場で熱中症などによる孤独死と特殊清掃が増える時期になると、ほとんどの特殊清掃業者は手が回らずにたらい回しにされるということが往々にして起きます。
加えて管理会社の場合、ハウスクリーニングならA社、クロスやボードの張替えならB社といったように、絡みのある協力業者を使いたがるため、なかなか話が進まず、作業の着手、終了までに非常に時間がかかってしまいます。
実はこれが特殊清掃の世界では、想像以上に大きなデメリットなんです」そのデメリットとは、「汚染の進行」です。
例えば夏場の場合、死亡の翌日には腐敗が始まり、特殊清掃が必要になります。
たとえ遺体を早めに処置できたとしても、染み出た体液や臭気は急速に建物を汚染するため、死亡翌日に発見し清掃を入れた場合と一週間後に作業開始では、費用は数十万円単位で跳ね上がることになります。
「タイムラグがあるだけ、料金が上がっていきます。
人によってご遺体の臭気は違いますし、持病があって薬を飲んでいた方なら一層臭気が取りづらい。間取りによっても汚染の進行は変わります。
ご遺体の傷みは、26℃~28℃ぐらいを境目に、それ以上ですと急速に進行しますし、前日に雨が降って蒸していると、翌日でアウト。
夏場の二日は冬場の二週間より性質が悪いと考えてください。
体液が下に回って一階の天井から降ってくるというような最悪の事態になると、基礎から打ち変え、つまり建て替えたほうがいいという話にもなってしまいます」
特殊清掃の費用はワンルーム1部屋でも300万円!?
賃貸大家の心構えとしては、商品としては限定されますが、リスクを考えるのであれば保険に加入しておくほうが良さそうです。
管理会社に任せているからといって安心せず、いざ特殊清掃が必要になった場合、作業を依頼する信頼できる業者をあらかじめ選定しておくことが重要ということになります。
しかも、「孤独死が起きる前に業者を決め、あらかじめ物件の中を説明し、料金の打ち合わせなどもきっちり済ませておくことが重要です。
実際に夏場で孤独死が起きた場合は、本当に時間との勝負です。
複数社の見積もりを取っている間にも、汚染は進み、結局頼めるところに頼むしかないということにもなってしまいます。
賃貸の場合、大家さんが納得した時点でゴールということになりますので、業者が大家さんと直で話すのがベストです」とプロは語ります。
そこで問題となるのは、信頼できる業者をどうやって選ぶかです。
ネットで特殊清掃と検索すれば、驚くほど多くの業者がヒットします。
大手の清掃サービス専門業者や、運送業者などにも、特殊清掃の依頼を請けているところがあります。
何が選定の基準となるのでしょうか。
惟村さんの意見は、かなりシビアです。
「正直なところ、僕自身が見て信用できるなと思った特殊清掃業者は、全国で5社しかありません。大手の清掃サービス業者や他業種の特殊清掃部門も現場の教育ができているわけではないので、現場社員が『特殊清掃をやるなら会社を辞める』などといって揉めているところすらあり、結局作業もやり切れずに専門業者に外注する羽目に。
つまり、まず第一に言えることは初めから専門業者を選ぶということでしょう。
さらに大切なのは、見積もりの額で選ばないこと。
実は特殊清掃業では、特に悪徳業者というわけでなくても、見積もりから料金が跳ね上がることが少なくありません。
その理由が、経験の浅い業者は汚染がどこまで進行しているかの判断を即時につけることができないこと。
実際に作業に入ったらクロスの裏まで汚染していそうだ、クロスをはがしたらボードもだめだ、ボードを剥がしたら基礎までいってるという風に、その都度追加請求となります。
経験のある業者は間取りや空気の流れ、使っている材などを総合的に判断して見積もりを出すため、パッと見て料金を決める業者とは見積もり段階で倍以上の違いが出ることも日常茶飯事なんです。
また、何でも新品に換えれば料金負担が増えますが、経験のある業者はやり方次第で材を交換せずとも現況復帰できますといったようなノウハウや提案も可能です」
ですが、上記を総括すると、業者選びも実際にかかる費用の相場観についても、非常に難しいというのが実感です。
惟村さんは、「特殊清掃には相場を設けるのが難しい」とも言います。
例えば木造で6畳ワンルーム木造の物件で孤独死が出て、夏場で発見が死亡の1週間後だった場、費用はおおよそ「50万~300万円ぐらい」だそうです。
「これだけ開きがあると、既に相場ではありませんね。
やはり、相場観を知るというより、技術的にちゃんと対応できる業者を探すことと、大家さんとして孤独死に対してどういう準備をしていくのかを事前に考えておくことが重要です。
例えば賃貸の場合、保証人がいても、清掃費用を払わない遺族は本当に増えている。
これはまず、賃貸契約書の作り方が間違っています。
家賃滞納について保証が明記されていても、孤独死などについて明記がなければ、たとえ弁護士を入れて裁判をしても100%負けます。
賃貸契約書の作り方、保険も含めて備えておくこと、こうしたことまで綿密にアドバイスしてくれるような特殊清掃業者を選ぶことです」
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