業者を見誤ると「不法投棄」の片棒を担ぐことになる!?

こうした特殊清掃の現場と同時進行的に入るのが、遺品整理業者ですが、これもどのように選ぶべきなのかが賃貸大家さんの大きな悩みの種です。

遺体の腐敗やゴミ屋敷化などがなくても、遺品整理は必要。
むしろ賃貸大家からすれば、より依頼する頻度の高い業種といえます。

前出の遺品整理業『フェイス株式会社』代表の稲山さんは、業界十年のベテランですが、千葉県某所の清掃現場に取材として立ち会わせて頂いての正直な感想は、「果たして遺品整理業とは、それ専業で採算が成り立つ業種なのだろうか」ということでした。

フェイスでは遺品整理の依頼を請けると、まずは数名の女性スタッフが部屋ごとに分かれて、あらかじめ遺族から聞き取った「捨ててはいけないもの」を探し出しつつ、廃棄する品を分別していきます。

大量の袋詰めが終わると、今度は男性スタッフが廃棄品を運び出し、家具などを解体。
解体といっても、戸建であれば物件はその後再販される可能性があり、賃貸でも無駄に大家さんに負担をかけないために、壁や床、建具にダメージがないように細心の注意を払う姿は、まるで新築家屋に入る引越し業者のようです。

同時に物件にはハウスクリーニング業者やリフォーム業者が入ります。

孤独死

女性スタッフが、「捨ててはいけないもの」とゴミを分別している様子

この日、千葉の物件で出た廃棄物の量は、実にゴミでトラック換算9トン分。
加えて廃棄家電と、売却可能な金属が1トントラック1台ずつ。

ところが稲山さんからこの仕事を請けた料金をこっそり聞くと、廃棄物の処理料金と人件費だけで、会社としての利益はあまりにも少ないものでした。
なんとなくそれまで漠然と抱いていた「ゴミ屋は儲かる」という印象は、大きく変わりました。

稲山さんは言います。
「当社の場合は、別に不動産の買取再販部門があり、戸建など遺品整理後にリフォームして再販をかける流れに早い段階で介入できるため、採算が取れます。
ところが、実際に遺品整理の見積もりを出すと、当社の半額で見積もりを出すというところもある。
見積もり負けすることはしょっちゅうです。
遺品整理は特に国の定めた資格があるわけではないので、便利屋や何でも屋といった業者の参入もあるんです」ですが、前記したようにフェイスの料金設定は、採算分岐ギリギリです。

その半額を提示する業者とはどんなものなのでしょうか。
特殊清掃の場合は、安く見積もったは良いが、後で大きな追加請求が出てしまう業者が問題でした。

一方で遺品整理の場合は、その作業内容と廃棄物の処理方法に問題があるようです。
「例えば遺品整理では、現金や金券が出てくることも多いのですが、それをポケットに入れてしまう業者。
株券などの有価証券や、故人の思い出になるような写真なども含めて、どんどん捨ててしまう業者なども少なくありません。
見積もりが安く、実際に追加請求もあまり出ないという業者では、実は廃棄物を山中に不法投棄していたり、消防法に違反する形で自社の焼却炉で処分していたり、穴を掘って埋めてしまったり。
廃棄物業者であることを偽って、行政の清掃センターなどの持ち込むケースもあります。
これも管轄行政の方針によっては違法です」

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株券などの有価証券なども含めてどんどん捨ててしまう業者なども少なくない

確かにこうした処分方法を取れば、遺品整理で大きな料金を占める廃棄物処分費用を圧縮することはできますが、不法投棄ではその廃棄物を出したところに責任追及が及びます。
賃貸大家にとって、それは大きな信用失墜です。

「そこで大切なのは、廃棄物の行く先を明らかにできる業者を選ぶことです。
具体的には、廃棄物の処分先や内容などを明記した『マニフェスト』を提出できる業者。
良質な業者であれば、廃棄物の最終処理がどうなったかを示す『E票』まで提出してくれます。
また、行政の清掃センターなどに持ち込むなら、そこの計量票を提出できることでしょう。
これらが出せず、さらに相見積もりを取った際に極端に安い料金設定の業者は、避けるべきだと思います」

なお、業者選別の指標として、11年の9月に設立されたのが、遺品整理士の資格認定を行う「遺品整理士認定協会」です。

同協会の沖西祐希事務局次長も、悪質な業者に対して警鐘を鳴らします。
「遺品は廃棄物になるため、本来一般廃棄物収集運搬などの許認可が必要となりますが、それすら知らない、知っていても違法で処分している業者が後を断ちません。
遺品整理中に金品をポケットに入れてしまう行為では、先日も通帳と印鑑を盗み出して銀行から40万円を引き出した業者が逮捕されました。
当協会は業界の健全化と水準向上を目的に立ち上げましたが、実際どんな業者に依頼すべきかの問い合わせも増えています。認定者は現在5500名と増えてきました」

さらにもう一点。
遺品整理について、特に賃貸大家の場合は、もうひとつ大きな問題も抱えています。
それが「善良な遺族ばかりとは限らない」ということです。
稲山さんは、ここでのトラブルを阻止するのも、遺品整理業者の大事なポイントと言います。

「遺品整理は多分に依頼者の心情が絡む現場ですが、それだけに遺族側がゴネてクレームをつけようと思えばいくらでもやれてしまうという点が怖いんです。
そこで当社の場合は、依頼書を交わす際に、『指定するものが見当たらない場合も、異議は申しません』といった一筆を加え、遺族など本人確認のうえで免許証など公的な身分証明のコピーを頂いています。

また、当社の場合は不動産事業部門がありますので、遺族ではなく遠縁の親戚や友人が絡む場合は、土地の謄本などから本人との関係を確認することまでします。
それだけトラブルが多い世界だということなんです」

賃貸大家からすれば、こうした遺族や関係者とのトラブルも、また大きなリスクです。
その防波堤となってくれる業者を選ぶことも、大きな選択基準となるようです。

孤独死を未然に防ぐ最大の術とは?

最後に前出の惟村さんに、話を聞きました。
賃貸大家さんにとって、孤独死のリスクは本当に大きいものです。

例えば先日、こんなケースがありました。
独居で寂しさのあまり何十匹もの地域猫を部屋に入れていた方が亡くなり、閉じ込められた猫がご遺体を食べ、その猫も死んでいたんです。

生活保護者に安い賃料で貸すことで利回りを出していた物件でしたが、どう見積もっても特殊清掃から遺品整理まで、4~500万円じゃ済まない。

ですが厳しいことを言うと、これは大家さんの管理者としての責任です。
実際、店子さんと連絡がついていて、定期的な連絡がなければ危ないなと認識していて、発見が早くて死ぬ前に助け出せたというケースも少なくありません。

ゴミ屋敷化していたり、猫を沢山入れていたり、高齢者の場合孤独死には前兆があります。どうやってそういうところとコミュニケーションをとり、どうやって孤独死を未然に防ぐかが、本当の大家さんのリスク管理ではないでしょうか」

また、惟村さんは孤独死とは高齢化社会の結果ではなく、核家族化や晩婚化の弊害だといいます。
「実際、特殊清掃の事例も高齢者よりもっと若い世代のほうが多いんです。
生活保護とか低所得の高齢者などは、意外に行政がしっかり見ている。
一方でワンルームの若者向けデザイナーマンションに住む独居の方が孤独死するケースのほうが、手に負えないことがあります。

働き盛りの世代の未婚単身者では、一週間で発見されたらラッキー。
異臭騒ぎになって初めて発見されるというケースも多くあります。
この時代、ほとんどの人が孤独死予備軍です。
賃貸大家さんも決して他人事ではないと考え、孤独死の後ではなく、それを未然に防げるような賃貸経営をしていただきたいと思います」

これまでの管理会社に任せ切りで大家はノータッチといった経営方針から、居住する人間のケアまで考えを廻らせる。
そんな血の通った賃貸経営こそが、孤独死という大きすぎるリスクと賃貸大家が戦う最大の術なのかもしれません。

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手入れができないため、庭も荒れ放題になっている。

 

■取材協力

株式会社リスクベネフィット 0120-087-867
フェイス株式会社 0120-530-247
一般社団法人 遺品整理士認定協会 0123-42-0528

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