楽待さんから、この法令について、区分物件を運営する現役サラリーマン大家さんの立場からコメントを!と、ご下命頂戴しました。
マンションの建築や関連法については専門外ではありますが、私なりの見解を述べさせて頂きます。

政府は今年2月、1981年以前に建てられた旧耐震基準マンションの建替えを促進するため、マンション建替え円滑化法の改正案を決定したのはご存じだと思います。
改正案が成立・施行されると、建替えおよび一括売却のハードルが下がるわけですが、旧耐震に該当する区分マンション所有者はどのように対処すべきなのか。また、本改正案を踏まえて区分マンション投資を行う場合、どのような視点を持てばいいのか。読者の方々はこの2点がもっとも気になるところでしょう。

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猪瀬直樹・元東京都副知事との思い出

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私は、東京都心から京浜地区を中心に区分分譲マンションを43室運営しています。

東京都では数年前から旧耐震物件の耐震強化を促進する取り組みがなされ、東日本大震災によってその動きは加速しました。

東京都の旧耐震物件対策については、忘れがたい思い出があります。

あるセミナーに講師として呼ばれたときのことです。

このセミナーでは、当時の東京都副知事、猪瀬直樹氏も前後してご講演されるという話を耳にして、前々から著書を拝読していたので、是非お目にかかってお話を伺いたいと思い、早めに講師控え室に入って待っていました。

そこへ、猪瀬氏が秘書らしき方とご一緒に到着。お二人の打ち合わせが途切れたタイミングを見計らい、お声をかけると、こちらを振り向かれた氏の表情は、折りしも、石原新太郎知事の右腕として都政改革の最前線でご活躍中の気迫とオーラが輝いており、私ごときが、近づきがたい雰囲気でした。

でもひるまず、予てからの作戦(?)どおり、先生の著書を取り出して、
「是非、サインをお願いします」と、会話の糸口を作りました。

 すると表情ががらりと変わり、

「君、これを読んでくれたの。面白いでしょ!」と猪瀬氏の方から話しかけてくださいました。

そして、いろいろなお話から、

「ところで、君は大家さんなの? 旧耐震の建物について、どう思うかね?」
と問われました。

私は、旧耐震物件も運営していますが、入居は良いので、

「今は、家賃が順調なので、実用上は問題ありません」
とお答えすると、今までニコニコだった顔がキッとなり、目の色が光りました。

 これは何か、まずい事を言っちゃったのかなあ…。内心ビクビクしつつ考えていたら、その日の猪瀬氏のご講演の要旨は、

「旧耐震物件への、耐震診断に、都から補助を出す条例を可決した。それは、東日本大震災が発生した当日だった。大家さんのみなさんは、是非、この制度を活用し、災害に強い都市、東京の構築へ協力お願いします」

という講演だったのです。

 講演を拝聴して、再度、冷汗三斗だったのは言うまでもありません。

私の築後36年(1978年築)旧耐震区分分譲マンションの事例

pic02前置きが長くなりましたが、私が所有する築36年の区分分譲マンションを例に、先の法令が実現した場合、建替えおよび一括売却に賛同するか否かを考えてみたいと思います。

該当の物件は東京・八王子に建ち、1989年、バブルのピーク期に2800万円で購入しました。当時で築11年、つまり1978年築の旧耐震物件。広さは45㎡の2DKです。

建物自体は2DK、3DK、3LDK混在の全45室あり、1階店舗、幹線国道に接道した実需向けファミリー用区分分譲物件です。ローンは一部、繰上返済をしましたが、残債が500万円ほど残っています。

家賃は当初からほとんど変わらず7万5000円。賃貸後、約20年がたち、途中、総額100万円ほどかけて、2DKの和室を間仕切自在の大きな洋室に、バランス釜のタイル風呂をフルオートユニットバスにリノベーションしています。

一方、この物件を売りに出した場合、売却成約想定価格は500万円程度です。

表面利回り18%、築36年、45㎡のリノベ&大規模修繕済みの旧耐震オーナーチェンジ区分物件ということになります。

建替えおよび一括売却に賛同できない個別事情

一個人大家としての立場を先に言えば、建替えおよび一括売却よりは、賃貸継続を希望したい、というのが私のスタンスです。

理由として一番大きいのは、該当物件が現建築基準法非適合で、建蔽率オーバーのため、同じ面積では建替えができない点です。仮に建替えした場合、現建築基準法に適合する建蔽率で新しい建物を建てるので、部屋数が減ることが起こり得ます。

そうなると、権利処分(売却)して持ち分に応じたお金を受け取れるものの、建替えたマンションを持てないオーナーが何人か出てきてしまうのです。実需オーナーさんも2/3、おられますので、住まいを失うことにもなってしまいます。

 外部オーナーの立場では、新しく建替えたマンションを持てなくても、お金を得てプラスになればそれでいいかもしれません。ただ私の場合、バブル期に高値掴みしたため、プラスになるのは、まず無理です。

 簡単に計算してみましょう。

まず、建物と敷地を一括売却し、私が手にできる金額を仮に500万円(≒売却制約想定価格)と仮定します。

次に、建替えに区分所有者の5分の4以上が同意した場合、修繕積立金から建物の解体費用が出されます。該当物件の修繕積立金は約9000万円。解体費用を約2000万円と見積もると、7000万円が残ります。この7000万円も持ち分に応じて分けられますが、単純に45室で割ると、オーナー一人当たりは約155万円(厳密には持分割合に比例配分されますが、簡単化のため、一律と仮定)。

そして、これまで回収した家賃総額は1800万円(単純計算、7万5000円×12ヵ月×20年)。

 以上を総合すると、

建替えおよび一括売却では、500+155=655万円を手にできて、すでに家賃で1800万円回収しているので、合計2455万円。ですが、2800万円で購入しているので、マイナス345万円ということになります。プラスにはならないのです。(税金や維持費は考慮せず)

 物件を維持して10年、15年と家賃をもらえば、いずれはプラスに転じるときがきます。よって、単純には、現状維持が望ましいと計算されます。賃貸も良く、空室の心配はありません。

 本物件は、過去2回、大規模修繕を実施し、エレベータ、給水システムは、既に更新済み。それでも9000万円の積立修繕金が残っています。仮に給排水管の寿命が来て、全更新したとしても、全棟3000万円程度で施工できるでしょう。

つまり、このままホールドし続けても、RC一棟物件を個人オーナーが維持してゆくような、莫大な個人負担リスクは、まず発生せず、潤沢な積立修繕金が、私(達)を守ってくれるのです。

 金銭的な損得についてだけ述べましたが、そう判断する理由はほかにもあります。 該当物件の管理組合が行う毎年の集会では、建替え案は皆無で、大規模修繕の審議に熱心です。

事実、過去に2度、大規模修繕を実施しました。実需オーナーの方々は全世帯数の約2/3程度ですが、皆様60歳を越え、現状の生活を平穏に続けることをご希望。面倒な引越しには反対だからです。

 外部移住者の賃貸オーナーとしては、実需オーナーの方々と対立してまで建替えをする必然性が見えません。また該当物件に私が昔住んでいて実需オーナーの方々の顔もよく存知あげ、日常生活でもお付き合いが続いているため、修繕維持に反対して建替えを強行し、波風を立てるのはよろしくないという事情もあります。投資の損得勘定だけで、知り合いの方々のお住まいを奪うわけにはゆきません。

 そういったことから、現在、建替えの選択はとらず、前述した東京都の補助金を受けて、住みながらの耐震補強を行う方向で話が進んでいます。

都心部16㎡3点ユニット物件

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私が所有する旧耐震物件は上記のみです。
他はすべて単身世帯用物件で、次に古い物件は1983年築以降なので新耐震になります。

 では、読者の方々に広くあてはまるように、仮に私が運営中の多くを占める都心部単身者用物件が旧耐震で、今回の法令が適用できると仮定して、どんなメリット・デメリットがあるのか考えてみましょう。

 今回の法令改訂では、マンションと敷地を一括売却しやすくなり、区分所有者は持ち分に応じて売却金を受け取れます。建替えには関与しなくてもよく、お金だけもらって解散するという選択肢が増えたのはメリットだと思います。

ただし、お金をもらっても損失を招くようなら意味なし。損得を見極めなければなりません。

 建替えについても、個別物件ごと有利・不利を見極める必要があります。

都心部の旧耐震物件は、16㎡3点ユニットのワンルームが多いのが実状です。そのような狭い部屋の場合は、東京都のワンルームの条例により、狭い部屋のままの再建築はできません。条例どおりの専有面積を確保しなければならず、新しく建替えたマンションで同じ戸数を確保するのは難しいのです。結果、何人かのオーナーは権利売却して終わり、建替えたマンションを持てなくなります。

 

しかし、都心部の好立地物件の中には、今回の法改正で容積率の緩和が適用されるものがあり、これに該当すれば“おいしい”と言えるでしょう。

容積率が緩和された場合は、極端な例でいえば、もとの旧耐震マンションは5階建てで16㎡のワンルームが50室だったのが、新耐震では20階建てで25㎡のワンルームを100室に建替えることができると仮定します。

そうなると旧耐震マンションの権利売却後、オーナー全員が新耐震のワンルームを持てるのに加えて、増えた50室分が売りに出したときの売却金は管理組合を通じてオーナーで山分けとなるので、無料で新築の、より広い部屋が手に入ったり、更に儲かるケースも理屈ではありうるのです。

ごく簡単に言うと、旧耐震マンションを新耐震に建替えた場合、部屋の広さが同じであれば、もとの物件を権利売却して得た代金程度で新しい部屋が自分のものになります。(大抵は、建物が新しくなる分、負担金は発生すると思われますが)建替えで部屋が広くなったら、その分、プラスアルファの代金を支払って購入します。仮に500万円や600万円かかったとしても、都心で25㎡以上なら10万円近い家賃がとれるので、4~5年で回収できるでしょう。そして、容積率緩和で建物の部屋数が増えれば、利益が出るもしれないということです。

区分所有者、区分投資で重要な3ポイント

以上を踏まえて、旧耐震の区分マンション所有者が、建替えおよび一括売却に賛成すべきか否かを検討する際、判断基準になるポイントを3つに絞りました。

 

1 容積率に余裕があるかどうか調べる
旧耐震物件の容積率を見て、物件の所番地でその数値に余裕があるどうかをチェックします。わかりやすく言えば、いまの物件より大きな建物を建てられるかどうかを調べるということです。建てられるのであれば、建替え後、多少の負担はあっても格安で新築物件を入手できます。また戸数が増えれば儲けも期待できます。容積率は重要事項説明に記載されています。

 2 路線価を調べる
ネットを使い、所番地から路線価を調べます。路線価がわかれば物件の土地分価格がわかり、権利売却したときに、だいたいいくらぐらいで売れるか推測できます。

 3 持ち分を正確に把握する
50戸の物件なら単純に持ち分は50分の1と考えがちですが、そうではありません。部屋の面積などで微妙に異なるので、正確に把握しましょう。持ち分がわかれば、路線価と築年数から専有部の積算金額がわかります。持ち分も容積率と同じく、重要事項説明書に記載されています。

 上記3つのポイントは、区分所有者に限らず、法令を見据えて区分マンション投資をするときにも頭に入れておくべきことです。

 これ以前に、不動産市場最大の特徴である、市場の非効率性とインサイダー情報を最大限活用して、その物件固有の事情(特に管理組合動向)を収集して、相対取引に生かすことは、前述の事例の通りです。

 

旧耐震物件に投資して得したいのであれば、容積率に余裕があり、路線価が高い物件が狙い目になります。

加えて、修繕積立金の金額も要チェックです。修繕積立金が多く積み上がっている物件の場合、建物の解体や再建築の原資となります。つまり、オーナー負担は無くなります。更に修繕積立金が余れば、管理組合で引き継ぐなり、オーナーで山分けできるのです。

 

修繕積立金が5000万円ある物件と1000万円しかない物件があったとして、両物件の販売価格には大きな差はありません。修繕積立金の多寡が、物件価格に正確に反映されていないのも、中古区分物件流通の歪で、投資の際は、そこが旨味になります。

修繕積立金の金額は、物件の重要事項説明書に記載されています。業者に依頼すれば、取り寄せてもらえるでしょう。

すでに法令を加味した動きが進んでいる

pic03古い旧耐震の物件は、災害の面でリスクがあるので、これらが建替えられれば、街全体が現在より震災に強い都市となり、新築案件もたくさん生まれて、建設業界も潤います。

一般的には、特に投資用区分物件の建替え事例は、まだないと言われています。

しかし、私が昨年まで通勤していた品川再開発地区を一例にしても、昔から、区分で中古の売りが出たら買いたいと思って、毎日通勤時、前を通っていた小さなマンションが、いつの間にかなくなり、高層マンションに建替えられて行っています。

そんな実例はほかにもたくさんあり、投資用ワンルーム分譲物件の建替えも、静かに水面下では前々より進んでいます。

また、投資用ワンルームのマイルストーンとして有名な新宿のニューステートメナー等も、建替審議の情報が流れると、10数年前は売値800万円台もありましたが、最近は1000万円を楽に越え、上昇傾向です。

すでに、市場の見えざる手は、この改定価値を織り込みつつあるのかもしれません。

建築ビジネス面から見ても、既存権利を維持したままの中古物件再生は、そこにある様々な権利調整に時間とコストがかかり、個別現場に最適化したソリューションが必要です。

そういったソリューションシステムはいまだ、一般的には確立されていません。

ビジネス的には、既存権利をそのまま引き継ぐより、権利をリセットして、新たに建物を建てる(レジ系のマンションとは限らず)新築した方が、短期利益面では軍配が上がります。

一方で、そこに実需でお住まいの方は、夫々の事情があります。

外部居住のオーナーは賃貸運営上の事情があります。

賃貸での賃借人の方は、建替の意思決定には参加できません。
これらすべてが折り合って、初めて再建築が可能となります。

 私の専門外なので、今回の法令が、「行政」「建築業界」「賃貸業界」「実需者」「大家」「賃借人」各利権間で、どのような事前審議が、どう成された上で法制化されたのかはわかりません。

 本コラムは、「投資」「大家さん」という切り口で、この法令を見る目的ですので、投資家、経営者として利益を上げるとすれば、現時点では、いまだ誰も実行していない、上記の歪みを見つけるか、新しく生まれてくる部分の成長を見つけて投資するかということになるのでしょう。

-以上-