融資が引きやすい確定申告書は一体どんなものだろうか?
多くの不動産投資家とって、1年に一度の確定申告は悩みの種ともいえるだろう。
「利益が出すぎれば税金が怖い……」はたまた「赤字になれば、融資に影響する……」
特にこれから物件を取得していきたい不動産投資家にとっては、金融機関に好まれる確定申告書をつくることは投資における死活問題でもある。
そこで金融機関の融資担当者に、確定申告書の「どこをチェックしているのか?」を覆面取材してみた。
金融機関によって確定申告書の見方は異なるのか?
融資の審査のために提出する確定申告書3期分。気になるのは、金融機関の担当者が確定申告書の、どの部分を見ているかということ。
「築古物件を買ったため減価償却が短く、リフォームもしたので確定申告書は赤字になっている。これで融資が通るか心配」というのは山本さん(仮名・30歳)。 彼の場合、本業はサラリーマンだが中小企業に勤めており、属性の面でも心配であるという。 ただし1棟目はいわゆるボロ戸建のキャッシュ購入で、実際のキャッシュフローは黒字。
「地方の政令都市に中古RCマンションを購入しました。まだ法人は立ち上げておらず個人での取得です。これから買い増やしたいと思っています」というのは菅原さん(仮名・43歳)。 名前を聞いたら誰もが知っている一部上場企業に勤めている。1棟目のマンションを金利が高いS銀行で購入したため、次回はもっと金利が安い銀行で借りたいという希望がある。
彼らの希望を叶えるためには、一体どんな確定申告書がいいのか、実際に3行へ覆面取材を試みた。
北関東に拠点を置く地銀H銀行は……?
不動産投資に対してはさほど積極的ではないけれど、借り換えや修繕のための少額融資では、動きのある北関東を拠点とする某地方銀行。主に地主を顧客としているためか、若手の銀行員でも収益不動産に対しても知識があるのが特徴だ。 申し込みに必要な確定申告書はどの銀行とも同じ3期分。
記者「確定申告書はどこを見ますか?」
担当銀行員「複数棟所有されていたら、物件ごとの収支を見ます。すべての収支がプラスになっていることが条件です。注意点としては物件取得のための融資を受けて、減価償却で赤字になっても融資可能ですが、修繕費用の融資で赤字になっている場合、収支のマイナスとして判断します」
記者「総合的に黒字であっても、物件ごとに赤字ではいけませんか?」
担当銀行員「必ずダメではなりませんが、マイナス点になります」
記者「本業がサラリーマンの場合はどうでしょうか」
担当銀行員「返済比率を見ますので、サラリーマンで給与収入が多い方は有利です」
保守的なイメージのある地銀だが、新築や築浅物件の融資、借り替えや修繕費用の短期融資には積極的な姿勢がうかがえる。確定申告書の見方は全体的に厳しめ。
東海地方に本店を置く地銀S銀行は?
東海地方のS銀行といえば、全国的に有名な某地方銀行を思い浮かべるが、こちらは同エリアにあるけれど、ややマイナーな地銀。とはいえアパートローンには案外積極的な姿勢を見せる。
記者「確定申告書はどこを見ますか?」
担当銀行員「確定申告書だけでなくて、物件の担保力、収支、属性など判断します」
記者「1棟目を購入したばかりで収支が悪い場合はどうなりますか?」
担当銀行員「中古物件を購入してリフォームを行ったとか、新築で入居募集をはじめたばかりで、空室が多くある……ということであれば、そういった事情を説明いただければ大丈夫です」
記者「赤字だからNGにはなりませんか?」
担当銀行員「黒字であることは理想的ですが、減価償却であったりリフォームであったり、説明できる理由があれば必ずしもダメということはありません。確定申告書は見ますが、それだけで判断することもありません」
個別の事情を加味するが、「確定申告書だけではない」を強調していた。相対的にアパートローンへは熱心だが、支店ベースでは不動産投資に慣れていない銀行マンも多く、どの支店のどの担当者につくかがキーワードになっている。
言わずと知れた日本政策金融公庫は?
政府系金融機関の日本政策金融公庫、「公庫」の愛称で親しまれている。
前身である国民生活金融公庫時代から不動産投資家に親しまれた金融機関。 メガバンクや地銀では一部上場企業に勤めるサラリーマンや、公務員が高属性として融資が出やすい傾向にあるが、公庫はそもそも属性が悪く、他の金融機関では借りにくい自営業者や中小企業への融資を行うための金融機関であり、その敷居は低い。 特徴としては、確定申告は2期分でよいということ。対面審査の場である「面談」では確定申告書や物件概要、事業計画書の他に、公共料金の通帳を持参するなど、民間の金融機関とはちょっと違っている。
さて、覆面取材に訪れたのは、山手線ターミナル駅にある某支店。 担当者は若手ながら不動産投資に強い印象。
記者「確定申告書のどこを見ますか?」
公庫担当者「利益が出ていることに越したことはありませんが、そこだけではなくて総合的に判断します」
記者「事業者向けの金融機関ということで、サラリーマンであることはハンデになりますか」
公庫担当者「不動産賃貸業を単年で見て赤字であっても、サラリーマンの給与収入で補てん可能と判断すれば融資は可能ですので、毎月一定の給与収入のある会社員は有利です」
記者「減価償却での赤字はどう見ますか?」
公庫担当者「減価償却での赤字は問題になることは少ないです。短期融資のためキャッシュフローが少ない場合でも、給与収入と合わせて判断します。総合的に見て、返済していけると判断すれば融資可能です」
記者「不動産初心者で確定申告書がない場合はどうなりますか?」
公庫担当者「サラリーマンであれば給与の源泉徴収票をお持ちください。あとは物件の担保力、事業計画、保証人の有無によって変わってきます」
基本的に初心者には厳しい不動産投資融資だが、日本政策金融公庫では「創業」「女性」「シニア」に優しいのが特徴でもある。 ただし、支店や担当者によって判断や対応が大きく異なり、担当者がいかに不動産投資に詳しいかにもよる。できれば先輩不動産投資家や売買の不動産業者から紹介を受けるのが近道といえる。
なかなか本音を言わないのが銀行マンの常だが、融資姿勢に関しては各行の色が見えやすい部分でもある。現状としては、全体的に不動産投資に対して融資が出やすい状況で、サラリーマンを本業とする投資家に対しても門戸が開いている状況といえる。 融資が受け易い確定申告書は、各行に特徴はあれど、前提として「赤字でないこと」「安定していること」が上げられる。赤字の理由をどう判断するかは各金融機関で扱いが異なるようだ。また、良い確定申告書に加え、サラリーマンの安定収入があればそれも大きな強みになると言えそうだ。
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