マイホームも欲しいし、不動産投資して家賃収入も欲しい――。
両方とも実現できたら嬉しいが、どちらかひとつでも容易ではないのに、両方なんて実現できるわけないと思っている読者は多いだろう。
しかし、どんな世界でも知恵を働かせれば道は開けるもの。
「賃貸併用住宅」なら、二つの夢を同時に叶えられるのだ。
賃貸併用住宅とは、オーナーの自宅と賃貸スペースがくっついた形態の物件のこと。オーナーはマイホームで暮らしながら、賃貸スペースからの家賃収入を得られるという仕組み。手にした家賃収入をローンの返済に充てられるため、ローン負担は大幅に抑えられる。
この賃貸併用住宅を新築し、不動産投資家デビューを果たしたのが神奈川県川崎市在住のサラリーマン・なぐ太さん(29歳)。そのきっかけや物件の詳細、収支、メリット・デメリットなど、楽待新聞記者が詳しく話を聞いた。
不動産投資で住宅ローンを利用できる
なぐ太さん夫婦が賃貸併用住宅を新築したのは2013年4月。結婚後、当初は賃貸住まいだったが、更新時期が迫っていたのと、子どもができたこともあり、そろそろマイホームを持ってもいいかなあと考えるようになったそうだ。
「きっかけは妻のお父さんの助言でした。義父はアパート経営をしていて、『マイホームを建てるときは賃貸併用住宅にしなさい』とよく口にしていました。詳しい説明を聞き、なるほど、すごい仕組みと納得して、実践することにしたのです」
マイホームには住宅ローン、不動産投資にはアパートローンを利用するのが一般的だが、賃貸併用住宅のケースはどうなるのか。
「賃貸併用住宅の場合、自宅部分が50%以上を占めていれば住宅ローンを利用できます。不動産投資のひとつでありながら、住宅ローンを使えるというのが一番の利点。ふつうにアパートやマンションに投資するのと比べて金利は圧倒的に低く、長期間のローンが組めますからね。安全性が高く、うまくやれば家賃収入で毎月のローンの支払いを全額賄えるのが魅力でした」
肝心の土地探しから建物の建設までは、賃貸併用住宅を専門とする不動産業者をインターネットでみつけて依頼。
「最初は自分たちで土地・建物の仲介業者をあたりましたが、二世帯住宅を提案されるなどミスマッチが多くて……。専門の業者にお願いしたら、条件どおりの土地を素早く探してくれて、建物も希望どおりに完成しました」
毎月のローン負担なしで、プラス収支に!
物件が建つのは神奈川県内某所。東急東横線の最寄り駅から徒歩2分の好立地だ。
敷地面積は150㎡で建物は3階建て。1階と2階の一部が賃貸スペースで25㎡前後のワンルームが3室。2階の一部と3階が3LDKの自宅スペースになっている。
「購入価格は土地・建物をあわせて8380万円。頭金として600万円必要でしたが、お金がなかったので親戚から工面して、残りを都市銀行で住宅ローンを組みました。金利は変動タイプを選んで0.875%。35年ローンです」
気になるのは収支だろう。
「毎月のローン返済額は約22万円。対してワンルーム3部屋の賃料は7万5000円~7万9000円で、駐車場の賃料もあわせると家賃収入はトータル約25万円入ってきます。毎月の経費を差し引いて3万円のプラスです」
3部屋の賃料は2000円の共益費込みの値段。毎月の経費は管理会社に支払う管理手数料くらいで、各部屋家賃の3%、約7000円。電気やガスなどの光熱費はオーナーと入居者で個別に負担する。
「首都圏の駅近一等地にマイホームを購入しながら、毎月のローン負担は一切なし。それだけでもすごい話ですが、加えて実入りもあるので、かなり助かっています」
夜中たまに、入居者のいびきが聞こえてくる……
賃貸併用住宅は、同じ屋根の下で赤の他人と同居することになる。住居スペースと賃貸スペースは完全に分離されているとはいえ、抵抗感はなかったのだろうか。
「私は何も感じていませんでしたが、妻は当初、心配だったみたいです。入居者さんはどんな人がくるんだろうとか、できれば女性がいいなあと言っていましたから。でもいまは全然平気。“同居生活”を楽しんでいますよ」
結果的に3人の入居者はすべて独身男性。家賃を周辺の物件より少し高く設定することで、モラルが低い人の入居を回避しているそうだ。
「管理会社の方に入居希望者の人柄もチェックしてもらい、トラブルを起こしそうな人の入居を未然に防いでいます」
同じ屋根の下に住むようになると、入居者と接触する機会もあるはず。どのようなスタンスで付き合っているのだろうか。
「入居者さんと会うのは月に2~3回。玄関先でたまに顔を合わせる程度で、そのときにはお互いに『こんにちは』と挨拶します。あとは、こちらが積極的に接触を持つようなことはしていません。若い入居者さんの中には、大家と交流するのを煙たがる人もいますからね。距離を置くことでいい関係を築けています」
では、実際の賃貸運営でデメリットはとくになし?
「あえて挙げるなら、2点ほどあります。ひとつは入居者さんの生活音が多少気になること。物音だけではなく、夜中たまに、いびきが聞こえてくるんです。親族ならまだしも、他人のいびきは耳にしたくないのが正直なところ(笑)。でもいまは慣れちゃいましたけどね」
もうひとつは当たり前だが、自宅の半分を人に貸しているため、自分たちの部屋数が少なくってしまうこととか。
「いまは家族3人で十分な広さですが、子どもがもう一人生まれて自分の部屋が欲しい年頃になったら手狭に。そのときには賃貸の一室を自宅に改築するなど、何らかの手立てを考えなければと思っています」
お金が貯まりやすく、繰り上げ返済を着実に実行
物件を新築してから1年半が経過。3部屋の賃貸ワンルームはずっと満室だったが、2014年夏に1部屋退去が出てしまったという。
「でも、とくに慌てませんでした。1部屋分の家賃収入が入らなくなってマイナス7万円となりましたが、もともとプラス3万円だったので、自己負担は4万円ですむ。4万円で駅近の一戸建てに住めているわけですから、めちゃくちゃ安いですよね。あらためて賃貸併用住宅の安全性の高さを認識しました」
家賃収入でローンの返済を賄えるため、マイホームに実質“タダ”で住めて、実入りもある生活を送っているなぐ太さん。
「おかげでお金が余り、毎月15~20万円を貯金に回しています。この1年半のあいだに、200万円の繰り上げ返済を実行。今後も繰り上げ返済を続けていき、早期のローン完済を目指しています」
ローン完済後は家賃収入約25万円が全額定期収入になる。
「そうなったら会社をセミリタイヤして、やりたいことにトライしながら家族との時間も大切にしてのんびり暮らしたいですね。もしくは、もうひとつ賃貸併用住宅を建てて移り住み、老後資金を増やすのもありかなぁと」
最後に、賃貸併用住宅を検討する際のアドバイスを聞いた。
「経験上、地方より人口の多い都会に適し、物件の立地が成否を分けると思います。理想をいえば、賃貸需要が高い人気沿線の最寄り駅徒歩5分圏内に土地をみつけて物件を新築するのがベスト。中古という手もありますが、物件数の少なさがネックになります。住宅ローンを使えるので新築、好立地にこだわっても返済の負担は重くない。そのほうが入居者を確保しやすく、賃貸運営はより安定するでしょう」
賃貸併用住宅は通常の不動産投資とは異なり、住宅ローンを利用できるのが一番のメリットだ。金利は低く、長期間のローンが組めるため、リスクは必然的に低くなる。安全・安心を重視して不動産投資をやりたい読者は、選択肢のひとつとして検討してみてもいいだろう。
【取材協力】
なぐ太さん
1985年生まれ。東京都内の大手企業に勤務。同年代の妻、2歳の長女との3人家族。27歳のときに住宅ローンを利用した賃貸併用住宅で不動産投資をスタートした。ブログ:http://naguta-osara.com/
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