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賃貸物件を契約する際に行われる重要事項説明。物件において「伝えなければならない情報」を入居者に開示するのだが、オーナーや仲介業者にとっては、非常に悩ましい事柄でもある。重要事項を伝えることによって、契約が白紙になるかもしれないからだ。

たとえば、その部屋で過去に自殺や殺人などが起きていた場合。開示すべき情報ではあるが、当然ながらその情報は契約を遠ざける要因となる。そのため、「どこまで伝えるべきか」を迷ってしまうケースも多い。

では、重要事項説明として法的に伝えなければならないラインはどこにあるのか。弁護士であり不動産鑑定士の資格を持つ安藤晃一郎氏に伺った。

重要事項として説明すべきラインは?

重要事項説明とは、契約を決める前に、仲介業者などが賃借人に対して行うものである。そしてその際に説明すべき内容は、宅地建物取引業法35条に定められている。

「35条には登記の名義人やライフラインの設備状況など、基本的な事項を説明するよう定められています。ただし、重要事項説明を怠ったケースとして過去に判決が下されているのは、35条に書かれていない事柄の方が多いんですね」と安藤氏。

35条に書かれた内容を説明することは最低限の責務だが、それ以外にも説明しなければならない項目があるということだ。では、説明しなければならない項目の判断基準はどこにあるのだろうか。

「もっとも重要な判断基準となるのは、『それを説明していれば、部屋を借りなかった』と考えられるかどうか。もし『借りなかった』と司法が判断すれば、損害賠償をしなければなりません」との回答だ。

たとえば、あるマンションの一室を借りたが、1ヵ月後に目の前で高層ビルの建築工事が始まった場合。景観が一気に悪くなるとはいえ、「一般的に、景観は法的な保護に値するとは考えられていない」(安藤氏)ため、契約前に説明しなくても問題はない。

しかし、「賃借人が『その部屋の景観を気に入って契約した場合』は異なります。のちに高層ビルが建つと知っていれば、その部屋を契約することはなかったと考えられるためです。このように、重要事項説明の基準はケースバイケースとなる(安藤氏)」という。

部屋を契約する上で、その判断の基準となるものは人それぞれ異なる。となれば、重要事項として説明すべき項目も、場合ごとで変わってきてしまう。それがあいまいさを招いているといえるかもしれない。

「事故物件」はいつまで説明の義務があるのか

重要事項説明として、特に話題に上がるのが事故物件だ。自殺や殺人の起きた部屋について、いったいどこまで(いつまで)説明責任が生じるのだろうか。

実は法律の規定は存在しないんです。ですから、賃借人への説明が必要な期間も明確には決まっていません。一般的には、事故後2~3年経っていれば説明の必要性は低くなりますが、その間に誰も使用していないと義務が生じる可能性もあります」

安藤氏によれば、過去の判例を参考にすると「2~3年」が妥当なラインだという。また、説明義務が生じるのは事故が発生した居室のみとされており、隣室や階下の部屋については説明義務がないとされているようだ。

その上で、安藤氏はこう付け加えた。「とはいえ、あまりに凄惨な事件だった場合などは、隣室でも説明しておいた方がいいケースも出てきます。これも結局は、『その情報を知っていれば、契約しなかった』と考えられるかどうか。隣室の事故でも、住みたくない人は当然いるでしょうから」

なお、不動産会社によっては、事故物件にダミーテナントとして社員を一定期間住ませ、説明責任のない物件に戻すケースもよくあるという。短期間の居住では認められないが、年単位で住んでいれば基本的には説明の必要がなくなるようだ。

孤独死が起きた場合、その説明責任は?

「過去に居住者がその部屋で亡くなったとしても、病死などできちんと看取られた形なら一般的に事故物件という扱いにならず、説明責任も生じません。それでも、仲介業者のなかには、念のため病死などでも説明するケースはある」(安藤氏)ようだ。

一方で、自殺や殺人以外の事故物件として近年増えているのが孤独死だ。

「孤独死は、多くの場合で亡くなった後に放置されている期間があります。そのため、ニオイや衛生面など、部屋への影響が考えられます。そのことからも、自殺や殺人などと同様の扱いになると考えてよいでしょう。もちろん説明すべき事項です」と安藤氏は話す。

死体が放置されていたことを契約前に知れば、その部屋に住むのを嫌がることは多分に考えられる。だからこそ、孤独死についても「事故物件」として2~3年は説明した方が安全とのことだ。

「近年増えてきた孤独死だけでなく、自殺や殺人についても、明確な基準がないのが現状。その中で裁判が行われているため、説明責任の発生するラインは非常にあいまいなんです。その結果、病死や事故物件の隣室などについても、安全策を取って説明するケースがあるんですね」

重要事項として説明すべきかどうかは、「その情報が契約に影響したか」がポイント。つまりそれは、相手次第で基準が変わることを意味している。オーナーや仲介業者にとっては難しい問題だが、どこまで情報を開示するかきちんと指針を示しておいた方が良いだろう。

 

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