日本地図を拡大すると随所に現れる炎のマーク。「大島てる」を利用したことがある人なら一度は見かけたことがあるのではないだろうか。「大島てる」とは日本唯一の「事故物件専用サイト」。日本中で起きた過去数年間の事故物件をまとめたサイトだ。

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気になるのは、このサイトが一体何の目的で誰によって運営されているかということだ。「大島てる」を運営するのは、株式会社大島てるの代表、大島てる氏。彼にサイトの目的について伺った。

「最初は私も大家だった」!? 事故物件サイト「大島てる」の目的とは

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大島てる氏
(撮影:田中正清さん)

「大島てる」がオープンしたのは、今から約9年前。まずはサイトを立ち上げた経緯について話を聞いた。

「弊社はもともと大家業を行っていた会社です。所有物件を賃貸として貸し出すだけでなく、同時に中古アパートを購入し、新たな入居者を募ることで事業拡大を図ってきました」

もともと、大島さんの実家は多くの土地を所有する地主だった。祖母の代から本格的に不動産を稼業とし、それを引き継ぐ形で大島さんが会社登記をとった。大島てるという名前は大島さんの祖母の名前であり、現在大島さんは祖母てるさんの名前を襲名する形で事業を行っているそうだ。

「物件を購入する人は、当然『事故物件を売りつけられたくない』『いわくつき物件ではない物件を購入し、自信を持って入居者に貸したい』ということを考えます。しかし、事故物件かどうかは前の所有者さえ知らない場合も。所有者が、そのまた前の所有者にだまされて売りつけられたという事例もあります。それにずっと疑問を感じていたんです」

大島さんは、不動産に関する3つの瑕疵(かし)である、権利上の瑕疵、構造上の瑕疵、心理的瑕疵のうち、心理的瑕疵だけが何もフォローされていないことを指摘する。

「権利上の瑕疵(=法的瑕疵)なら弁護士、構造上の瑕疵(=物理的瑕疵)なら建築士という専門家がそれぞれいます。万が一購入した物件に欠陥があった場合でもどちらかの専門家に相談すれば解決しますが、最後の心理的瑕疵には専門家がいないんです。どこかに事故物件の専門家がいて購入する物件が事故物件かどうかを教えてくれることもなく、公的機関などで事故物件を一覧にして閲覧貸出をしているわけでもない。だったら、自分たちで社内閲覧用に事故物件の一覧表を作ろうと情報収集を始めたのがきっかけでした」

物件を購入する際は、誰だって事故物件は購入したくないもの。しかし、十年以上過去の出来事だったり持ち主が変わっていたりすると、事故物件だという情報はなかなか耳に入って来づらくなる。それを防ぐためにあくまで社内用に始めたことだったと振り返る。

人によって認識が違うが、大島さんは事故物件の告知義務について次のように考える。

「気にする方は非常に気にしますので、宅建業者やオーナーが勝手に『この場合は黙っていてもいいだろう』と判断するのは望ましくないはずです。例えば、『50年前にここで殺人事件がありました』『前入居者が室内で病死したのですが、1時間後には発見されていました』『飛び降り自殺がありましたが、屋上からです』などと正直に告げた上で、お客さんが『それなら気にしない』と言うかどうかだと思います」

しかし、始めた当初は苦労の連続だった。

事故物件の情報はどのように集めているのか?

「情報収集にあたっては、現地へ赴いて聞き込み調査などを行いました。過去数十年でこのあたりで死亡事故が起きた物件はなかったかなどを聞いたのですが、都心だと数年前に引っ越してきたばかりという人も多く、情報収集がはかどりませんでした。また、人の記憶は時間とともに曖昧になっていくもの。なかなか『どのマンションの何号室で何があったか』までの情報を聞き出すことができず、自分たちだけで過去の情報を集めるのは困難だと分かりました」

その後、大島さんはやり方を変える。ボランティアスタッフを集め、「今起きた事故」に絞って情報収集を始めた。

「過去のことは分からなくても、今まさに起きたことなら信憑性の高い情報が集まる。その情報を数年に渡って蓄積することで、現在の時点での未来は、未来の時点では過去になるので、未来に生きる資産になるのではと考えたのです」

現在の流れは、まずは広く一般から情報を募り、それをそのまま公開。訂正要望が寄せられたものについては事後的に削除等の対応をすることで、結果的に誤報が淘汰されるという方針を取っている。

また、投稿された事故物件には時間がかかっても必ずスタッフが足を運び、写真撮影なども行っているそうだ。

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「北海道や沖縄など遠方の物件の場合は、各地にいる協力スタッフが足を運びます。現在大島てるでは外国の物件の情報も記載していますが、こちらも同様です」という。

事故物件へ足を運ぶ際の優先度は、「世間を賑わせた事件・事故の現場」と大島さん。「それらが充実していないと『使えないサイト』『漏れだらけのサイト』と判断されかねないからです」。

今までになかった事故物件の事例が急増中?

昨今の事故物件の傾向 現在の日本における「事故物件の専門家」と言っても過言ではない存在になりつつある大島さんだが、彼によると、地域によって物件の事故内容に多少の違いがあるそうだ。

「一番は気温による違い。北海道や東北は雪に関する事故物件が多いですね。例えば、雪かきで隣人同士がけんかの末、殺人事件に発展した、雪に埋もれてしまったという事故など。 暖かい地域だと、車内の温度が上がりすぎて、車の中に取り残されていた子どもが亡くなったという事故などです」

また、ニュースなどでは高級住宅街で起きた殺人事件などが取り沙汰されることも多いが「衝撃的なニュースとして記憶には残りますが、実際高級住宅街は事故物件が少ない。一方で人口密度が高いことも一つの要因ですが、繁華街や歓楽街は事故物件が出やすいです」

また、昨今の「空き家問題」で意外な事故物件も増えているという。

空き家のまま放置していた物件にホームレスが勝手に住み、そのホームレスが物件内で死んでしまったというパターンです。大家が遠くに住んでおり、なかなか物件の様子を見に来られない場合や、所有物件の近隣住民と交流がなかった場合に起きやすいケースと言えます。空き屋だった物件を購入した別の大家が物件を解体する際に白骨化した遺体を見つけたという例もあり、今後空き家が増えるとこうした事故物件は増えるのではないでしょうか」

通常、物件で死亡事件などが起きた際は告知義務が発生するが、自然死については告知義務が発生しないとされている。しかし、白骨化するまで放置されていたとなると、当然異臭などもあったと考えられることから、告知すべきという考えもある。線引きが難しい事案と言えそうだ。

2014年7月に総務省が発表した日本の空き屋数によると、実に820万戸が空き家状態で放置されているそうだ。賃貸契約者が死亡し事故物件になってしまうならまだしも、貸した覚えのない人が死ぬことで事故物件になるのは避けたいものだ。

閲覧者は、一般ユーザーと不動産業者

大島てるを運営するにあたり、大島さんが重視していることは「正しく、かつ詳しい情報を出すこと」だと話す。

「不動産取引で大事なのは、『情報の正しさ』『詳しさ』の両方です。例えば、『この辺りで自殺があった』という情報は、正しくとも詳しいとは言えません。その物件のどの部屋で何が起きたかを判明させることこそが重要と考えています」

当初は大家業を営む自社のために作ったサイトだったが、徐々に口コミで評判が伝わり一般ユーザーや不動産仲介業者からの閲覧も増えた。

よく見られる時間帯は夕方~深夜帯にかけて。一般ユーザーは自分が住むために見るパターンが考えられます。また、街の不動産屋であり、お客さんに物件を紹介する立場である不動産仲介業者の方は特に熱心に見ているようですね。おそらく、大家に『事故物件であること』を知らされておらず、紹介した後にトラブルになることも多いのでは。そのために事前情報として知ろうとしているのではないでしょうか」

入居後、自分の住む部屋が事故物件だと分かった場合。まずは大家ではなく管理会社や不動産仲介会社へクレームが入ることは予測しやすい。トラブルの火種になりそうな物件はそもそも紹介しないようにしようとしているのかもしれない。

なお、現在大島さんは所有物件を売り、大家業の規模を縮小している。

「サイトを運営している間に取材を受けることも増え忙しくなったのもありますが、次第に自分の物件で事故が起きたらと思うとぞっとしまして。大家業をやっている以上、自分の所有する物件で誰も死なないという可能性はゼロではないと思ったのです」

所有している物件が事故物件になるのは、街を歩いていて刺されるくらいの確率だと大島さんは前置きする。

「しかし、確率が低いとはいえ、刺されたら痛いです。めったにないが、起きたときのダメージが大きいと考えるようになりました」

大島てるを運営してからほどなくして、大島さんは拡張していた物件購入をストップ。現在は撤退を進めており、所有物件は全て売る考えだと言う。

「しかし、私が手放すとなると、『大島てるが手放した物件は何かあるんじゃないか』と疑われるらしく、なかなか売れないんです」と笑う。

購入した物件が過去に凄惨な事故を起こした物件だった……ということがあれば、大家にとってはかなりの致命傷になりかねない。物件の購入を検討している方は、一度覗いてみるのも良さそうだ。

取材協力
大島てる http://www.oshimaland.co.jp/