日本は言わずと知れた高齢大国。WHOによる「世界保健統計」(2014年版)によると、2012年の男女合わせた日本の平均寿命は84歳で、前年に続き首位を獲得している。
一方、人口は2008年をピークに年々減少しており、少子高齢化に歯止めがかからない。さらに総務省統計局が発表した「人口推計」(2014年5月確定値)によれば、日本人総人口と0~64歳人口は減少しながらも、65歳以上人口は増加している。
高齢者が新たに居住を変えるケースは少なく、空室を埋めてくれる存在としては期待できない。総人口もますます減少傾向にあるため、新たな居住者を獲得するのは至難と業ともいえる。現に空室を持て余しているオーナーも多いのではないだろうか。
ではどのようにして空室を埋めればいいのだろうか。長期間空室だった物件に新たな居住者を呼び込むことに成功したオーナーや、空室対策に注力しているオーナー、管理会社から話を聞いた。
大家にとって大切な5つのことを地道にコツコツやり続ける
「空室を埋めるための即効薬はないと思う。なので、当たり前と言えば当たり前のことをコツコツとやるしかない。ただし、それが意外と難しい」。そう話すのは専業大家のTさん(女性・41歳)。彼女が思う当たり前のこととは下記の5つだ。
・きちんとしたリフォームをする
・きちんとした物件管理をする
・仲介業者が客に提案しやすい賃貸条件をつくる
・仲介業者とコミュニケーションをきちんととる
・交渉にはできるだけNOと言わない(言いなりになるわけではない)
特に賃料や一時金の交渉については、門前払いをせずに交渉に応じて譲歩することはあるという。その際は“早期解約違約金を設定する”という条件をつけることが多いそうだ。
また、リフォームについては以下のように語る。
「当地は片田舎なので、流行のリフォームを行うと逆に空室期間が長くなることがあります。ときには『普通にしてほしい』と言われたりすることも。顧客層の厚い地域では、とんがった物件は武器になりますが、顧客層の薄い当地では自爆を招くことが多いですね」
キレイな部屋に越したことはないが、闇雲に凝りすぎてもよくない場合もあるよう。物件の立地環境や人の層を見て、ニーズに合った改装を行うことが大切だ。
空室が埋まらない理由については、次のように語った。
「空室が埋まらない理由は、上記5つの項目のどれかが欠けるとき。意外にちゃんとできている物件は少ないものです。
しかし、しっかり手をかけてもどうしようもないことも。例えば、工場依存の高い地域の物件の場合、景気や工業団地の中心企業の現状に左右されることも多いです。シャープ亀山工場周辺の賃貸物件の惨憺たるありさまは、家主の努力でどうにかなるというものではありません。
工場立地の一番の懸念は、工場の縮小・撤退であり、これは郊外型大型SC(一部のイオンモールなど)も同じこと。賃貸需要そのものが衰退していくからに他なりません」
工場周辺の地域といえば、大型車の通行量の多さや土壌汚染、夜間の人通りの少なさ、騒音など、さまざまな懸念材料がそろっているイメージがある。が、その環境問題の要因となる工場自体が衰退してしまうと、そもそもの賃貸需要すらなくなってしまうというのだ。
物件を購入してからでは後の祭りだが、こういったケースが空室の原因になりうるかもしれないことを念頭に置いておきたい。
かゆいところに手が届くサービスを心掛ける
専業大家のMさん(男性・49歳)の場合、「自分が入居希望者で室内見学に来たとして、どうしてほしいかを考える」という。
「室内には、各所の長さが書き込まれた室内の図面や簡易的な周辺地図を置いておくようにしています。図面を見ればどこにどのくらいの大きさの家具が置けるか一目瞭然でわかりますから。周辺地図は近所に何があるかチェックする際役立ちます。
ついでにスーパーやコンビニ、駅などにカラーペンで印をつけておくと、なお親切。また、それらに書き込めるよう筆記用具も置いておくといいと思います。内見者の立場になって考えることが重要だと気が付いてから、この方法を実践し、空室歴3ヵ月から脱却しました。仲介業者もその努力を見てくれていたようで、積極的に紹介していただけていました」
確かに、かゆいところに手が届いたサービスだ。大家がここまで懇切丁寧に物件の詳細を教えてくれていると、入居後も何かと頼れそうな印象がある。住環境において、人間関係も重要なウエイトを占めているので、気の利く大家は入居の決め手の大きなポイントとなりうるのかもしれない。
「事故物件になったこと」が原因なら最大限の譲歩は必須
また、事故物件となってしまったがために空室が埋まらないケースもあるようだ。元不動産管理会社社員の第八行政書士事務所代表・谷茂氏によると、次のような事案があったという。
「その物件は私が担当した時点ですでに半年以上空室となっており、大家側もかなり困っている部屋の一つでした。原因はその部屋で、玄関のドアクローザで首を吊って社会人の男性が亡くなったこと。間取りは1Kで築年数は20年以上とかなり古い物件ではあったのですが、周辺家賃に比べると2~3万円ほど安く、例年1月から4月の繁忙期にはほぼ満室になっていました。そんな中でも、その自殺があった一室だけは空室という状況に。事件後は家賃を2万5千円までに下げていたのですが、入居はなかなか決まらなかったです」
その部屋が決まったのは、できる限りの交渉に応じて最大限の譲歩を行ったからだという。
「ある日『家賃が安ければ事故内容は気にしない』という人が現れました。オーナーへの交渉もあり、駐車場スペースを無料で貸し出すという追加の負担をしてなんとか成約にこぎつけました」
今回のように事故物件の入居が決まらないのは、その事故内容を重要事項として告知しなければならないのが最大の原因。では一体どのようにして空室を埋めればよいのだろうか。
「告知義務を免れる方法の一つとして、新たな入居者がある一定期間普通に生活して退去したならば、次の入居者からは事故の内容を告知する必要はないとする考えがあります(心理的瑕疵の希釈)。なので、多少の負担を強いられても、なるべく早期に入居者を確保することが、長い目で見れば大家にとって大きなメリットになるのではないでしょうか」
最後に、事故物件が原因で空室が埋まらない場合に、できうることは何か聞いた。
「『きれいな部屋が安く借りられるなら入居したい』と考えている層を確実に入居へ結びつけるためにも、現場の供養や清掃、消毒作業は確実に行うことです。少しでも不安を取り除けるように気を配ることが、早期の成約に繋がると思います」
大家に管理を委託されている側としても、常に空室問題に向き合ってきたようだ。
入居希望者が見学に来たときに、錆びだらけの外階段や、塗装がはがれた外壁などが目立つと、外観から放つ辛気臭い雰囲気に引かれてしまう。第一印象は外観になるわけだから、手入れが行き届いているかどうかは重要だ。そして肝心の内観も、清潔感がなくてはならない。
そんな当たり前のことを継続的に行いながら、入居希望者の求めていることを先回りして対応する、そんな心遣いが空室を埋めるカギとなるのかもしれない。
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