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不動産オーナーが保有物件を貸し出す際、入居者には保証人を付けてもらうか、保証会社の加入を必須とするもの。最近では賃貸の仲介会社と提携している保証会社を入居者に紹介することもあるが、実はそういった審査を一切なしとしている物件もある。

貸主にとってかなりのハイリスク・ローリターンで、にわかに信じがたい話だが、入居者からはありがたがられる話でもある。例えば血縁者が死亡しているために天涯孤独になっていたり、あるいは両親が高齢で、保証人のあてがないという場合。この少子高齢化社会では今後こういった借主の需要が増えていくだろう。

では、保証制度を取らない不動産オーナーは、一体何が理由なのだろうか。保証制度についての意見を専業大家に聞いた。

契約終了手続のスムーズさがポイント!

専業大家のTさん(女性・41歳)は、こう語る。

「面談などで、入居者をある程度選別することが重要です。例えば、当該契約の借主本人が死亡するなど不慮の契約終了があったとき、契約終了手続がスムーズにできる状態にある人に入居してもらいます。場合によっては、存命中の金銭債務は保証会社でカバーしますが、結果的にはそれでは安心できません」

と言い、その理由を下記のように話してくれた。

「死亡時の契約終了手続きには、保証会社は多くの場合何の意味もありません。『終身建物賃貸借事業』のような制度を建物の要件なしに結べればいいのですが、残念ながら要件を満たさなければできないのが現状です」

借主と保証会社との保証委託契約は、借主死亡時に終了する旨の条項があることが多い。しかし、借主が死亡しても賃借権には相続が発生するため、賃貸借契約は終了しないという。つまり、借主死亡の状態で明渡裁判が発生した場合には、保証会社の明渡費用保証は受けられないのだ。

Tさんの言う「終身建物賃貸借事業」とは、居住者が死亡したときに相続性を排除する、借家人一代限りの借家契約を結ぶことができる制度のこと。「高齢者の居住の安定確保のために関する法律」に基づいて作られた制度で、居住者が60歳以上で、単身者あるいは、同居者が配偶者もしくは60歳以上の親族であることが条件として定められている。貸主がこの制度を使うためには、東京都の場合は都知事の認可が必要だ。

また、Tさんの言う“要件”とは、自治体によってさまざまで、なかなか認可にまでいたらないようだ。例えば東京都の場合、「1戸あたりの床面積が原則25平米以上(居間、食堂、台所、浴室等、高齢者が共同して利用するために十分な面積を有する共同の設備がある場合は18平米以上)であること」と定めている。大阪府の場合は、「高齢者の身体機能に対応し、段差のない床、浴室等の手すり、幅の広い廊下等を備えたものであること」。すんなり認可されるものではないことがわかる。

借主が事故物件の風評被害を払しょく! ウィンウィンの関係に

実際に保証人や保証会社などの審査を一切せずに入居を許可した専業大家Uさん(女性・48歳)は、その当時のことを次のように振り返る。

居住者が孤独死され、事故物件になってしまったことがあります。発見の遅れにより腐敗が進み、室内も損傷が激しかったこともあり、もちろん室内清掃などを行いましたが、どんなに家賃を下げても入居希望者は現れず、とうとう半年が経ってしまいました。近所には周知の事実で、風評被害も相まっていたのかと思います。ですが空室歴1年に差しかかってきたころ、生活保護受給者の50代独身男性による入居希望がありました。その方は保証人がいなかったのですが、とにかく空室を埋めたかったので二つ返事で入居を快諾しました」

一度誰かが住んでしまえば、多少の風評被害は払しょくできるかもしれない。それに加え家賃収入を得ることもできる。生活保護男性にとっても、年齢や立場をクリアして居住地を確保できたことは大きい。お互いのメリットがうまい具合に合致すれば、審査なしでも許可することはあるようだ。ただし、保証人のいない借主が死亡した場合は貸主の自己負担になる。審査不要の賃貸は、やはりリスクがつきものなのだろうか。

審査不要の代わりに定期建物賃貸借契約を締結

専業大家のTさん(女性・39歳)も、審査不要物件を貸し出している。彼女の場合はこうだ。

「私の保有物件をはじめ、保証人・保証会社が不要の物件の多くは、管理会社が空室を一括で借り上げています。そのため、空室でも家賃が発生するので、なるべく早く満室にしようと審査不要にしているのです。家賃滞納が発生した場合、管理会社が保証会社の役割を担います」

「一括借り上げ」とは、アパートやマンションなどを建設し、その物件の部屋自体を管理会社が借り上げて、不動産オーナーに対して満室賃料の一定割合を支払う仕組みのことをさす。貸主は空室リスクが低く、何らかの問題発生時のリスクは管理会社が負うことになるので負担が少ないというメリットがある。

「もちろんそれだけでは貸主を守り切れないこともあるため、定期建物賃貸借契約を締結することもあります。あらかじめ半年未満の短期間入居と定めておけば、時が来たらそれで終わりです。借主に何の問題もなさそうだと判断した場合にのみ、再度締結すれば、何の問題もありません」

普通借家契約の場合、契約満了後に更新手続きを行わなくても、法定更新により強制的に契約更新されるが、定期建物賃貸借契約を締結すれば満了時に終了させることが可能だ。入居者によっては事前に定期建物賃貸借契約を結ぶことも必要と言えるかもしれない。

不動産オーナーにとって物件を保証人のいない入居者に貸し出すことは恐ろしいことでもあるが、入居希望者は手間がかからずスムーズに借りられるメリットがある。そのメリットは意外と重要で、何らかの理由で保証人・保証会社を介せない人は多い。そういった人たちの需要は一定数あるため、不動産オーナーは決してデメリットばかりだけではないのだ。