消費税増税、株高、円安。2014年の日本経済市場は変化が多かった。「アベノミクス」はどこまで本物なのか。国内外から大きく問われる1年だったと言えるだろう。なんといっても極め付けは衆議院解散。2015年も年初から大揺れになることも予測される。
こうした状況のもと、2015年の不動産投資市場はどう動いていくのだろうか。今回は、不動産投資に明るい経済のスペシャリストに話を伺った。
2015年、日本経済はどうなる?
2015年の日本経済はどう予測することができるのか。ファイナンシャルプランナーの伊藤亮太さんはこう分析する。
【伊藤さん:2015年はある程度の成長が見込める】
「2014年7~9月期の実質GDPの落ち込み(前期比年率▲1.6%)からも分かるように、必ずしも現状の景気状況がよいとはいえない状況です。ただし、これは消費税増税後の反動減の影響も含まれています。
今後、消費の回復ペースは鈍いものの、日本経済は徐々に回復していくものと想定されます。米国経済も緩やかに改善しており、日本でも雇用の改善や設備投資の改善の動きが更に見られるようになってくれば2015年はある程度成長することが見込めるのではないでしょうか」
また、公認会計士の野村宜弘さんも次のように語っている。
【野村さん:GDPの推移で投資もマイナスへ】
「アベノミクスの3本目の矢は必ずしもうまくいっているとはいえない状態が続いており、来年は、アベノミクスが真価を問われる年になりそうです。GDPが引き続きマイナスになるようですと、投資に対する心理が冷え込むと思われます」
景気が上向いた雰囲気はあるものの、実態が伴っていないのが現状。あとは政治次第、というところか。不動産鑑定士であり公認会計士・税理士資格も有する冨田建さんは、今後も安倍政権が継続するという前提で、こう予測する。
【冨田さん:株価の暴落は考えにくく景気は堅調に推移】
「2015年の株価は堅調と推定されますが、さすがにこれ以上の急騰は考えにくいのではないでしょうか。とはいえ、安倍政権は株価に推移に基づく景気動向に相当に配慮する政権。株価の暴落も考えにくい。もしあるとすれば海外での突発事象の発生ですが、現時点ではその要素はなく、景気は堅調な推移が期待されます」
確かに、安倍政権に代わってからの株価は波があるものの右肩上がりの傾向にある。アベノミクスの経済的インパクトはそれなりに大きい。
「現在、野党のアベノミクスに代わるマクロの経済政策が明確に見えてこないため、もし野党が議席の過半数を占めるようになった場合には市場が混乱する可能性もありました。
結果として、与党で議席の過半数を確保し、アベノミクスが信任されたという期待感から市場の心理は一時的に好転しました」(公認会計士・野村さん)
「もし政治が安定的になっていれば、長期政権が見込まれ、景気の上向きに作用する側面もあると考えます」(FP・伊藤さん)
景気回復を実感できる2015年になるかどうか。政治動向に注目しながら見極めていきたい。
不動産市場は上向くという見方が優勢
次に、2015年の不動産市場について聞いてみた。どうやら市場全体は堅調という見方が優勢のようだ。
【伊藤さん:ローン金利の水準の後押しもあり期待できる】
「日本の不動産市場は良い方向に進むと思われます。住宅ローンの金利も最低水準にあり、借りやすいことも不動産市況にとっては追い風となるでしょう」(FP・伊藤さん)
新築市場についてはどう見るか。経済状況や需要増加に伴う価格上昇を指摘する声が多かった。
【野村さん:「消費税10%」が購入意欲を刺激】
「次の消費税増税に向けた新規のマンションの購入意欲の高まりに伴う需要増加が考えられます」(公認会計士・野村さん)
「建設業の人手不足による賃金上昇、円安の影響による資材高騰により新築に関してはコストが上昇することを視野に入れておく必要がありそうです」(FP・伊藤さん)
【冨田さん:新築住宅の価格水準は高止まりか】
「新築住宅については価格が高止まりする可能性が高いと言えるでしょう。なぜなら、東京オリンピックや震災復興で2014年後半期あたりから資材や人材が払底しており、一部で建築資材の再調達原価が急騰しているから。
そして2015年もその傾向は継続すると思われます。その結果、建物部分の価格が高止まりすることとなり、新築住宅の価格水準も高止まりが予測されます」(不動産鑑定士・冨田さん)
新築物件への投資を行うなら、価格上昇を視野に入れて動く必要がありそうだ。
次に、中古市場についてはどうか。専門家の間で若干意見が分かれた。
【伊藤さん:中古市場の人気が高まり物件価格が上昇】
「割安に感じられる中古市場は人気が高まるのではないでしょうか。需要の高まりとともに中古物件の価格も上昇すると考えられます」(FP・伊藤さん)
【冨田さん:物件の流通は増加するが市場は横ばいが微増程度】
「相続税改正に伴う税額増、固定資産税を回避するための空き家対策の政策が期待されるため、中古不動産の流通が増加すると思います。空き家であった不動産が利用されることで国土全体の活性化につながるという点においては歓迎すべきこと。
ただ、中古住宅の供給が増えるため、新築から中古に切り替えた需要の流入がある程度は期待されるものの、価格を押し下げる方向に作用しかねない。需要の流入も予測される点や安倍政権の政策を考えると下落までは考えにくいですが、やはり中古住宅それ自体はせいぜい横ばいか微増程度に推移すると見ています」(不動産鑑定士・冨田さん)
【野村さん:空き家課税により古い物件の価格が下落】
「空き家課税が行われると不動産流通量が増えるため、築年数が古い中古の不動産の価格がその影響で下落すると考えられます」(公認会計士・野村さん)
需要が高まる中、空き家課税がどう市場に影響するのかに注目が集まる。物件を見極める目がより求められることになりそうだ。
都心の不動産市場には引き続き注目
【野村さん:相続税アップにより都心マンションのニーズが高まる】
「来年から相続税が増税になります。相続税を支払う人の割合が増加する分、相続対策のため低金利でローンを組んで換金価値の高い都心のマンションを購入する人や、不動産売却を検討する人が増えるという傾向が出てくると思います」(公認会計士・野村さん)
たとえば2020年、JR品川駅と田町駅間に山手線新駅が開業予定というニュースは大きな話題となった。この周辺の地域・路線も順次開発が行われることになっている。
【伊藤さん:新しい「東京の玄関口」に期待】
「これにより東京の玄関口が大きく変わるかもしれない。周辺の土地・建物価格に大きくプラスの影響が出るものと想定されます。この先、期待してよいのではないでしょうか」(FP:伊藤さん)
ただ、次の意見にも耳を傾けておきたい。
【冨田さん:都心の投資収益物件で稼ぐなら冷静に検討を】
「純粋に投資収益物件それ自体で稼ぐ事を目的とする場合は慎重に本質的に良い物件を厳選して動くべき。例えば、一部の不動産業者に、東京都心の高度商業地で3%程度の表面利回りで回すというような投資収益物件購入の動きもあるようですが、個人的には過熱しすぎと感じています。
一部の不動産業者の過熱に惑わされず、東京都心の高度商業地でも還元利回り4.5%(表面利回り5%台)程度を目安に動くのが妥当でしょう」(不動産鑑定士・冨田さん)
冷静に判断しながらうまく波に乗っていきたい。そのために私たちは今後、どう動くのが望ましいのだろうか。
2015年以降、不動産投資家としてどう動く?
【伊藤さん:再開発や人口増加が見込まれる地域の中心部に投資】
「再開発のある地域で今後も発展が見込める地域に的をしぼるか、人口が今後も増加する地域(東京、神奈川、愛知、沖縄など)で中心部に投資を行うのがよいのではないでしょうか。タイミングは再開発などの発表後でも遅くないと思います。また、基本的に株価の上昇のあとに不動産価格はじわじわ上昇していくため、今からでも遅くはないと考えています。
複数の物件に投資する場合には、地域や購入時期をわけて分散投資するとよいでしょう。新築に比べて割安感のある築浅物件を探すのがおすすめ。地道に楽待で探し、良い物件がでてくるのを待つことも重要です」(FP・伊藤さん)
【野村さん:中古住宅のリノベや流動性の高い都心物件を視野に】
「長期的には不動産投資は少子高齢化問題をはらんでいますが、短期的には、オリンピックや消費税増税に向けた投資活動が活発になると思われます。また、法改正により空き家に課税されることに伴い、古い不動産の供給量増加を見越して準備を行うことも考えられます。
例えば、利便性の良い地にある空き家のリノベーションを行うことを前提として物件に関する情報収集を行い、投資を行う準備をしておくのもいいかもしれません。
とはいえ、数年先の経済状況は専門家でも難しいといわれています。リスクを取りたくないのであれば、流動性が高く比較的売買が容易な都心のマンションで良い物件を発掘できたら購入するというのも一つの手法です」(公認会計士・野村さん)
相続税対策のための不動産投資に絞って考えると、中古アパートも大いに視野に入ってくるという。
【冨田さん:相続対策なら耐用年数満了直前のアパートもアリ】
「相続税改正を睨み、現金で投資収益物件を購入して相続税対策をするという意味も含めた投資の場合は、稼働率がそれほど高くない耐用年数満了直前の古いアパートというのも選択肢に入れても良いでしょう。ただしこれは、『適正な更地価格-建物取壊し費用-立退料相当分(家賃の6~12ヵ月分)』以下で購入できる場合に限った話です。
投資収益物件を購入することで相続税は圧縮されますし、今後立ち退き・更地化することが考えられるため納税後の換金ポテンシャルも維持出来ます。
もちろん税務的に不合理にならないよう配慮する必要はありますが、選択肢に入れることは十分可能です。むしろ相続税対策の場合、純粋に投資収益物件で稼ぐ意図だけではないため、その物件のグレードの高さにはそこまでこだわる必要はないでしょう」(不動産鑑定士・冨田さん)
税制改正により新しい潮流もみえてくるであろう2015年の不動産投資市場。新築物件だけでなく、中古物件にも上手に選択肢を広げながら資産形成につなげてほしい。
【文=鉢須祐子】
■伊藤 亮太
CFP認定者。スキラージャパン株式会社取締役。自身でもマンション投資により4戸保有。オールアバウト『株式・社会ニュース・ファイナンシャルプランナー』ガイドも務める。ヤフー不動産、ニッキンマネーなどでマネーや不動産のコラム連載中。金融庁、日本証券業協会、東海労働金庫など金融機関等で講演多数。
HP:http://www.ryota-ito.jp
■冨田 建
不動産鑑定士・公認会計士・税理士。1974年4月生。慶應義塾大学卒。70年代以降生まれの世代では会計・税務関連の鑑定において無敵の強みを誇る「最も会計・税務に強い不動産鑑定士」である。2014年12月に㈱税務経理協会より「弁護士・公認会計士・税理士のための不動産の法令・評価の実務Q&A」を発売予定。
HP:http://tomitacparea.co.jp
■野村 宜弘
公認会計士・税理士・公認不正検査士。大学非常勤講師(金融論)。神戸大学経営学部卒。かつて、不正調査機関に勤務した経験を生かし、本業は不正調査を行っているが、監査法人からの独立を契機に不動産を取得。自らも築30年程のマンション組合の理事長を現任。自利利他をモットーに経営者のライフワークのサポートを行っている。
HP:http://minatoku.tkcnf.com/
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