マンション経営は今、非常に難しいかじ取りが求められている。建設業の人手不足、資材高、地価上昇でコストは高騰。一方で所得の上昇が追いついていないためコストを転嫁するのは現実的ではない。経営者は住まいに新たな付加価値を見出していかなければならない。
マンション全体で5%、各家庭で3~10%の省エネが期待
そんな経営者の期待に応えるのではと注目を集めているのが「スマートマンション」だ。これまで「スマートハウス」という言葉を耳にしたことはあるかもしれないが、その技術が賃貸・分譲のマンションにも応用され始めている。経済産業省もこれをバックアップしているのだ。
経産省によれば、スマートマンションは「マンション全体でエネルギー管理、節電およびピークカットを行い、エネルギーの効率的な使用や無理のない節電を実現するマンションのこと」と定義されている。固い言葉が並んでしまったので、もう少しかみ砕いて説明しよう。
「ピークカット」とは、電力需要が集中する時間帯の供給電力量を低く抑えること。冷房を多く使う夏の昼間や、暖房を多く使う冬の夜間などの消費電力を少なくすることでエネルギーの使用を効率化する。これを、エネルギーを管理するシステムを利用してマンション全体で行うというものだ。
経営されているマンションをスマートマンションにするために導入しなければならないのは、「MEMS」と呼ばれるシステム。マンション(M)エネルギー(E)マネジメント(M)システム(S)の略で、経営者の代わりにアグリゲータと呼ばれる事業者が管理を行う。
MEMSは、マンションの各部屋や共有部に設置され、家電や空調、照明、太陽光パネル、蓄電池などの機器の電気利用状況を把握する。そのデータを用いて、自動で消費電力のピークを抑制したり、アグリゲータが経営者や各家庭に省エネに関するアドバイスをしたりしてくれるのだ。
スマートマンション導入によって節約できる消費電力の量は、電気の使用状況や電気料金単価を含む事業者との契約内容によって異なる。ある住宅メーカーの試算によると、マンション全体で約5%、各家庭では3~10%もの省エネ効果が期待できるとされている。電気代が節約できるということも賃貸付けの際のPRポイントになりうるのではないだろうか。
災害時のライフラインとしても有効
北区赤羽にある「マストライフ赤羽WEST」は、経済産業省の「スマートマンション導入加速化推進事業」に認定されている。マンション専用のホームページで専有部や共有部における電力の使用状況が見える化されており、住む人は同型のマンションに比べ、10%以上の節電効果が見込めるそうだ。
スマートマンションの魅力は省エネだけではない。マストライフ赤羽WESTでは、MEMSと太陽光パネルを連携させることで非常時の電源確保を行い、緊急時や災害時にはエレベーターや給水施設など重要な設備へ優先的に電力を共有する。いざとなったときのライフラインとしても活用できるのだ。
高齢の入居者へのメリットも。各家庭に取り付けられたシステムで収集した電力の利用状況に関するデータに基づき、家電を使用する頻度が著しく低下している場合などの異常を察知し、警備保障会社に通報する見守りセキュリティーサービスもスマートマンションでは可能だ。
主婦の方々に対しては少しユニークなサービスも。これは分譲マンションの事例だが、三井不動産と東芝は昨年、東京港区や新宿区の新築マンションを対象に、電力の利用状況に関するデータから住む人のライフスタイルを分析し、その人にあった飲食店のクーポンを送る取り組みを開始したそうだ。
経済産業省では、スマートマンションの導入を推進しようと補助金制度を設けている。マンションにMEMSを導入し建物全体の電力消費量10%以上削減するよう努めるマンションに対して設置費用の一部を補助するもので、今年3月末時点で全国941棟、10万戸以上からの交付申請があったそうだ。
マンションの経営者だけでなく、そこに住む人たちにも、家計、エコ、体験、さまざまな面でメリットをもたらすスマートマンション。今後入居者がスマートマンションというキーワードで物件探しをする可能性も出てくる。導入を検討するなら補助金制度のある今が得かもしれない。
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