競売・任売で売却しても借金が残ってしまったら
競売での売却は一般市場価格より6~7割の低くなり、2割程度借金が残ってしまうケースが多い。
「仮に任意売却で3000万円、競売だと5000万円の借金が残る物件があるとします。差額は2000万円もありますが、払えない人にとってはどっちも同じこと。
100万円、200万円の話であれば、毎月数万ずつ返済しても完済のメドがたちます。しかし1000万円を超してしまえば、大した差ではなくなります。これは、借金を抱えて苦労した人間だからわかること。返せない状況なら1円も1億円も変わらないのです。売却後の残債務の差に於いては、競売と任意売却は私の中では差がないと思っています」
ただし、競売では「賃料の差し押さえ」のリスクがある。賃料の差し押さえと競売を同時にされる危険性がある人は、サラリーマンや、年金収入があるなど、賃料以外に別の生活基盤がある場合。
逆に専業で、規模も小さくその物件以外に所有していない人、つまり賃料差押えによって収入が途絶えるようであれば、賃料の差し押さえはない。
「抵当権者は売らないと回収できませんから、競売という最後のとどめは差すけれど、賃料以外に収入が無い方は、その間の賃料の差し押さえはしない傾向があります」
そして、残った借金への対応は、基本的にどの債権者も同様で、返済を求められる。しかし、数千万円~1億円の大きな残債が残ってしまった場合、どうなるのだろうか?
「返せないことは百も承知です。でも、貸しているお金を請求するのは当然の権利です。 で、そこで出てくるのが債権回収会社、サービサーです。
平成12年、当時バブルのツケで莫大な不良債権を抱えていた銀行を何とかするため誕生した経緯があります。法務大臣許可を得た会社組織で、銀行から不良債権を買い取って、債務者と話し合いをして回収します。そうして利益を得る仕組みがあります」
なぜ利益を得られるのか? 銀行から売りに出される不良債権に対して、サービサーは債権額や、金融機関から提示された債務者の属性データなどを検討し見積もりして、購入価格を決定、入札方式で一番高いところが買う仕組みとなる。
「不良債権は売れない商品と同じです。1億円という定価をつけても一般市場ではそんな高額では売れない。サービサーは問屋みたいなもので、まず定価より安く商品を買います。1億円の債権が数千円で取引されるケースもあるくらいです」
たとえばサービサーがある銀行から1億円の債権を100万円で買ったとする。サービサーは1億円の債権を買ったので、債務者に対して1億円の請求ができる。
『我々は○○銀行から債権を譲り受けたサービサーです。あなたはどうするつもりですか?』と聞けば、当然、『返せなくて困っています』と返答があるだろう。 サービサーは『一括で300万円を払えば9700万円はチャラにしましょう。いかがでしょうか?』と提案をする。
「債務者にとってそんな好条件で借金がチャラになるならと、なんとかしてお金をかき集めて300万円を払うと、サービサーは約束通り残りの9700万円を債務免除してくれます。サービサーは債権を100万円で買い取ったため、200万円の利益となります。これがサービサーの利益を得る仕組みです」
バブルの残務処理がほとんど終わった今、不良債権が少なくなり、サービサーの買取金額も高くなっている。
「最近は債権の買取金額が上がっているため、少額での債務免除は厳しくなって来ています。
しかし、一括で払うのが厳しい場合は、月々5万円返済して、1年間で60万円を支払い、1年後に残り240万円を一括返済して債務免除するといったケースもあります。また、1年後にまとまったお金が返済出来なければ、再度、1年間分割にしてもらえる場合もあります。
このように1年区切りで分割の相談が出来ますが、せいぜい2回(2年)ですが、最近は3~4年に伸びているという話も聞きます」
サービサーは早く処理したいため債権を長く持たない。分割回収しても大きな利益が出なければ次のサービサーに売却する。2年間で月5万円、計120万円の支払い能力がある債務者であれば、別の会社が買い取っても2年間で最低120万円は回収できるということ。
サービサー間で交渉して、200万円上乗せした価格で売却できれば、120万円+200万円なので、買った300万円よりは利益がでる。このようにサービサーからサービサーに渡り、大抵は2社程度に渡って終わりになる。
「払えなければ『払えない!』と言っていればサービサーも最後には諦めます。毎月のハガキ代も電話代もコストがかかるので、最終的に債権者も『これは無理だな』と判断したら引きます。
ただし、借金返済ができなくなってから1~2年では債務は消えません。消えるまでは5~10年程度かかります。 その間に提訴(裁判)して、差し押さえもします。それは本当に資産がないという確認をする為でもあるのです」
最終的には金融機関・サービサー・債務者それぞれがwin-winに
なお金融機関が不良債権を処理するために、サービサーに安く売却することは、銀行にとってもプラスになる。
「そもそもサービサーは銀行を助けるために生れました。銀行はバブル崩壊からサービサーができるまで、ずっと不良債権を抱え込んでいました。このままでは銀行がつぶれる……実際に何行かつぶれましたが、それで小泉元総理が竹中平蔵と相談して作った法律です。
このサービサー法と税制改正で、銀行は少しでも回収した上で不良債権を処理出来るようになり、銀行が破綻するリスクを無くすことが出来たのです」
銀行からすれば無税で債権譲渡ができて、サービサーは安く買って高く売れば利益になる。債務者は1億円が数百万円程度に圧縮されて負担が軽くなる。
実は債務者に対しても税金がかかる。「債務免除益」という先の「贈与税」とは逆で、債務免除されたことで、利益を得たと見なされる。しかし最近は税務署に申告をして「借金を減らして利益を得たが、実際には現金がないのでプラスになっていない」と証明ができれば免除が可能だ。
これが任意売却・競売で売ってしまった後に残った残債に対しての1つの処理方法となる。 民間金融機関が債権者であれば、半年か1年待っていれば、ほぼサービサーにいくそうだ。
政策金融公庫・保証協会……公的金融機関で融資を受けて返せない場合
これが公的金融機関で借りていれば、また違う道となる。
「公的機関が債権者の場合の残債務、売ってしまった残りに関しては、超長期分割が可能です。1億円の残債務を月々1万円というような『何百年かかるの?』というような返済方法もできます。というのも公的機関は法律上、サービサーに売れないのです」 公的金融機関には下記がある。
・日本政策金融公庫
・保証協会
・住宅金融支援機構
政策金融公庫は株式会社といえど、株は100%国が所有しており、保証協会は地方自治体が組織運営しているので100%公務となる。住宅金融支援機構も株式会社になったものの、株を保有しているのは国。これらの公的金融機関は、それぞれ独自の法律があり、すべて税金で運用している。
「やはり税金ですから、自己破産しない限り『チャラにしていいよ!』とはいえません。そうはいっても借金を返せない人は山ほどいます。それで苦肉の策として、毎月少額でも返済していれば建前上はちゃんと回収しているということになり、これが唯一の回収方法になっているのです」
中には3億円の残債を保証協会に代位弁済されて、毎月3000円返している経営者もいるそうだ。
ただ通常は大家さん、不動産投資家の8~9割程度は民間金融機関から借りており、任売・競売で残った残債に関しては、最終的にはサービサーにいって、最後には一部金で残りをチャラにしてもらえる、というのが実務的な流れだ。
大企業ほど自己破産者が多い!?
サービサーとの決着(一部金を払って終わらせる)では、債権が数千万円のレベルになれば、100万円以上かかるのが普通。これが自己破産すれば、その10分の1で終えることができる。 10万円で自己破産して借金をチャラにするのと、100万円で紆余曲折しながらサービサーとやりとりすることを考えれば、費用対効果でいうと自己破産の方が安い。
大きな債務を払えないとき、大半の人は自己破産を選ぶ。期限の利益を損失した時点で、早めに弁護士に相談して自己破産する人もいれば、売却のあと自己破産する人もいる。そのタイミングはまちまちだ。
またサラリーマン大家の中でも銀行や一部上場企業に勤めていれば、自己破産してもお咎めはないが、生命保険会社や損保会社に勤めているとクビになる可能性もある。
「これは法律上、自己破産すると人のお金が一定期間扱えなくなるからです。とくに保険業界の場合は、保険業法という法律の中に、『自己破産した場合は保険の取扱いの資格が剥奪される』となっています。
むしろ大企業に勤めるサラリーマンは自己破産しても実害がないため、貸す側のメガバンクの銀行マンが自己破産するというケースも少なくありません」
その理由は、公務員や医師などと同様に、大手に勤めている属性の良い人ほど、借金が容易にできるから。やはりたくさん借りてしまえば破綻する可能性が高くなる。また連帯保証になっている人も多い。
「不動産に限らず、両親が事業をしている場合、息子さんが大手に勤めていたら、お父さんに貸し付けている金融機関は息子さんを連帯保証にしたがります。
今は第三者の連帯保証人は取らないようになっていますが、昔はよくありました。お父さんが破産などすると連帯保証しているサラリーマンの息子さんに請求がいきます。小さな零細企業の借入金とはいえ数千万円になれば、個人では返済できません。だからサラリーマンでも自己破産する方が結構いました。
しかし、大手企業は自己破産しても何とも思いません。出世の妨げになることもないのです。大手ほど労働組合がしっかりしているし、自己破産しても制約されるものが法律上にもありません」
もし自己破産を理由にしてクビ、または出世の妨げをすれば労働基準法違反。だからこそコンプライアンスを守る大手ほど、自己破産に対しては寛容ということになる。逆に、それを知らない零細、中小企業の社長ほど「自己破産したらクビだ!」ということもありえるそうだ。
「方法はどうあれ何らかの解決策はあります。私が思うのは、不動産物件で人生を棒にふって欲しくないということです。冒頭でも言いましたが私は不動産や事業再生することが目的でなく、相談者の生活を再生するのが仕事だと思っています。
借金をすべて無くして、安心して楽しい生活送るのが一番です。だから物件に固執してしまわない方がいいですね。賃貸物件は仕事のアイテムです。アイテムに固執して沈没するのはおかしいでしょう」
きちんと勉強せずに物件を買ったり、知識がないまま運営していると、一見順調に見えても思わぬ落とし穴に落ちてしまうこともある不動産投資。
落とし穴に落ちないようにすることが一番だが、もしもの時にはどのような再生の道があるのかを知っておきたい。
不動産再生屋 山本こと
山本 秀利さんのプロフィール
神奈川県横須賀市出身。工務店・不動産業の二代目として父親の会社で働くが、バブル崩壊で借金を背負う。商工ローン2社、闇金10社から借入、がけっぷちの日々を送るが限界を感じ、一念発起して自ら債務整理に乗り出し、まだ過払い請求という言葉がない時代に、弁護士を雇うことなく個人で訴訟を起こす。
この多重債務から生還した経験を活かして、事業再生コンサルタントとなる。
ブログ 不動産再生屋の日々http://ameblo.jp/drgaba/
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