居住用マンションの1階を店舗へ貸そうと検討している際や、商業用ビルを購入した際などは、できることなら長くその場所で営業を続けてくれる事業者に貸したいと考えるはず。
実際、居住用だと不人気の1階でも、店舗だと人気というケースも珍しくはない。さらに、一般的には、居住用として賃すよりは、店舗に貸すほうが家賃を多く取れることも多い。
しかし、せっかく貸したものの事業がうまく立ち行かずすぐに退去してしまうというケースもある。その後、新しく別の事業者が入居したものの、その事業者もすぐに撤退というケースは珍しくない。あなたも街中で「ここのお店、また別の店になっている……」と驚いた経験があるのではないだろうか。
そのような「すぐに店がつぶれる物件」は他の賃貸物件と比較して何が違うのだろうか。都内で不動産仲介業を営むSさんに、「1年間で3回以上入れ替わる店舗用物件」の特徴を聞いた。
問題は物件ではなく街にあった!? 危険な街と貸してはいけない業態
誰しも一度は見たことのある「出店した店が、すぐにつぶれる物件」。Sさんによると、そういった例は「結構ある」そうだ。中でも特に多いのが中目黒なのだという。
中目黒といえば住みたい街ランキングにも登場する人気エリア。中目黒GTプラザなどの複合施設もあり、駅前には飲食店が軒を連ねる。代官山や恵比寿にも近く、人の行き来も多い街だ。一体なぜなのか。
「私が見てきた例ですが、『中目黒』というブランドを頼りにして、やたらとお洒落でニッチなターゲットの店を開く事業者が多いんです。例えば、小規模な雑貨店やアクセサリー店、アパレルのセレクトショップ、スイーツ店などです。街のイメージだけで出店しているので、実際の顧客ニーズがつかめず、3ヵ月ほどで閉店してしまう店は多いです。」と話す。
中目黒といえば、ドラマのロケ地に使われることも多い街。特に春になると桜並木を楽しめる目黒川の印象が強い人も多いのではないだろうか。目黒川沿いをはじめ、周囲には洒落た印象の店舗も多いが、実際は一歩路地へ入ると住宅街。若い人だけでなくお年寄りやファミリー層も多く住んでいるなど、全く違う顔も持っている。
要因は「街のブランドに対する思いこみ」と、その思い込みの結果出来上がってしまった「狭いターゲット層」。そのために、オープンしたものの思ったように客足が伸びないという結果となり、別の街へ店を移すあるいは事業を畳むことになるのだという。またSさんは「近しいところだと自由が丘もその傾向があります。」と話す。
「どちらも私から見れば『とがった街』。街の印象ばかりが先行してしまい、確固たる客層が出来上がっていない街のように感じます。それであれば、代官山のほうが商売しやすいのでは。もちろん代官山は中目黒より賃料が高いですが、その分幅広い層を相手に商売できます。」
中目黒と代官山はたった一駅だが、一消費者目線で考えると、遊びに行くなら「中目黒よりも店数の多い代官山」ということも要因の1つになりそうだ。代官山で一通りの買い物を済ませると、わざわざ隣の中目黒まで行く必要もなくなるだろう。隣り合っているものの代官山だけでお金を落としていくという構図が出来上がってしまっていることも、中目黒で商売がしづらい一つの要因かもしれない。
「大型商業施設」に要注意!
「安くて使い勝手がいい」に太刀打ちできない可能性も
では、どのような業態だと長続きするのか。Sさんは立地によると話しつつも「周囲に競合となる業種が少ないことが絶対条件」と話す。
例えば、パン屋が少ないエリアであればベーカリーショップを入居させるのもいい。入居する事業者も独自で競合がいないか調査しているものだが、大家自身が近隣のショップにアンテナを張ること重要だと話す。
「一見競合になる業種が少ないように見えても、実は隠れた競合がいることも。例えば、スーパーが近くにあった場合、新しいベーカリーショップではなくスーパーのパンを購入し続ける人はいるはず。」また、近隣にイタリアンなどの飲食店が多くても、すでに取引のあるパン店からパンを仕入れており、卸しで入るのが難しいケースもある。
他に注意したいのは「大型商業施設がある場合」だという。「割安で便利な方に客足は流れていくもの。いくらおいしいパン屋でも、『味はそこそこが、安くて使い勝手がいい』に敵わないこともあります。」
例えば雨の日。新しくオープンした路面のパン屋へ行きたいが、駅直結の大型商業施設であれば濡れずに暖かいパンを買えるとなると、人はどうしてもそちらへ行ってしまうものだ。その上同じビル内で他の買い物も済ませられるとなると、わざわざ傘をさして別の店へ……という選択肢はなくなるだろう。
それが続けば、「大型商業施設で全ての買い物を済ます」という行動パターンが慣習化してしまい、結果的に路面のパン屋へ人が集まらないということになる。
テナント物件を持つ際は、近隣に大型商業施設がないかをチェックしたいところだが、Sさんは合わせて「開業する予定がないか」「開業の可能性はなさそうか」をチェックする必要があるとも話す。再開発の噂がないか、駅前に大型商業施設に建て替えられそうな広い土地がないかなどをチェックすることも「すぐに店がつぶれる物件」を生まないためには重要と言える。
テナントの入れ替わりが激しい物件になってしまうと、最終的に「あそこに店を出すと事業を失敗しやすい」という噂を呼んでしまい、思うように新たな入居が決まらないことも。その結果、空室期間が長くなったり賃料を下げたりといったことになるのは避けたいものだ。
投資する際は「街のイメージが先行した投資になっていないか」を考えつつ、入居審査時に「一定期間やっていけそうな業態か」をしっかりチェックすることが重要と言えるだろう。
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