ライフプラン最終_04132015

あなたは、「この先の人生で必要なお金」はいくらなのかを考えたことはあるだろうか。ぼんやりとは考えていても、実際に算出し、金額を把握する機会はなかなかない。そんな状況に警鐘を鳴らすのは、ファイナンシャルプランナーの伊藤亮太氏。

「お金に困ってからでは遅い。何も問題がない時にこそ、今後必要になるお金をシミュレーションしておくことが重要」と語る。

では実際に、どのようにシミュレーションを行えばよいのだろうか? 今回は、誰でもできる「ライフプラン表」の簡単な作り方と、必要なお金の算出方法を詳しく聞いた。

ライフプランを作る際に必要な項目とは?

① まずは家族の年齢構成から

ライフプランはエクセルで簡単に作成していく。

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まず縦軸に家族の名前をいれ、横軸に年齢をいれる。年齢は、その年の12月31日時点の年齢を記入。定年後、10年先までをイメージして作成してみよう。独身の場合は、結婚・出産の予定もしくは希望でいい。

「家族の年齢をいれるだけで、分かることは非常に多い」と伊藤さんは言う。「子どもの入学・結婚・出産など、ライフイベントの時期を見て、大きな支出が必要なのはいつ頃かをつかみます

② 大きく「収入」をつかむ

続いて、家族の名前の下に、収入と支出の項目を作り数字を記入していく。収入の項目としては、「給与等可処分所得」「年金(本人)」「年金(妻)」「個人年金保険」などを年間金額で記入する。

○給与等可処分
⇒年収から税金と社会保険料等を引いた、いわゆる“手取り”額。昇給していく前提で、年間1〜2%ずつアップさせて定年まで算出。

○年金
⇒現状の予測の金額でOK。

○個人年金保険
⇒個人で加入している場合。

他に、不動産投資をしている場合は、家賃収入も収入欄に追加。また新規に物件を貸し出す場合の「礼金」、契約更新時に入る「更新料」など、見えている範囲の収入も記入しておくとよい。さらに築年数や設備状況など、個別事情によって空室率を高めに設定することも必要だ。

大きなキャッシュフローをつかむことが大切!

③ 「支出」はあまり細かく分けすぎない

次に年間支出額を記入する。項目として大きくは8項目程度を押さえる。

○基本生活費
⇒光熱費・飲食費などすべてを含む生活費。だいたい収入とともに年々1%上昇すると言われている。毎年1%アップで算出。

○住宅ローン
⇒ローンを組んで家を購入している場合。

○住宅維持費
⇒固定資産税や都市計画税。

○教育費
⇒子どもの幼稚園から大学卒業までの教育費全般。習い事なども。

○生命保険料、損害保険料
⇒加入している場合。

○レジャー費
⇒旅行など。

○車買い替え
⇒車を所有する場合。

○結婚
⇒子どもの結婚にかかる費用。

①で記載した家族の年齢をもとに、教育費や結婚にかかる金額を想定する。教育費は、公立や私立など学校によって変わるので、進学予定の学校の金額をネットなどで調べてみるとよいだろう。

また、住宅ローンや生命保険など金額が決まっているものは分かりやすいが、「基本生活費」がどれくらい使っているかわからず、ライフプラン表づくりにつまずいてしまう人は多いかもしれない。

しかし伊藤さんは「いくら使ったかわからないなら、通帳を見てその年に下ろした金額の合計額を基本生活費と考えるとよい」と言う。「光熱費など内訳が分かればベストだが、まずは大きなキャッシュフローをつかむことが重要。その年にどれだけ使ったか、それが分かれば問題ない」そうだ。

収入と同様に、不動産投資をしている場合は、「管理費」「修繕積立金」なども支出に追加。入居者管理を不動産会社に依頼している場合は、「委託管理費」。さらに「固定資産税」「都市計画税」「ローン返済金」なども忘れずに入れておこう。

④ 年間収支を記入してみる

ここまで記入したら、最後に「年間収支」「年/貯蓄利息(1%)」「貯蓄残高」の3つの項目をつくる。

○年間収支
⇒収入合計額から支出合計額を引いたもの。

○年/貯蓄利息(1%)
⇒仮に1%で算出。預貯金の利息額。

○貯蓄残高
⇒預貯金の合計額。

この年間収支を見て、マイナスとなることに、改めて驚く人も多いかもしれない。
当たり前だが、ここがプラスになれば貯金ができるし、マイナスになれば貯金を崩しながら生活をしていることになる。あなたの収支はいかがだろうか?

伊藤さんは「ライフプランの効用は、お金の流れを明確に理解することで、お金を増やそうとする意識が芽生えることだ」という。

ライフプラン作成で老後の資金不足が露呈!?

こうしてライフプランを作った先に見えてくるのは、老後の資金不足。これは大半の方に共通すると伊藤さんは話す。

現在30歳前後の方は、子どもが大きくなるまでの間であれば、経済的には何とかなるものです。だいたい皆さん何とかなっていますから(笑)教育費は大きな支出ですが、奨学金などさまざまな策があります。

ただ、問題は定年後です。定年後は支出が収入を上回り、ライフプラン上10〜15年後に貯金残高が0になってしまうケースはよくあります

例として、32歳男性(妻、子1人)のライフプランをシミュレーションした。32歳現在の給与等可処分は576万円、同じく32歳現在での支出計は542万円だ。現在2歳の子どもは、保育園を経て公立の小・中・高校、大学は私立文系へ進む。

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65歳定年の前提で、75歳までを予測。子どもの結婚費用として300万円の支出を計上した年を除いては、夫が定年するまでの収支は堅調にプラスで推移した。しかし、夫が定年退職した翌年からは、一気に悲惨な状況となる。年あたり200万円以上の赤字となり、定年退職から10年後には貯蓄(年間の貯蓄残高の累計)を大半を使い果たしてしまう計算となったのだ。

表

決して貧困世帯というわけではなく、一般のサラリーマン世帯が堅実に生活を続けていった上でのシミュレーションがこの結果。だからこそ、早くからライフプランを作っておくことが大切だ。

「いざ老後になってお金が足りない! と、そのときに慌てても策は限られてくる。早くから分かっていれば対策もいくつかあります

たとえば、老後の資金作りのために保険を見直したり、育児とのバランスを取って共働きを頑張ったり、投資をして資金を増やしたり。逆に、レジャーの回数を抑えたり、車の買い替えをガマンしたり……そういう対策を早くから考えられることが、ライフプランを作る効果の1つです

ライフプランは年1回の見直しを!

伊藤さんは、年1回のライフプランの見直しをすすめている。ご自身も年1回はライフプランの見直しを実行しているという。

「あくまでライフプランは想定上の数字。給与額はもっとも変動しやすいので、そこを正確にしたい場合は、年1回は見直すのがベストです。少なくとも、子どもの誕生など大きな環境変化があった際には見直すべきでしょう。可能なら、個人のバランスシートを作るのもおすすめです」

「バランスシート」というと反射的に難しそうだと思う方も多いだろう。しかし、複雑になりがちなのは法人の場合で、個人のバランスシートは「収入と支出を整理する」という比較的簡単なイメージで作成できるそうだ。

4月末日時点の「資産」と「負債」となる金額を書き出し、その差し引き額「純資産残高」を出すだけでよい。「資産」は、4月末日時点の預貯金額の残高、他に保険の解約返戻金。車を所有しているなら、その売却時の想定額がわかるならその額も資産に含める。「負債」は住宅ローン等の額を書き出す。

こうして差し引き計算をし、大雑把にでも自分の純資産残高がわかれば、自然と普段のお金の使い方や意識も大きく変わってくるだろう。明確な数字を知ることで、「計画的に行動できるようになる」と伊藤さんは言う。

まずは10年先までのライフプラン表を作ってみてはいかがだろうか。自分の想像もしていなかった未来が見えてくるかもしれない。万が一、愕然とする未来であっても、今なら対策は可能である。

伊藤亮太さんプロフィール

ファイナンシャルプランナー。個人の資産設計を中心としてマネー・ライフプランニングの提案を行っている。資産運用に関連するセミナー講師や講演を多数行う。また、大学院時代の専門分野として、公的年金や確定拠出年金に強い。執筆物も多数。

HP:http://www.ryota-ito.jp