押し売りまがいの悪質な勧誘により、リスクの高い不動産を購入する被害者が後を絶たない。国民生活センターの報道資料によると「マンション経営で節税を」「税金の還付がある」といった営業トークが展開されているそうだ。
確かに、源泉徴収で自動的に所得税が差し引かれるサラリーマンであっても、不動産運営に関わる費用を経費として計上することは可能である。

税理士 叶温先生
確定申告の際に提示すれば、過払い分の税金は戻ってくるはずだ。しかし収入を上げるために行う不動産投資で、税金の支払い額を減らすというのはどうも腑に落ちない。
そこで、「不動産投資が『節税』になる」というのは本当か、税理士の叶先生にお話をうかがった。
叶先生は、会計事務所に勤務中、年収わずか400万円、貯金300万円という状況で、1億円の1棟マンションを購入した実績を持ち、税理士として独立した現在も1棟ビルのオーナーである。
減価償却費が節税効果につながる!?
「新築物件を購入した初年度は、不動産投資による節税効果が見込めます。なぜなら、購入初年度は、大きな金額になりがちな登録免許税や不動産取得税が経費として計上できるからです。
また固定資産税、借入金利、減価償却費をはじめ、修繕費や管理費、火災保険料、投資のために発生した交通費なども経費として計上することが可能です」
初年度以降も大きな割合を占めることになるのが、建物の経年劣化によって減少する価値を控除する減価償却費だという。
新築物件の耐用年数は鉄筋コンクリート構造で47年間、重量鉄骨造で34年間、木造で22年間であり、この年数を元にした償却率が定められている。さっそく5000万円の物件を購入した場合の減価償却費を計算してみよう。
■鉄筋コンクリート構造の場合
5000万円×償却率0.022=減価償却費110万円/年
■重量鉄骨造の場合
5000万円×償却率0.030=減価償却費150万円/年
■木造の場合
5000万円×償却率0.046=減価償却費230万円/年
これだけの額を経費として申請できるなら、節税対策として有効といえそうだが……。
儲かる不動産投資は節税対策にならない
「節税対策として不動産投資を行うことは間違いです。減価償却費などによって発生する経費は大きいですが、それ以上の家賃収入がなければ、そもそも投資をするメリットがありません。修繕費を発生させるなど、初年度以降も節税対策は行えますが、最終的に利益を出せば、当然その分の税金は国に収めることになります。
また利益が発生しない物件を抱えていると、融資を受けることが難しくなる場合もあるでしょう。条件の良い物件を見つけても、資金不足でチャンスを逃すことになれば大きな損失です。節税対策として不動産投資を進めてくる相手には、十分に気をつけた方がよいでしょう」
むやみに節税を謳う営業マンは、税制度に対する知識が乏しいのか、それとも無知を装っているのか。どちらにせよ信頼に足る人物ではなさそうだ。
投資前に知っておきたい税金に対する知識
「もちろん投資前から節税の準備をすることで、不動産から得られる収益をより多く手元に残すことは可能です。例えば個人事業主として青色申告をしたり、奥さまやお子さまの所有物として物件を購入したり。先ほどお話した減価償却費の活用も、所得税率を上げない工夫につながります。
その他、年間の収益が同額のマンションであっても、部屋数が10室か9室かで特別控除の金額が大きく変わることもあるなど、さまざまな節税方法がありますよ。ただしあくまでも“収益を少しでも手元に残す方法”にすぎないことを念頭に置いてください」
結果として、「不動産投資が『節税』になる」という営業トークは一般のサラリーマンにとっては「嘘」と言えそうだ。
資産家が、相続税対策として「保有資産を現金ではなく不動産に買えることで節税になる」という別の考えはあり得るが、それほど大きな資産を持っていない、一般のサラリーマンにとって「不動産投資が『節税』になる」という謳い文句は当てはまらない。
不動産投資を行いながら、少しでも多く手元に収益を残す(=節税方法を模索する)のは当然の行動だが、節税目的でサラリーマンが投資を始めるというのは誤った選択のようだ。「儲かる不動産投資は節税にはならない」と言う叶先生の言葉が、それを物語っている。
不動産投資と税金の関係性。不動産投資のメリットを最大限に活かすためにも、知っておいて損はなさそうだ。
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