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今回のご相談者は長年勤めた某大手企業を退職され、事業を起こしたという福田征夫さんです。立ち上げた本業は軌道に乗りましたが、ひょんなきっかけで不動産事業へも着手され、今では都心を中心に地方まで物件を所有するまでに。そんなサクセスストーリーを邁進する福田さんですが、果たしてそのお悩みは?

はじめに

本業のビジネスとは異なる不動産事業の魅力にとりつかれた福田さん。ビルの駐車場スペースを大胆にもバイク専用に仕切り直すことで収益を増大させたというやり手の投資家さんです。その後も、レンタルオフィスや区分店舗など、異端な投資物件を好んで購入しています。

そんな福田さんのこれから進むべき道は?上級者からの相談に、流石の石原さんも今回ばかりは悩み抜きながらのアドバイス……必読です!

お名前
福田征夫さん(仮名)
性別
男性
自己資金
2000万円
ご職業
会社経営
ご年収

1300万円

居住地
埼玉県
ご自宅

自己所有マンション

所有投資物件

都内レンタルオフィス

都内バイク駐車場×2

都内区分所有(住居×1・店舗×1)

都内中古戸建て

静岡県区分所有
(住居×1・オフィス×1)

埼玉県オフィスビル

不動産投資経験
6年目

相談者のお悩み

長年勤めた一流企業を退職して起業した福田さんは、これまで順調に事業を拡大してこられました。使い勝手のよい金融機関の開拓をはじめ、今後はこれまで通り都心を中心に進めていくのか、それとも地方で高利回り物件を狙うか、はたまた世界へ飛び出すか……その方向性でお悩みです。

石原氏からのアドバイス(ダイジェスト)

○使い勝手のよい金融機関を開拓したい。政府系金融機関との上手な付き合い方とは?

⇒政府系金融機関のメリットは手数料の安さ。金利が若干高めでもトータルでお得に。ただし担当者によるところが大きく、信用を保つには残債をキープしておく必要がある。

○都心にある商業ビル投資、築古や借地権の物件について

⇒実績ある福田さんだからこそ、都心の好立地にある商業ビル購入にノンバンクを利用するのも1つの方法として考えられる。利子は高いがそれも交渉次第。

○地方の高利回りの商業ビルにも魅力を感じるが……

⇒住居なら手立てはあるが、地方のテナント投資は正直言って難しい。都心なら需要が見込めても、地方ではシャッター通りが普通にあり確実に集客できるか疑問。

○沖縄など遠方の人口増加地域への不動産投資は?

⇒まずは地元の業者への丁寧なヒアリングからスタートすべし。融資も全国的に展開している金融機関、もしくは地方に支店のある地銀を当たっていけば可能性あり。

○アメリカの物件を購入したら節税できる?

⇒日本に住んでいる人がアメリカで物件を所有した場合、日本の税法により古い物件は短期の減価償却になるため一気に節税できる利点がある。

使い勝手のよい金融機関を開拓したい。
政府系金融機関との上手な付き合い方とは?

石原さん画像2
福田

私は40歳で20年近く勤めた会社を早期退職しました。サラリーマンを辞め、自分で会社を立ち上げてから、今年で8年になります。

石原

ご家族のご理解があったのですね?

福田

そう思います。じつは会社勤めをしながら副業を行っていまして、副業と新規ビジネスを併せれば、なんとか会社を辞めても大丈夫だろうと決意しました。

辞めると当然インカムが一つになるので心細くなりますが、それより独立したい気持ちの方が大きかったのです。

石原

副業というのは、不動産投資ですか?

福田

いいえ、Yahoo! オークションです。もう10年以上も前になりますが、外国で安く仕入れた商品を国内で売りまして、年間500万円くらいの売上がありました。

石原

家に働き手が2人いるような稼ぎですね! 福田さんの場合は、不動産投資をはじめたのは最近ということでしょうか?

福田

そうです。いわゆるサラリーマン投資家とは違いまして、私の場合は本格的に不動産へ取り組んだのはここ数年なのです。

石原

プロフィールを拝見して驚きましたが、バイク駐輪場に区分所有マンション、戸建てと手広くやられていますね。

福田

今のところトラブルなくやれていますが、これからどうなるやら(苦笑)。

私が不動産に目覚めたきっかけですが、埼玉県北部で1棟商業ビルを不動産情報サイトで見つけて気に入りまして、勢いでキャッシュ買いしました。それをしばらく持っていたのですが、その間は多少の損をしています。

昨年(2014年)、売り時ムードも高まり、思い切って売りに出したら1000万円の儲けになったのです。このときのキャッシュインが5000万円です。運転資金では使わないので、せっかくだから不動産をやってみようと昨春から区分所有マンションを買い進めたのです。

石原

保有されている物件は、全て都内ですね。

やはりお金をお金(=現金)として持っているより、再投資による資金の効率化とリスク分散というお考えもあったのですか?

福田

はい。もともと小さな会社なので何が起こるかわかりません。本業だけにお金を投下している状態と、不動産なり違う業務の収入があるのと、どちらがいいのか考えたとき、分散していた方がよいと判断しました。

サラリーマン時代の副業と同じ考え方ですね。今は不動産を第2の収入の柱にすべく進めている最中です。

石原

なるほど。あと、都心でバイクの駐輪場もやられていますね。これはどういう仕組みですか?

福田

これは苦肉の策です。前オーナーが事務所と駐車場を持っており譲り受けたのです。1階にある50平米の駐車場は、つめれば車3台ほど停められますが、人に貸すとなれば軽自動車2台しか駐車できません。

簡単にいうと地形が悪く、駐車場として使うにはもったいないのです。立地は申し分ないですが、せいぜい8万円の売上にしかならないでしょう。

どうすれば平米効率が上がるのかを模索して、思いついたのがバイク駐輪場です。それで1メートル×2メートルの枠をいっぱい作り、13台分が確保できました。

石原

すごい、白い枠線を描くだけで利益になったんですね!

福田

募集するとニーズがあり、今は1区画だけ空いていますが満車に近い状態です。

当初は8万円の収益だったのが、バイクで17万円、2台の自販機から月に3万5000円ほど上がるため、合わせて20万円の収益になりました。

石原

上手に運営されていますね!

福田

山手線の内側なら面白い投資だと確信しています。

石原

都心であればあるほど、ヴィンテージで高価なバイクを持っている愛好家が多いのですね?

福田

おっしゃる通りなんです! 皆さん宝物のように大切にされています。

その昔、青年時代に乗っていた人たちも一度はリタイアします。でも、おじさんになって再び乗り始める。「リターンライダー」という言葉もあるようですね。

そういう愛好家たちはハーレーダビッドソンなど高価なバイクですから、屋根なしの駐車場に停めると雨風にさらされたり、部品を盗られる被害にあうようです。

石原

他にも店舗など手広くやられていますが、どの投資がご自身に合っていると思われますか?

福田

好きなのはやはり区分の事務所です。お風呂やキッチンといった水回りの修繕費がかかりませんから、相対的にリフォーム代が安いのです。

また事務所は一度でも埋まれば長いですよ。バイク駐輪場ほどではないですが、異端児的な要素に惹かれますね。

石原

競合が少ないのも利点ですね! 融資付けに関してはどうお考えですか?

福田

メインバンクのメガバンクと地場の信用金庫ですね。

そこで今回のご相談となるのですが、政府系の金融機関とはまったくお付き合いがありません。関心はあるのですが本業の運転資金でお借りすればよいのか、不動産投資で借りるべきかわからないのです。

石原

政府系金融機関とうまく付き合えれば、より事業が行いやすくなるでしょうね。

ご存知でしょうが、日本政策金融公庫をはじめとする政府系のメリットは圧倒的に手数料が安いことがあげられます。

金利が若干高めでもトータルでお得になりますから、金利面だけで民間の金融機関と比べられません。繰り上げ返済でペナルティが問われなかったりもしますし。

Point1 政府系金融機関

政府系金融機関とは、国が出資する金融機関のこと。国際協力銀行、日本政策投資銀行、日本政策金融公庫、住宅金融支援機構などがあげられる。不動産投資では日本政策金融公庫が代表的で、女性・新規創業・シニアなど従来なら借入が困難な属性であっても融資が受けられやすいのが特徴。

福田

なるほど。

石原

日本政策金融公庫(以下、公庫)には敷居が高いイメージがありますが、信用構築という部分では、少額のお金を借りて問題なく返済していくことにより、枠をどんどん広げていける使い勝手の良さがあります。

とくに法人で運転資金を借りる場合は、どんどん枠が大きくなっていきます。

注意としては、完全返済した後で実績があるからと安心し、しばらく経って借りに行くとリセットされていることです。

福田

そうなんですか?

石原

担当者に聞いたのですが過去の取引情報は、お支払いが終わると一定期間は保管するものの、期限が過ぎれば全て処分されます。

つまり、育んだ信用を保つには、お付き合いを続けた方がいいということです。

福田

必ず残債をキープしておくのですね?

石原

そうです。人によっては根抵当権をつけて、出し入れをずっとやっている人もいます。つまり1つのお財布として活用しているのですね。

属性と実績と実力、それから背景によっては、かなりの金額まで融資が可能ですが、年数はそれほど長く借りられません。理論上は20年までと言われていますが、実質は17~18年です。

Point2 根抵当権

根抵当権(ねていとうけん)とは、一定の範囲内の不特定の債権を極度額の範囲内において担保するために、不動産上に設定された担保物権のことをいう。普通抵当権は融資を返し切ってしまえば消滅するが、根抵当権の場合は限度額の中で何度も融資を受けられる。

福田

築古の物件や、地方の物件にも積極的に融資をしてくれるのですか?

石原

担当者によっても理解がかなり違ってきます。公庫には7000人を超える職員数がいて、すべての人が同じような融資の出し方をするわけではありません。

ただし、全国に支店があるために利用しやすいメリットがあります。

銀行によっては耐用年数が重視されますが、例えば古い商業区分マンションでも融資をつけるのが公庫の認識です。掛け目はかなり厳しくなりますが、遠方であっても日本の領土である限り、公的な機関ですから否定しません。

民間のセーフティーネットのような位置づけも果たしますから、逆に民間の金融機関では借りにくい物件も土俵に乗ったりします。

Point3 掛け目

不動産の融資において、担保となる物件は時価で売れるとはかぎらないため、金融機関が「掛け目」を掛け、評価を低く算出してそれを担保価格とする。金融機関によって「掛け目」の数値は変わり、おおよそ70%が目安となっています。公庫の掛け目は50%と低め。

福田

そのような物件を公庫に持ち込んで、当たりを付けるのも一考ですね!

石原

公庫より金額が大きい物件なら商工中金です。

周囲では公庫の場合だと成功事例をたくさん聞きますが、商工中金は非常に少ないです。まだわからないのが正直なところですが、政府系の金融機関の中では貸出金額が大きいのが特徴です。

福田

では、試してみたいですね……(笑)

石原

また商工中金は年数がさらに短くなります。公庫が20年なら商工中金は15年程度。もちろん民間からの借り換えはできません。民間で借りている物件を、金利が安いからこちらに通そうとしても一切受け付けません。

でも本道さえ押さえておけば使い勝手があると思いますね。

福田

人でなく物件ありきなのですね。

ところで最近は物件の足が早いですよね。キャッシュでさらっていく人と戦っていくためには、ある程度の与信枠のような考え方ができる金融機関と組めれば心強いのですが……。

石原

そうですね。公庫も実績を重視しているので「この人なら貸せる!」という、返済実績のある方が融通が効きます。

お付き合いしていくうち、柔軟に対応してくれるようになれば、チャンスが大きくなるかしれませんね。

都心にある商業ビル投資、築古や借地権の物件について

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福田

事業用の1棟ビルを購入したいと考えています。

石原

どのくらいの規模をお考えですか?

福田

あまりギャンブルになってもいけないので2億円以下と考えています。都心に限られますが、空いているフロアはレンタルオフィスにすることができると考えています。

石原

すでに実績がありますから、強い武器ですね!

福田

悩ましいのは、1億円前後の買いやすい1棟ビルで立地にこだわると、築40年を超える築古物件や借地権が多くなります。いずれにしても融資のつきづらいものばかりです。

築20年ほどの若いビルでは、埼玉でも越谷あたりになってしまう。都心で3億円も出せば、そこそこ新しい物件は買えますが、1つの建物に3億円も出して投資するほど腹を決められません。

借りられないこともありませんが、それによって身動きが取れなくなってしまうのが怖いのです。

そんな理由もあって、1億円台のビルを探しています。

石原

戦略としてはかなり手堅いと思いますよ。

例えば、ノンバンクを利用すると、事業系のビルなら5~10億円も融資が出るケースさえあります。これを利用して規模を一気に大きくしていく人もいます。

Point4 ノンバンク

銀行や信用金庫のように預金業務を行わず、銀行からの融資などによって調達した資金で与信業務を行う金融機関。銀行が免許制であるのに対し、ノンバンクは貸金業規制法に基づく登録制。銀行や信金よりも審査基準が緩いことが多く、容易に融資を受けられる可能性があるが、一般的な銀行や信金に比べて金利が高くなる。

福田

でも金利が4%近くもしますよ?

石原

それも交渉次第でしょうね。一つ一つがオーダーメイドの世界ですので。そのような融資を出す会社とはあまり親交がないのですね?

福田

正直、ノンバンクに対するイメージがあまりよくありません。

石原

金利負担が大きいですからね。

でもきっちり回せるテクニック、実績とノウハウがおありならメリットはある。大多数の人が立地の良い築古物件や借地物件には、大金を都合できないのですから。

ただし失敗すると、今まで築き上げたもの全てを失ってしまうため、大きな覚悟も必要です。もちろん、そこまでして規模を大きくしなくてもよい、という判断もあります。

福田

私も少ないながら従業員を抱えています。彼らのことを考えるとあまりギャンブル的な投資は行いづらいくなってしまいます。

石原

ご成功されているからこそのお悩みと察します。わざわざ大きなリスクを負いたくありませんよね。

僕自身、むしろ何もないときの方が「借りるだけ借りて!」というマインドでしたけれど。今のお立場になると心境も変わりますよね。最終的には性格にもよるでしょうし。

福田

そうですね。私個人はギャンブル好きですが(笑)、仕事とは切り離しています。

石原

これまで手堅い経営者としてやられてきたからこそ、そのご判断で間違いはないと思います。

では1~3億円規模をイメージされているのですね。古いものか、少し新しいものでいくか?

福田

古かったり、土地権利が借地権など、融資が出ない物件であれば、キャッシュで買うしかない。

方々からかき集めたり、物件を1つ売却しても、せいぜい5000~6000万円の物件しか買えないでしょう。全てを処分すれば1億円になりますが、そのために売却するのも二の足を踏みます。

石原

以前に僕が住んでいた恵比寿の界隈で、30代の若夫婦が初めての物件でいきなり2億円近い物件を買いました。地元の信金から融資を引いたのです。借地権の古いビルですが、利回りが10%台で、すごく回るんですよ。

福田

初めてで2億円も借りられるのですか?

石原

内容次第では十分可能性もあります。

借地権に関しては、立地と事業性が良ければお金を借りられるようです。でも福田さんはこれまでやってこられた路線から考えると、大きな方向転換になってしまいますね。

その辺は問題ないのですか?

福田

融資が出て収支が見合えば、あと1億5000万円程度を借りることに抵抗はありません。

ただし、現金を目一杯使って数千万円の借地ビルを買うのは面白くないですね。

石原

レバレッジも効いていませんからね。もう1段階上がるなら、融資の力を上手に利用された方が効率もいいです。

福田さんの場合、これまで無借金でいくつも物件を購入されていて、それらをすべて抵当に入れるわけでもないから、新規の融資も問題ないのでは?

例えば5億円のビルを買ったら、次の7億円のビルを買うとき融資が出やすくなります。

福田

そうですか? でもその5億円のビルが、しっかりと商売になっていればですよね?

石原

もちろんです。ただし、高利回りである必要はないですね。本当に立地が良くて、収益も安定して上がってきて資産性の高いものであれば、それは実績として見なされる。そのレベルまで到達すると、壁を突き抜けて組み上げ、さらに勝負をしていくものです。

実際にそういう方もたくさんいらっしゃいます。ですから、融資が厳しくなることはないでしょう。

福田さんは会社を順調に経営され、不動産でも収入の柱を着実に築かれていますから楽しみですね。