一括借上契約最終_05192015

「アパートやマンションを新築で建てませんか?」

ハウスメーカーの多くは、新規着工を進めるためにさまざまな特典を用意し、地主や新築物件を持とうとするオーナーへ営業攻勢を仕掛ける。そうした中には、物件が稼働し始めてからの「賃貸経営」のリスク軽減を提供しようとするものもある。

万が一入居者の賃料支払いが滞った場合でもオーナーへの支払いが保証される「家賃滞納保証」や、管理会社が全室をまとめてオーナーから借り上げることで空室リスクからも解放される「一括借り上げ契約」などが代表的だ。こうした契約は専門の不動産事業者が手掛け、ハウスメーカーへ導入を働きかけているという。

だが、賃貸経営のほとんどすべてを業者側に任せ、オーナーが楽をし続けられることに落とし穴はないのだろうか。「かつて所属した会社で一括借り上げ契約の専任営業担当だった」という藤原正さん(36歳/都内の不動産管理会社勤務)に、匿名を条件にその実情を聞いた。

賃料収入が保証される一括借り上げ契約はウィン・ウィン?

大手ハウスメーカーの宣伝文句によく見られる「30年一括借り上げ」といったような契約はどのような仕組みなのか、改めておさらいしたい。

アパートやマンションを保有し賃貸経営を行う場合、オーナーが賃料設定や入居者募集、設備修繕などを手掛けることとなる。こうした業務を代行するための存在として管理会社があるが、空室が発生した場合に賃料収入が入らなくなるリスクは当然オーナーが背負う。

一括借り上げ契約においては、このリスクが「ない」ことがメリットだ。物件の全室を業者側が一手に借り上げ、それを入居者に貸すという「転貸借契約(=又貸し)」が結ばれる。

たとえば1室あたりの月額賃料が10万円で8室ある物件の場合、満室であれば毎月80万円の賃料収入が入る。しかし空室が2室になってしまうと、賃料収入は60万円にとどまってしまう。例として、一括借り上げではこれを1室あたり9万円で全室業者側が借り上げ、確実にオーナーへ全8室分の賃料(72万円)を支払い続けるというものだ。

業者側が賃料10万円で入居者を集め、満室にすることができれば、月々8万円の儲けとなる仕組みだ。オーナーは空室リスクに悩むことなく、一定の賃料収入を得られる。ウィン・ウィンに見えるこの仕組みだが、どこに問題があるのだろう。

ハウスメーカーにとって、一括借り上げの利益は微々たるもの

藤原さんは「注意したいのは、2年、3年、5年といったスパンで契約内容の見直しが入ること。このタイミングで賃料保証が大きく削減されることもあります」と話す。

当初は月額9万円の契約で始まったものが、3年後の契約見直しで月額7万円となってしまう可能性もあるのだ。理由は築年数が経過し、物件価値が低下するため。とはいえ、もともと10万円の賃料で勝負できる物件なのに築3年で7万円に下がってしまうのは、オーナーにとって大きな損失だ。

「すべての業者がそうだというわけではありませんが、中には恣意的に低い金額を提示する会社があるのも事実。

またハウスメーカーとしては“建てるまで”でほぼ勝負はついているのです。仮に3年後の条件にオーナーが納得せず、契約破棄になったとしても、建築費は既にもらっているので痛くもかゆくもないというのが本音ではないでしょうか。

言い方はよくないのですが、一括借り上げ契約は『オーナーに、物件を建てさせるための安心材料の一つでしかない』のです」

適正賃料は? 相場は? 「セカンドオピニオン」を受けるべし!

藤原さんが現在担当するオーナーの場合、築3年後の賃料の下落率は5%前後、5年後でも5~10%の範囲がほとんどだという。新築時に10万の賃料であれば、3年後は9万5000円、5年後で9万円ということになる。

「周辺エリアの同タイプの物件をベンチマークし、駅からの距離や設備に応じて賃料設定を考えていくのが普通ですよね。前述のように一括借り上げで契約の見直しを行う場合には、こうした適正賃料や相場を無視して安く抑えられてしまうようなケースも多いのです」

それでは、一括借り上げ契約そのものが危険な取引ということになるのだろうか。

自身もかつてはハウスメーカーへ一括借り上げ契約の提案を行っていた藤原さんは、「もちろんすべてがそのような会社ばかりではない」と話す。藤原さんの場合、適正な賃料をオーナーと話し合い、契約見直しの際にどの程度までの下落が予想されるかということまで伝えていたという。

「医療の世界では、現在受診している医療機関以外にも診断を求める『セカンドオピニオン』が常識になっています。一括借り上げに限った話ではありませんが、不動産業者とのやり取りもこのセカンドオピニオンが大切だと思います。

オーナーは時間がない中で1社に任せきりにしてしまうことも多いでしょうが、すべてを信用しきってしまうのはリスクでしかありません

これは、それまでの一括借り上げ契約を解除し、新たに管理会社との関係性を作る場合にも同じことがいえるそうだ。

しかし業者としては、複数の会社から情報を集めるオーナーは「やりづらい相手」になるのではないだろうか。発注する側とはいえ、業者との関係性構築はオーナーが日々腐心する部分でもある。藤原さんの顧客が、他社でも“診断”されることをどう思うか、最後に伺った。

「もしその結果、他社に流れてしまったら残念ではありますが、やむを得ないですね。個人的には、いろいろと悪評が立つことも多い業界だからこそ誠意ある仕事が大切だと思っています。顧客とは常に情報をオープンにして会話をしていますし、もし他社へ流れてしまう際にも理由がはっきり分かっていると思います。

逆に、他社で納得のいかないオーナーが相談に来てくれたときは大きなやりがいを感じますよ。逆に、セカンドオピニオンとして相談されて、悪い気のする業者はいないでしょう」

最低限の労力で利を得る。それが物件オーナーの理想であることは間違いないが、信頼できる相手を見極めるための手間だけは、惜しむべきではない。

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