大家さんにとって避けては通れないのが建物の大規模修繕。例えば、使われている素材によっても変わるが、外壁を塗り替える目安は、おおよそ10年から15年と言われている。実際のところ、中古物件を購入した場合は「数十年間ほったらかし」なんていう物件も少なくない。
古くて薄汚れた外壁は競争力がないうえに、建物の維持管理面からみても手を入れた方がいいに違いない。そうはいっても費用がかかるだけに気軽には行えないし、一体どんなカラーデザインにしたらいいのか、また塗装業者はどうやって選んだらいいのか等、疑問がつきないだろう。
そこで今回は実際に外壁塗装を行った大家さん3人を徹底取材。いくらかけてどんな価値が生まれたのかを中心にレポートする。物件のbefore&afterの写真もご紹介!
色見本帳を片手に物件へ通い、入居者が好むカラーを実現!
【外壁工事を行った物件概要】
エリア |
都内23区 |
物件種別 |
一棟アパート |
構造 |
木造 |
間取り |
単身者向け16室 |
塗装費用 |
約150万円 |
都内23区を中心に木造アパート、貸戸建を複数棟所有するH・Tさんは二代目大家さん。今回、外壁塗装を行ったのは築古の木造アパートだ。
「内装はかなりキレイにリフォームしていましたが、外観は手を入れておらず、だいぶ古びた印象でした。今の入居者さんはインターネットで物件探しをしますから、掲載されている写真に魅力がないと、内見にも来てもらえません。外観が汚いと仲介会社からも言われていました」
そこで、この春、思いきって外壁塗装を行うことにした。
「塗装するにあたって、一番気になるところは色です。最初はプロの不動産コンサルタントからカラーのアドバイスを受けたのですが、わりと暗めの色で、ただでさえ築古のアパートが黒っぽい色で塗ったら、どうなるのだろう……と思いました。いろいろ検討した結果、コンサルタントの意見を取りながらも自分で色を決めることにしました」
H・Tさんは日本塗料工業会発行の色見本帳を入手。雨の日、晴れの日、朝、夕方と時間帯や天候を変えて、物件に通っては見本帳とにらめっこしたそう。
「実際にどのように見えるのかチェックしたかったのです。入居者は皆さん男性なのですが、いくつかのカラーパターンを見てもらい、どんな色が好みか選んでもらいました」
その結果、これなら間違いないと決めたのが写真の水色。明るく爽やかな外装となった。

before

after
「もともと満室でしたが、1室、2室空いてもすぐ満室になります。キレイになって募集しやすくなったと不動産会社からも好評です」
入念にカラーを決めたH・Tさんだったが、塗装業者はどのように決めたのだろうか。
「もともと昔から使っていた業者さんがいまして、そこでも塗装ができます。それから不動産コンサルの方が、インターネットから10社くらい選びだした中で吟味して、4~5社に見積りをとってくれました。見積りを比較して、さらに2社に絞り、その2社と私の懇意の業者さんの計3社で検討したところ、値段だけを見れば、前からお付き合いのある業者さんがもっとも安かったのですが、内容的には別の2社の方が良いようでした。
結局、一番安くはなかったのですが、見積り書の内容が細かくわかりやすく、かつ良心的な値段な会社に決めました」
リフォーム工事もそうだが、「一式」といった形で、実際どんな工事を行っているのか不明が会社も多いのが事実。建築の素人である大家さんが見て、内容が把握できる見積り書が良い見積り書だという。
「営業マンの対応も良く親切でしたし、なにより10年保証がついているのが魅力的でした。思いきって外壁塗装を行って良かったと思います」
H・Tさんはこだわり抜いたカラーデザインに満足している。
汚れが目立たない色×アクセント色でコーディネートし、
全空から満室へ
【外壁工事を行った物件概要】
エリア |
埼玉県 |
物件種別 |
一棟アパート |
構造 |
重量鉄骨マンション |
間取り |
単身者向け11室 |
塗装費用 |
約330万円(雨漏り修繕含む) |
埼玉県に全空の重量鉄骨マンションを取得した自営業兼投資家のF・Yさん。
「私が物件を購入したのは、繁忙期にくわえて、ちょうど消費税は5%から8%へあがるというタイミング。どの業者さんも忙しく、相見積りをとって比較検討する余裕はありませんでした。昨年、埼玉県北部に入居ゼロの物件を購入したF・Yさん。築26年の重量鉄骨マンションは、雨漏りして室内の半分がカビだらけというひどい状態だったという。
そこで、信頼できる知人大家さんから紹介してもらった業者さんに、一任することにしました。雨漏りの修繕に外壁塗装、屋上防水のやり直しは絶対条件でしたので、塗装業者さんには購入前に何度も物件を見てもらいました」
というのも、雨漏りの原因がわからなければ、直しようがないから。調査の結果、雨漏りの原因もわかり、急ピッチで工事を進めることになった。
「屋上防水と外壁がメインですが、内装も全室行いますし、設備の大半も入れ替えます。さらに給排水工事、浄化槽の修理など、ほとんどを直さなければなりません」
そのため、本来ならじっくり決めたいカラーは、業者さんがおすすめする汚れの目立ちにくい色をベースにし、アクセントにF・Yさん好みの色をセレクトしたそうだ。
「もともと男性向けの物件ということで、クールなグレーなどを思い描いていたのですが、暖色がいいと業者さんや先輩大家さんからアドバイスを受けて、急きょオレンジ色をアクセントカラーにしました」
結果、全体をクリーム色、アクセントがオレンジ、鉄部は茶色と暖色でまとめた明るいイメージに仕上がった。

before

after
「リフォーム工事が終わったのは繁忙期も終わった頃でしたが、すぐに何室か入居が決まり、半年後には満室となりました。男性向けだと思っていましたが、何名かは女性にも入居いただいています。女性に受ける物件だとは思っていなかったので、これは本当に意外です。やはり見た目のイメージは大事ですね」
また全空物件というとマイナスイメージばかりが付きまとうが、外壁塗装をはじめ大規模な修繕を行うにあたって、入居者がいないということは、非常にやりやすかったとか。塗装の出来栄えには満足しているが、しいていえば、次回はゆっくり色選びをしたいそうだ。
入居希望者がスルーする古びたマンションが
スタイリッシュに変身!
【外壁工事を行った物件概要】
エリア |
北関東 |
物件種別 |
一棟アパート |
構造 |
RCマンション |
間取り |
単身者向け・店舗14室 |
塗装費用 |
約600万円弱(内、200万円はセーフティネット助成金を活用) |
北関東に14室のRCマンションを所有する専業大家のA・Kさんは、塗装は業者選びが肝と語る。当初、違う業者さんでの施工を考えていたが、見積り書を見た時、素人には判断が付きにくい内容で迷っていた。そんな時、たまたまセミナーに出席した流れで、今の業者さんと知り合う。
「最初は太陽光の屋上設置に興味がありました。屋上防水の必要性もあったので、塗装と太陽光を同時にやった方がいいのではと相談したところ、翌日すぐに現地を見に来てくれてスピード感を感じました」
塗装・外観の修繕に関して知識が全くなかったA・Kさんだが、素人にもわかりやすい説明で、自身が納得できる内容であった。
「けして激安な業者さんではありません。賃貸経営をしていくうえで、収益性も大事ですが、遠方ゆえ、現場を小まめに確認できないハンデがあります。それを考えると、工事の度に進捗状況の写真を毎回送ってくれるということや、施工内容も仕上がりもきちんとしていることが何より重要だと思いました。
激安業者さんの中には、使用する塗料の量が少なかったり、塗る回数を減らしてコストを下げたりと、誠実でない業者さんもいて、仲間の大家さんから被害の話も聞いていました。結局のところ“信用”と“信頼”ですね。きちんと施工すれば15年から20年は持ちますから。これが手抜きをされてしまえば、10年も持ちません」
かつて、リフォーム詐欺にあいかけた経験があるというA・Kさんだけに、業者選びの目は厳しい。
「工事完了後は資格を持った診断士さんと施主の私と一緒に全てチェックして、見積り書通り、施工できていることを確認しました」
なお、色やデザインは業者さんのアドバイスを得ながら、ご自身がセレクトした。
「当初は、競合他社さんから、多色使用したデザイン性のあるプランを提案されていました。しかし、長い期間飽きないようなシンプルなデザインの方がふさわしいのではないかと思いました。また地方物件ゆえ、近隣との調和も不可欠です。
そこで、ベーシックで無難な飽きがこないカラー、ただし安っぽく見えず質感にはこだわりたいとオーストラリア製の塗料を選択しました。アクセントはどこに入れるか迷いましたが、窓枠と配管ポールにバランスをとって、全体の塗装配分の15%に抑えることにしました」
カラーについては、寒い地域ということで、暖色を選択。
「赤の色味も良かったので迷ったのですが、たまたま窓枠の部屋の壁紙が南欧風なオレンジの壁紙であったので多色使いはせず、同色を選択しました」
結果、窓枠4個中2個にオレンジ色の枠があるという、遊び心があってバランスの良いデザインとなった。

before

after
そもそもA・Kさんが外壁塗装を行う決意をしたのは、建物の老朽化もあるが、入居募集の形態を選任媒介から一般媒介へ変えたことも影響しているそう。
「これまで管理会社にすべてをお任せしていたのですが、一念発起して自主管理を行うことにしました。一般媒介になったことで、空室の案内、客付けの心配があったのも事実です。外観をキレイにしたタイミングで、選任媒介から一般媒介に切り替えたところ、選任媒介の時よりも、むしろ案内が増えました」
つまり、外壁塗装が思いのほか、空室解消にきっかけになったのだ。家賃も購入時の家賃に戻り、1部屋あたり3000円~4000円アップできたという。
後日、A・Kさんがそのあたりを不動産会社の担当者に確認したところ「物件は見た目」とはっきり言われたそうだ。
「担当者がいうには、外観の見た目が良くないと、現地での案内時に“中は見なくていいです”とスルーされてしまうこともあるようです。せっかく現地まで行っても、内見してくれないのであれば、意味がありません。つまり、不動産会社からしてみると、案内してもムダな物件と思われているのですね」
この話を聞いて“外壁塗装を行って、本当に良かった”と心から思ったそうだ。
また、外壁塗装といえば、「お金がかかる大変な工事!」という印象があるが、値段にこだわるよりは適切な施工を重視した方が良いというのが、3人の大家さんの意見だ。加えて繁忙期に間に合うのかといったタイミングも重要だとか。
「人は外見」というが、結局のところ「物件も外見」。物件の規模や構造は違えど、見た目がキレイな方が空室対策としては、あきらかな効果が出ているのも事実。条件があえば、A・Kさんのように助成金を使うことも可能。築古物件を所有されている方は、一度検討してはいかがだろうか。
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