エンパイアステートビルディング
からみたマンハッタン北側(2005)

回っているから大丈夫?

A君は、30代前半の大手企業のサラリーマン。会社の仕事も順調で、給料もいいし、毎日の仕事に不満もありません。でも、最近、ちょっと心配事が・・・

A君の働く会社は典型的な日本の企業、業績も年々下がり気味。実は数年前に海外企業のM&Aに失敗し、営業赤字となり、45歳以上の先輩たちが、沢山リストラで会社をやめていきました

「僕もこのまま、この会社で定年まで働けるのかなぁ?働けたとしても、退職金や年金はちゃんともらえるのかなぁ?。。。」

「そういえば、会社の働き方改革で副業が認められたんだっけ?なんか副業でも始めようかな」と考えたA君は、インターネットでサラリーマンでもできる副業を探し始め、不動産投資に興味をもちました

A君は、さっそく、週末に開催されていたある建築会社の不動産セミナーに参加し、コンサルタントに自分の不安について相談すると、その場で新築のアパートの購入を勧められます

しかし、株式投資などの経験のあるA君にしてみれば、そんな簡単に儲かる投資があるとは信じられません。それでも、コンサルタントは、アパートの収支計画を見せながら

「この表を見ていただければわかるように、このアパートの収支はちゃんと回っていますから、なんの心配もないですよ」と強い口調で、A君を説得してきます

さすがに、セミナーを受けたその日にアパートの契約をするなんでリスクが大きすぎると思ったA君は、なんとか踏みとどまり、とりあえず資料をもらって、少し不動産投資の勉強をしてみることにしました

不動産投資シミュレーション

A君は書店に行き、サラリーマン向けの不動産投資の本を買いました。そこには、不動産投資を始めるにあったていちばん大切なことは、業者の説明をそのまま信じずに、自分で不動産投資シミュレーションをすることだと書いてあります

ただ、困ったのは、本には不動産投資シミュレーションの説明が書いてあるのですが、聞いたこともない言葉や計算ばかりで、何をどうやって、どう判断したらいいのか、イマイチよくわかりません

「まあいいか、あのコンサルタントの会社も一部上場の優良企業だし、まさか僕をだますようなこともしないよな。もらった表を見る限り、収益は回っているようだし心配ないかな」

実はA君、会社では経理部門で働いていて、会計の知識はあります

「なるほど、毎月の家賃収入から不動産の経費を引けば利益が出るのか。確かに税金を引いても、毎年、プラスになっているというは、回っているっていうことなんだな」

「でも、アパートだから空室とか心配ないのかな?そういえば、たしか、少しぐらいマイナスの月があっても、ローンに団体信用保険がついているから、その時は保険料をはらったと思えばいいって言ってたっけ?それに、22年後には家賃が年金代わりになるって何かいいよなぁ。これでぼくも大家さん!なんて呼ばれちゃうんだ」

A君は、すっかり、そのアパートを買う気になっていましたが、なにか引っかかるものがあって決断できません

「そうだ、そういえば会社のT先輩、アパートとか持っているっていってたな。一度、相談してみようかな?」

会社のT先輩

会社のT先輩は、A君より約20歳年上の50代前半ですが、A君とは大学のサークルの先輩・後輩という間柄で、会社に入社する前からいろいろを相談にのってもらっていました

さっそく、A君は、T先輩に今回の新築アパート購入の相談をしました

「先輩、どう思います?収支を見る限り、回っていると思うんですが・・・」

実はT先輩は、おじいさんの時代から城南で大家業をやっていた家庭に育ち、自身も不動産投資の経験が20年もあるベテラン不動産投資家だったのでした

「A君、たしかにこの表を見せられて、初心者だったら回っている信じてしまうかもね。でも、これだけを見てこの物件の購入を決めていたら、何年か後に大変なことになっていたよ」

「えっ!T先輩、それって、空室率のことですか?アパートって年数が経つとそんなに空室率が上がるんですか?」

「いやいや、空室率だけが問題じゃないんだよ。今回、ローンを使ってアパートを買うんだろう?であれば、時間の経過にともなって収益がどのように悪くなっていくかを理解しておかないといけないんだ」

「えっ!?収益って、そんなに悪くなっていくんですか?」

「悪くなるだけじゃないんだ、あることが終わるといいこともあるんだよ。よかったら、サラリーマンのための不動産投資シミュレーションについて僕の考え方を伝授してもいいよ」

「T先輩!よろしくおねがいします!」

「詳しくは今度、ゆっくり教えてあげるけど、サラリーマンのA君は次の2つの鉄則は絶対に覚えていておいてね」

サラリーマンの物件選びの鉄則
・物件単体の利回りだけで判断しない
・1年目の利回りだけで判断しない

とA君はT先輩からアドバイスを受けました

「物件単体の利回りだけで判断しない??そんなこといったら、その物件がいいか、悪いかわからないけどなぁ・・・、1年目の利回りだけで判断しない?、あっ!これは大丈夫だ。コンサルタントにもらった22年間の表があったから」

そして、T先輩は別れ際に、

「A君、次回は、サラリーマン大家さんが本当は最初に計算しなくてはいけないけど、ほとんどの人がやっていない、サラリーマンの〇〇の△△の計算をやることにしよう」

とA君には意味のわからないことも言い残していきました

「サラリーマン大家だから?専業の大家さんなら違うのかなぁ・・・」

キャシュフローはプラスです

数日後、A君は、T先輩の自宅にやってきました

 「T先輩、この22年の収支表を見てください、ずっとCF(キャッシュフロー)はプラスです。それでも、この物件って、やっぱりだめなんですか?」

「A君、まあまあ、そう焦らないで。この間、相談を受けたときの最後に、次回はあれをやろうって言ったよね?」

「あー確か、サラリーマン大家さんが最初にやらなくてはいけないのにほとんどの人がやっていないというやつですね。たしか・・」

サラリーマンの給与のCF計算

「ですか?」

「その通り!CF:キャシュフローとは、すなわち手取りのことだけど、A君は自分の年間の給与の手取りはいくらか知ってる?」

「それぐらいわかりますよ、毎月会社から振り込まれるお給料を12ヶ月分足せばいいんでしょ」

「正解!じゃあ、A君、それがどうやって計算されているか調べたことある?」

「いやー、源泉徴収票に書いてあるのかな?でも、CFとか手取りとかいう項目あったかなぁ???」

サラリーマンの給与のCF計算

A君が言うように、源泉徴収票にCFとか手取りという項目はありません。なぜなら、源泉徴収票の目的は、税務署がサラリーマンから所得税を徴収するための計算をすることで、サラリーマンの手取りなど、税務署には関係ないからです

でも

サラリーマンの給与のCF計算

まずこれを知らずに、不動産投資をして自分が儲かっているのか?実は損しているのか?を判定できないのは当然のことではないでしょうか?

でも、こういうことをいうと、こんな反論をする人がいるかもしれません

別にサラリーマンの給与のCFがどうだっていいんじゃないの?だって、物件が単体で十分に回っていれば、サラリーマンの給与になんにも影響なし、それこそ、最後に売ってプラスになることの方が重要じゃない?

本当にそうでしょうか?

① 所得計算=課税所得を求める

CFを求めるために、所得から所得税を求める計算は避けて通れません。所得と所得税の考え方と流れは、確定申告の第1表そのものですが、確定申告をしたことのない方のために確認しておきましょう

まず、課税所得を求める必要があります

課税所得=給与-給与所得控除-所得控除

 これを以下の図で示します

給与所得控除:
 給与の額に応じて自動的に決まる控除額
 (実際に支払わない控除)

所得控除:
 基礎控除など家族構成で決まる控除額
 (実際に支払わない控除)
        
 社会保険料
 (厚生年金や健康保険など払った控除)

課税所得=給与-給与所得控除-所得控除

課税所得が求まれば、所得税と住民税の額が計算で求まります

バーチャルな課税所得を求める理由は、サラリーマンの税金を計算するためだけと覚えておいてください

「控除が2週類もあるなんて、複雑だなぁ・・・」

これに対してCF=手取りとは、リアルな金額なので、リアルに動いたお金だけで計算します

CF=給与-社会保険料ー税金

課税所得CFは似て非なるものですが、混同されやすいので注意が必要です

もう一度、上図をみて、
・給与
・給与所得
・課税所得
の関係と違いを頭に入れてください

②キャシュフロー計算=手取りを求める

課税所得(横軸)と所得税率(縦軸)の関係は以下の図のようになっています

この図のように、課税所得の増加に応じて税率が上がりますが、すべてにその税率がかかるのではなく、低い税率から金額に応じて階段状に税額が決まって行くので安心してください。しかし、重要なことは、課税所得が高額になってくると、所得を増やしたとしても、増やした分の所得にはすべて高額な税率の所得税がかかってきてしまいます。グラフから分かるように、特に課税所得330万と900万円は重要なポイントです

では、A君(30代前半)のサラリーマンの給与のCFを見てみましょう

A君の年収=給与は550万円。A君は結婚していて、奥様は専業主婦なので配偶者控除も受けています。課税所得は224万円です
(住民税は仮に所得税の課税所得の10%としています)

所得税はどうなるでしょうか?先程のグラフに、A君の課税所得を当てはめると所得税は13万円です。住民税を10%とすると、給与のCF=429万円です

「T先輩、自分のお給料のCFの計算の仕方がよくわかりました。じゃあ、次はアパートを買ったときにこれがどうなるかが、不動産投資シミュレーションなんですね」

「A君、その通り。でも、せっかくだから、僕の給与のCFも教えちゃおうかな。僕も一応、会社の部長だし、年収は1200万円だよ」

「T先輩、すごい!僕より、650万円も収入が多いなんて!」

「いやいや、そうも喜んではいられないんだ。これが、僕の給与のCFだよ」

「T先輩、なんかおかしいです。だって、お給料が僕より650万円も多いのに、CFは438万円しか多くないですよ」

「そうなんだ、その理由は、所得税の累進課税に原因があるんだよ。僕の累進課税のグラフを見てみようか」


「T先輩、税率が全然違いますね。これって、あんまりじゃないですか!?」

「A君、それどころじゃないよ。A君はまだ若いから会社の社宅に入れて家賃はほぼ0円で、僕は住宅ローンが月に15万円。さらに、2人の子供は大学院に行っているけど、23歳以上は扶養家族控除もなし。奥さんは、フルタイムで働いているから扶養控除もないんだ。実際、サラリーマンのCFだけ見れば、僕よりA君の方が可処分所得は多いんじゃないかなぁ。今度、一杯おごってね」

「T先輩、僕、はっきり言って、出世する意欲がなくなりました・・・・」

上の図から想像してください

不動産の所得はサラリーマンの所得と合算されて、総合課税で課税されます。ということは、所得の高いT先輩のような人がアパートを買い、課税所得が900万円を超えた分には、所得税33%と住民税10%の合わせて43%がかかってしまいます。(控除がありますが更に事業税5%も)要するに、頑張ってアパートを増やしても利益の半分は、税金で持っていかれてしまうと言うことです

実はA君も似たようなもので、今は税率が所得税10%+住民税10%ですが、アパートを買い、所得税20%+住民税10%となれば、せっかくのアパートの稼ぎから30%が税金でもっていかれてしまうわけです

この現実の前に、年収の違うサラリーマンに、物件の収支表を見せながら

この物件は回ってますから安心です!

などと口が裂けてもいってはいけないのです(これは後ほど数字で証明します)

「A君、このことを知らずに不動産投資を始めてしまうサラリーマンが多いんだよね」

「T先輩、サラリーマンの給与のCFを理解しなくてはいけない意味がよくわかりました。それにサラリーマンが、物件単体だけで判断してはいけない意味も」

累進課税の仕組みと、自分の給与のCFの計算方法がわかったことに、A君はとても満足していました

物件単体のCFとは?

まだまだわからないことだらけのA君でしたが、今日の本題は、建築会社のコンサルタントが勧める新築アパートに投資していいのかどうか、T先輩に相談することです

以下は、この物件の仕様です

・新築木造2階建て、1Kx6戸
・販売価格:6000万円
 (土地2500万円、建物3500万円)

・表面利回り:8%
・提携ローン:金利2.8% 22年
・神奈川県川崎市、私鉄の駅徒歩11分

「T先輩、コンサルタントは、しきりにこの物件は回っているから大丈夫って勧めるんですけど・・・」 

A君は、コンサルタントから以下のような不動産投資シミュレションの資料ももらっていました

 「A君、このシミュレーションは問題、大ありだね。なんとか物件単体のCFを出そうとしている気持ちはわかるけどね。じゃあ、さっそく、初心者でもわかりやすい不動産投資シミュレーションのやり方を順番に伝授したいけど、まずは、上の表の税金部分の間違いに注目してほしいなぁ」

(つづく)

「シミュレーション日記」、いよいよ始まります

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました