最近、FIRE(Financial Independence Retire Early)という言葉が流行っていますよね。
31歳女性のクリスティー・シェン氏他が書いた
「FIRE 最強の早期リタイヤ術 最速でお金から自由になれる究極メソッド」(2015年)
という本がそのムーブメントの火付け役の一つだと言われています。
この本をざっくり要約すると、
①31歳まで夫と一緒にそれぞれ年収1,000万円(夫と合算で2,000万円)という年収の高い職業に就いた
②倹約し貯蓄に励み、それらをインデックス投信・債権等の安定的な運用益が期待できる資産に変えた
③インデックス投信・債権等が100万ドル(約1億1,000万円)分になったところでリタイヤした
④4%ルール※があるので以後は確率的に一生働かなくても大丈夫。
というものです。
(※4%ルールとは、年間支出の25倍の資産を築けば年利4%の運用益で生活費をまかなえるという考え方。例えば年間支出が400万円の場合、その25倍の1億円があれば運用益で生活できるし破綻確率は低いので大丈夫という考え方。)
FIREムーブメントを起こしたといわれる同作は読んでいて面白かったです。
ですが、理論的な部分は借用概念が多いのでこの本を読むのであればトマス・J・スタンリー氏他が書いた「となりの億万長者」等も併せて読む方がよいと思います。
また、この本の理論的な部分は20年以上前に書かれたとなりの億万長者とあまり変わっていません。
それでもこの本がヒットした理由の本質は
彼女が31歳で若くして働かず、残りの人生を主人と一緒に世界中を自由に旅して回るライフスタイルを実現した(ように見える)ことに対する憧れが潜在的な需要を呼び起こしたというところにあるように思います。
まだ若い彼女が美しい異国の風景をバックにした写真をインスタにアップしていたらそれに興味を持つ人は多いと思います。
それに憧れを抱き、自分もFIREしてやる!というモチベーションに繋がるのは悪いことではないと思います。
今回の話は、この本をできれば違った目線で読んでみようというものです。
例えば、この本を読む際に、
「彼女の主人は一緒に倹約して全く同じ投資をしているはずなのに主人の描写が少ない。そして、どうして主人には執筆依頼はこなかったんだろう?」
「彼女の説明の記述はたくさんあるけど主人の説明の記述はあまりない」
といったことを疑問に思う人もいるかと思います。
そこで、出版社が、
①主人は30代の男性だから彼を主体的に書いた本よりも彼女を主体的に書いた方が売れるだろうと判断したのかな
②彼女が若い女性であるという比較的高い商品価値を認識していたから出版したのかな
と考えることもあるかと思います。
ここで、世の中の不動産投資本に自費出版が多いのは全体の需要が比較的少ないためその商品価値が低いからなのかな、と考えることも飛躍した考え方ではないと思います。
この本が書かれた2015年において31歳であった彼女を批判するわけではありませんが、本に書かれていない話や彼女のその後も考慮する必要があると思います。
意図的であれ無意識であれ、一部の事実を書かないことはよくあるからです。
例えば、「俺に不動産の質問があるのなら本を100冊読んでから俺のところへこい」的な人に影響を受けて100冊の本を読むことがあるかと思います。
そこで読む100冊の不動産投資本の内容には作者にとって都合の悪いことは書かれていないということがあるかもしれないと思って読むことをお勧めします。
そして、もし作者が書きたくなかったことがあり、それが分かったならば、重要なのはその書かれていない「都合の悪い」内容であることを分かっていただけると思います。
例えば、代表的なものは、
①普通以下の属性を強調しているが実は某上場企業勤務
(実は高属性パターン)
②普通のサラリーマン属性を強調しているが、祖母から不動産会社と文化住宅を引き継いでいる
(実は相続パターン)
③賃料や資産額のみの記述しかない
(資産額=借入金額で本当は回っているのかどうかわからないパターン)
などです。
これらが分かれば、
・自費出版をしているのはなぜなのか。
・献本が多いのはなぜなのか。
・○ま書房から出版されているのはなぜなのか笑
といったことの答えにつながるかもしれません。
また、
①や②のパターンであれば再現性がないことを隠す理由はより多くの集客のためであるということ、
③のパターンであれば自己承認欲求か何か他の意図がある(例えば高額塾などのマネタイズや自分の物件を高く誰かに買ってもらうこと)
といったことが分かるかもしれません。
このようにこの人にとって言いたくないことはなんだろう?と考えながら読むことはその人を理解する上で有用ではないかと思います。
そして、100冊読んだ後でどのくらいの知識につながるかというと、それほど多くの知識にはつながらないかもしれません。
そして何が書いてあったかも2週間経つとほぼ忘れている可能性があります。
(少なくとも私はそうでした笑)
むしろ、100冊読んだことによりマインドセットが完了し、すぐに始める方が時間軸を考えた場合有利であるといったような一見正しそうに見える煽りに嵌まりやすいような気がします。
話を彼女に戻しますと、2015年に彼女の本が出版されましたが、その後コロナ禍が訪れました。彼女の全財産の大部分を占めるインデックス投信は平均株価と連動します。
コロナ禍直後にはNYダウ平均株価は29,000ドル前後から19,000ドル前後に下落しました。同株価は3分の2以下になったので彼女のインデックス投信も同様に3分の2以下になりました。
現在は余ったコロナ禍対策マネーの市場への流入により株価は回復しましたが、
昨年の令和2年3月時点においては1月も経たずにガクンと減ってしまった自分のポートフォリオを見て彼女は震えが止まらずにいられたでしょうか。
また、世界中を旅して生活していた彼女と主人ですが、物価の高い国に滞在し、手元のキャッシュが乏しくなってきたときは物価の低い東南アジアの滞在割合を多くすれば安く生活できるからオーケーと書かれています。
ですが、コロナ禍においては東南アジアへの移動も滞在もリスクがあるのではないでしょうか。滞在コストの高い国での突然のロックダウンリスクもあります。
【まとめ】
一言でまとめますと、
FIREしている人に憧れてなんとなく始めたりすると危険を回避できない可能性があるので慎重に行動した方がよいということです。
(養分認定されてしまうかもしれないし、似たようなのに名簿を共有されてしまうかもしれないし、最後にはあなたの財産も信用もなくなってしまうかもしれません。)
前述しましたが、FIREを実践している(ように見える)人への憧れで自分のモチベーションを維持することは悪いことではないと思います。
しかし、特定の誰かへの憧れで入った人で、「まだ都会で消耗してるの?」的なキャッチーなフレーズに惹かれて投資の入門のドアを叩いたのであれば、養分にされる可能性を否定できません。
多くの場合、インフルエンサーはポジティブなことしか言わず、本人しか儲からないものです。
(少なくともFIREの作者は印税とSNSのマネタイズだけでも生活できます)
ウォーレンバフェット氏は言いました。
「30分ポーカーをした後でその場の誰がカモか分からなかったらあなたがカモだ」
以上、常々思っていることを書いてみましたが、それでも私はカモでいいのでお家賃ブロイラーになりたいと願っています。
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