どんなことにも原因がある。
 平成バブルが膨張し、そして崩壊した原因は何だったのだろうか。

 なにが起こったのかを説明するために、このとても複雑な物語をどうスライスすべきか。私なりにいろいろ悩んだ結果、以下のテーマでまとめることにした。

1.市場と財テク
2.土地神話の崩壊
3.政府と日銀
4.日本と国際社会

 これで・・うまくいくハズ・・たぶん。

 さて、これからお届けする切り口は「市場と財テク」である。
 不動産についてはこれまで何度か書いてきたので、今回は主に株や証券会社の話となります。

 

図1:平成バブル年表DX_v1.2(ちょっとバージョンアップ)

◆ 証券会社のピンチ

 閉鎖的だった日本の金融業界は、国際社会からの規制緩和圧力にさらされた。名実ともに先進国となった日本は、それに応える義務があった。

 銀行が不動産担保融資にのめりこんだ経緯については「#59 銀行のピンチを解決した魔法」で見た通りだが、財テクを語る上で大口定期預金の自由化にもふれておきたい。

 大口定期の最低預入額は段階的に引き下げられ、金利も自由化され、銀行間の競争は激化した。お客さんをつかまえておきたい銀行は、高い金利を提示してがんばった。

 焦ったのは、資金獲得で銀行とライバル関係にある「証券会社」だ。大口定期の金利は高止まりし、リスク資産をあつかう証券会社にとっては死活問題となっていく。

 だって、ノーリスクで4%くれるヤツがいるのに、わざわざ株買う?

 このままではマズい。銀行にもっていかれてしまう。

 

図2:銀行は必死に頑張っていたのだと思う

◆ 営業特金

 特金(特定金銭信託の略、「とっきん」)は、お客さんの指図にしたがって売買を代行する信託サービスである。

 これはおもに証券会社のサービスだったが、信託銀行のファントラ(ファンド・トラスト)というサービスもあった。だいたい同じようなものだ。

 特金とファントラは、財テクブームのど真ん中で株高を牽引した。

 さらに特金の上位バージョンには、大口顧客向けの営業特金(えいぎょうとっきん)があった。
 普通の特金となにが違うかというと、営業特金は、銘柄選定やタイミングなどの意思決定を含め、証券会社に運用を一任する。早い話、サブリースみたいに丸投げできるわけだ。

 証券会社には、売買による多額の手数料が入ってくる。銀行との競争で生き残りをかけた証券会社は、この営業特金に活路を見いだした。

 ここで、ちょっと想像してみてほしい。

 その道のプロにということで、一任したお客さんに対して「マイナスぶっこいちゃったてへ」と言ったら・・超おこられそう、許してもらえそうにない。

 つまり元本保証・高利回りの大口定期に対抗するには、証券会社も高い利回り保証をする必要があった。

 利回りを保証する、とは具体的にどういうことか。それは、もし運用がうまくいかなくても、証券会社が損失を補填することを意味する。
 このような利回り保証・損失補填は「にぎり」と呼ばれ、おもに口頭によって約束がかわされた。なぜなら、損失補填は違法だから。

 まあでも、株が上がっているうちは騒ぐほどのことじゃないかもしれない。上がっているうちは・・ね。

 全盛期の営業特金は、10%を超える利回りを保証していたと言われる。

図3:利回りを保証した営業特金で対抗

◆ ザ・財テク

 国民的な株投資ブームのきっかけは、NTT株公開だった。

 1987年の一般売り出しでは、抽選の申込者が殺到し、その数なんと1060万人に達した。

 1060万人?国民の10人に1人がNTT株を買いたがっている・・そんなバカな。ビットコインどころの騒ぎではない。

 買い負けた経験がある不動産投資家のみなさんなら、抽選から外れた人の気持ちが痛いほど分かるだろう。 
 「持たざるリスク」「機会損失」などの甘美な言葉が、どれだけ強力にあなたを動かすか。買いそびれた直後、しょーもないものに手を出す確率がどれだけアップするか。

 要するにNTT株公開は、1000万人の「買いたい病患者」を産み落とし、株式相場全体の温度を上昇させたのだ。

 株の大ブームが到来し、大企業の資金調達は直接金融にシフトしていく。(同じく詳細は「#59 銀行のピンチを解決した魔法」を参照)

 

図4:株式相場全体が活況となり、大企業は直接金融へ・・

 

 ここで、ひときわ輝かしい「テク感」を放つ、代表的な財テク手法を紹介したい。

 企業はまず、社債やCP(コマーシャルペーパー)などの債券を発行する。市場には買いたい病患者がうじゃうじゃいるので、資金調達はことごとく成功する。
 そうして4.5%などの低利で調達した資金を、利回り保証つきの営業特金や、大口定期につっこむ、以上!

 これだけで利ざやが稼げる。まるで錬金術のようじゃあるまいか。

 このような財テク手法は、大企業の間では一般的だった。
 そして、多くの財務担当者はこの方法を「ノーリスク」と考えていたのだ。

◆ まとめ

 財テクで生み出された大量の資金は、土地値や株価をさらに下支えし、富は無尽蔵にふくらんでいく。損する可能性はゼロ・・確かにそう思えなくもない。ただ、

・銀行の過度な土地担保融資
・営業特金の利回り保証
・転換社債による資金調達と運用

 これらはすべて、土地や株の値上がりを「前提」としたものであった。

図5:パーフェクト・バブル・フォーメーション

 

 ご存じの通り、この「前提」には終わりがおとずれる。

 次回は「市場と財テク」がどのように崩壊していったか、その経緯についてくわしく見ていきたい。