ある日我が家に、妹のクラスメイトが遊びに来た。
 その子が帰ったあと、私の母はテーブルに置いていた1万円札がなくなっていることに気づいた。状況からその子が持って帰ったことはほとんど明かだった。

 我が家はとても貧乏だったので、1万円を失うのは相当な痛手だったが、母はそれを取り戻そうとか、オオゴトにすることはついぞなかった。そのかわり、母はお金をテーブルに放置した自分の不用心さをメチャクチャ反省した。

 自分のせいであの子に悪いことをさせてしまった、申し訳ない、と。

◆ 4630マンは悪人か

 山口県の自治体が4630万円を誤送金し、しかもそれが返ってこないことが話題になっている。
 誤送金され大金をゲットした24才の若者は、オンラインカジノで「スった」と主張していて、電子計算機使用詐欺容疑で昨日逮捕された。

 ネット上ではこの若者への批判、誤送金した役所への批判や擁護など多様な意見が飛び交っているが、似た話を聞くたび、私はいつも冒頭のエピソードを思い出す。

 この24才の若者と同じことがみんなの身に起こったとして、いったい何割くらいの人が倫理的に行動できるだろう。

 たとえば、新コロの持続化給付金詐欺が注目されたとき、心当たりのある人たちは大慌てした。そして2万件という、決して少なくない数の給付金返還が申請されるに至った。100万、200万の金額でもこのありさまだ。

 これらはもちろん「悪いこと」だ。
 でも私は、彼らが悪人であるとは思わない。

 私は、世の中に「悪い人」はほとんど存在しないと思っている。
 ただし、「弱い人」はものすごくたくさんいる。

 4630マンも、これまで普通の若者と同じように生きてきたと想像する。そこに突然ふってわいた大金が、彼の軟弱な倫理観をへし折った。

 つまり、弱かったのだろう、と思う。

 そんなリスクを負う金額ではないとする向きもあるが、じゃあそれが4630億円だったらどうだろうか。

 まあ、大多数は「身の危険を感じて返す」かな・・でも、彼のように不法な勝負をする人が一定数いても、なんら不思議ではない。

◆ 魔人が巣くう業界

 不動産業界は、悪い人がうようよしているイメージが一般に定着しているように思う。

 しかしここで「悪い」と言われる人たちも、大事な家族や親をもつ「ただの弱い人」だと私は考える。

 私個人は、低属性でたいした現金もない「ガリガリのヌー」なので、ハンターたちに狙われることはない。
 何かの間違いでマンションの営業電話がかかってくることもあるが、「オレ自営業なんだけど、どうする?続ける?」と言えばほぼ100%すぐに電話を切ってくれる。

 でも、大規模な投資家や高属性のサラリーマンは「まるまると太ったヌー」のように、見るもののヨダレを誘い、彼らの「弱さ」を現出させやすいだろう。

 入居者さんとの関係でも同じことが言える。
 典型的には、家賃滞納などで「いいよいいよ」な対応は、きっと相手の弱さを膨張させてしまう。

 そうならないために、原則に沿ってタスクをこなし、おかしな妥協をせず、きちんと勉強し続けなければならないのだと思う。

  それは「ナメられたら負け」とかいう次元の話ではなく、素朴で弱い人々に悪事を働かせないために必要なことだと・・規模が小さいながら、自戒を込めてそう思っている。

◆ まとめ

 性善説も性悪説もたぶん間違っている。
 善人も悪人も実はほとんど存在せず、水が氷や雲になるように、人間は状態変化しているに過ぎないと思う。

 沸点は人によって違うけれど、私やあなたが同じ過ちをおかす可能性は十分にある。
※ イメージとしては「半沢直樹」や「笑ゥせぇるすまん」に登場する人みたいな

 不動産投資においても、人間は弱いということを前提におき、弱さを現出させない付き合い方を心がける必要があると思う。

 

 この 誤送金をやらかした自治体は、私の母がテーブルに1万円を放置したのと同じミスを犯した。ひとりの若者が蒸発するきっかけを与え、取り返しが付かない状況になったことを大いに反省してほしいと思う。

 そしてこの若者が罪を償って、そのあときちんと社会で活躍できることを願う。

 ひとことで言うと、罪を憎んで人を憎まず、ということになります。