3月末に亡くなられた入居者さんの残置物が5月17日に保証会社によって回収、保管された。

一旦、回収、保管されると仮に貴重品等が出てきたとしても、もし相続人がその貴重品を保証会社から送ってもらうなど手配したい場合には、それは相続する意志を意味し、保証会社が被っている、代位弁済家賃、残置物回収費用、保管費用を支払わなければならない。逆に、相続人が相続放棄してしまうと保証会社の債権回収に充当されてしまう。

 

お兄さんの了承の下、事前に部屋の中にある貴重品とお墓に入れて欲しいあるものを回収しておいた。

色々調べたが、昔はNGだったが今は法律が変わり、相続予定人は相続するか否かに関わらず、被相続人が遺した現金や預金口座から、被相続人が有する債務の支払いをする事は認められているようだった。

現金は総額で40万円近く出てきた。

 

「大家さんご迷惑を掛けない様に過ごしますので宜しくお願いします」

 

物件を購入し、入居者へ挨拶へ行った時に言われた言葉だ。

その後の生活態度を見ても、3年半、一度も問題もなく、平穏無事に過ごしてくれた。

 

しかし、

緊急連絡先になっていたお兄さんに彼の死について報告した時に出てきた言葉は

「迷惑やな~。」

だった。

 

なんて悲しい言葉だろうか。唯一と思われる、身寄りの実兄は彼の死を迷惑がっていたのだ。

お兄さんは、自身の名誉の為に続けた。

「いやね、もう50年も会うてないんですわ。うちは7人兄弟なんやけど、あいつは一番したでしてね、若い頃にはようさん迷惑かけられたけど、もう絶縁状態みたいなもんで、なんで勝手に緊急連絡先にしよるんやろか~。」

 

それから何度もお兄さんとは電話で話した。

お兄さんは、借金取りからの督促状が届いていないかしきりに気にしていたが、私は何度も彼に言った。

「〇〇さんとは、友達でもなんでもありませんが、お会いした時の表情や、日常の生活態度からも、他人に迷惑をかけるような人ではないと思います。責任は持てませんが、私は絶対借金とかしていないと思いますよ。」

最初の頃は、

相続放棄する事やなんで自分がやらないといけないのか的な愚痴もこぼしていたが、日が経ち、故人を想う気持ちが少しずつ芽生えてきたのか、実家のお墓に弔ってやるつもりだと言ってくれた。

 

「じゃあ私が、お墓に入れるものを回収してお送りしますね。」

そう約束していた。

 

「お兄さんが面倒でただただ放棄したいならば、それはそれで構わないからダイイングメッセージと一緒に彼の名誉の為に現金も送るから墓に入れてあげてください。」そう伝えてもいた。

上の写真は、ダイイングメッセージと思われるメモ書きだ。

三枚のキャッシュカードの全ての暗唱番号が書いてあり、下のムコの部分に私の苗字が書いてあった。

勿論、

原状回復費用は100万円を超えるので、過去に火災保険の給付金があったとは言え、可能であれば部屋にあった現金はそこに充当したい気持ちもあったが、メモ書きを見た時に大家人生で初めてとりっぱぐれる覚悟をしたので、判断はお兄さんに委ねることにした。

 

保証会社から残置物の移送作業終了の連絡が来たので、お兄さんに電話をし、今後の流れを確認した。

相続は6末までに放棄する方向で考えているようで、保証会社に保管されている残置物はもほどなくして廃棄されるだろう。

改めて、事前に遺品を回収しておいてよかった。

 

入居者さんは、過去に大きな過ちを犯したのだろう。

お兄さんにも迷惑をかけたのだろう。

私は常に何百人もの入居者と関わっているわけだが、私と出会った時には既に彼は優良入居者だった。

そんな彼が緊急連絡先に指定したお兄さんは、7人兄弟の4男だが、実家の家業を継いだのはそのお兄さんであり、やはり彼が緊急連絡先にしたのには理由があったのだ。

お兄さんがこんな事を言っていた。

「ムコさん、私ねえこの年になって思うんですわ。思いもせずに実家を継ぐ事になって、父の相続の面倒も見て、80才になって10才年下で50年も絶縁状態だった末弟の弔いまですることになったけど、これら全部、ご先祖さんからなるべくして私に与えられた運命なんやと。なんや、いつか読んだ本にもそんな事書いてありましたわ。家ゆうもんはうまく出来とるんやなあと。そやから、弟もちゃんとご先祖様と一緒にしたろうと思いますわ。」

それを聞いた私は身をわきまえずに思わず口走ってしまった。

「そうですか。本当良かった。〇〇さんも絶対喜んでいますね。」

っと。

お兄さんが続けた。

「そやけど、ムコさんにはほんまご迷惑おかけしてもうてすんませんなあ。私もこの年で部屋に行くのも出来ませんでしたし、色々ホンマにありがとうございました。私が決めてええんか知りませんけど、部屋にあったお金はムコさんが債権に充てて下さい。故人もそれを望んでいるようやし。一応、弁護士に相談だけさせてもらいますけども、私はそれでええと思いますわ。」

 

手元に遺った現金は、きちんと過去に受け取った火災保険給付金の金額で賄える分を差し引いて、実際に原状回復費用としてかかる分だけ頂戴し、残りがあれば彼がヒトに迷惑を掛けようにと思って逝った証として、メモ書きと彼が毎日見つめたであろう彼の直筆と思われる習字と共にお兄さんに送ろうと思う。

 

※写真は実際の入居者の書いたもの

※写真は日付に関係なくこのページで止まっていた日めくり。

 

〇〇さん良い経験をさせて頂きありがとうございました。