楽待実践大家コラムをご覧の皆様、元ポスドク理系大家です。

 

本日は利回り 30% 越えを謳うデータセンター投資についてコラムしたいと思います。

 

映画「シン・ウルトラマン」

 

その前にちょっと脱線させてください。私はまだ見に行けていないのですが、映画「シン・ウルトラマン」の主題歌が「M八七」と聞いて思わずにやけてしまいました。

 

M78 星雲がウルトラマンの故郷だというのはお馴染みですが、これは M87 だったのを、M78 と間違えたという話でご存知の方もいると思います。天文学者も良く一般向けに話をするときにネタにします。M87 の方がウルトラマンの故郷として相応しい!とかそんな感じです。

 

脱線ついでにもうちょっと説明すると、M78 はオリオン座にある星雲ですが、天文学的にはつまらない観測対象です。それに比べて M87 はおとめ座の方向にある楕円銀河でその中心には大質量ブラックホールがあるとされています。しかもその中心からは光速に近い速度でジェット(ガス)が放出されています。非常に活動的な天体なので、世界中の天文学者が注目しています。つまり、ウルトラマンの故郷として相応しいです。

 

2019 年に地球サイズの巨大な電波望遠鏡を作るという国際プロジェクト(イベント・ホライズン・テレスコープ)でブラックホールの影を捉えた成果が世界的に権威のある科学雑誌ネイチャーに掲載されましたが、これも M87 を観測したものです。ノーベル賞級の成果として注目されましたね。日本側のプロジェクトリーダーも連日テレビに出演されたりして、天文業界も騒がしかったです。

 

しかし、ここに来てさらに面白いことになって来ました。ネイチャーの論文の結果にどうやら疑義が生じたようです。データが公開されているため、そのうち検証論文が出ると思っていましたが、アクセプトされたと主著者(日本人)の方が報告されていました。国立天文台から記者会見が予定されているようです。

 

非常に楽しみです。3 名の共著なんですが、皆さん私の知っている方です。ネイチャー論文が間違っていましたという話は天文業界では珍しくないんですよね。

 

まあ、ネイチャー論文の結果はあるべきはずのもの(ジェット)が捉えられてないので、おかしいと感じていた天文学者は結構いたのではないかという気がします。

日本人は何を言うかよりも、誰が言ったかを重視する人が多い気がしていますが、どんな権威が主張してもおかしいことはおかしいです。さて今回は?

 

不動産投資会社がデータセンター投資に注目?

 

さて本題です。ビックデータ・AI・DX・IoT などいろんな言葉が躍っていますが、これらを支えるインフラでもあるデータセンターの需要が高まっています。さらに LINE の問題で注目されましたが、国内にデータを移転する流れもあってデータセンターが足りないという話があります。不動産投資の観点から見ると、物流倉庫や物流センターと同じ構図というわけです。投資しようという流れがあります。

 

しかし、個人はもとより中小法人がデータセンターに投資するのは大変です。サーバーそのものや電気代は入居するデータセンター運営会社が負担することになるでしょうが、既存建物だとそのままでは使えません。

 

例えば、床はフリーアクセスフロアにしてサーバーラックを設置できるようにしたり、専用の電源工事や空調工事、高速なインターネット回線の工事なども必要になります。免震構造にするとかも考えたら、新築した方が良いような気がします。

 

というわけで、資力の少ない場合でも投資できるという新型データセンター投資が出現したみたいです。

 

新型データセンター投資の中身

 

まず、この投資事業を行っている会社さんは、中小法人をターゲットにして営業活動されているようです。ホームページのキーワードを拾うと

 

「ビックデータの解析, AI処理, ゲノム解析, ブロックチェーン技術, レンダリング処理」に特化

低コストで導入

高い収益率

非収益物件の活用も可能

不動産価値の向上

集客不要で家賃収入以上の収益

サーバーを減価償却できる

 

こんな感じです。ちなみに、サーバーの減価償却は 5 年です。PC は 4 年。ソフトウェアは特別償却(即時償却)が可能です。売りは日本品質のデータセンター事業ということで、

 

独自の液浸冷却で処理能力低減を防ぐと共に収益期間の向上による高い投資収益率

 

を提供するそうです。さらに事業イメージが図で示されていましたので、私が読み取った内容も加えて図を作りました。

 

 

なお、利回り 30% はホームページではなく、DM で謳っていました。基本はサーバー機器に投資する形ですが、所有している物件をデータセンター化して高収益物件に生まれ変わらせることもできるそうです。

 

事業として成り立つか

 

まず、おかしいのは事業イメージ図ですね。最初みたときに椅子から転げ落ちそうになりました(笑)

 

データセンターの利用料はどこから出てくるのでしょうか?

 

肝心のデータセンターがどうやって収益を稼ぐのか分かりません。この図だけだと投資したお金がグルグルと回るだけになってしまいます。

 

普通は、データセンターに利用者(法人・個人)が居て利用者にサーバーの処理能力を提供することで利用料を得る必要があります。3 大クラウドサービスでもある Amazon Web Services(AWS)、Google Cloud Platform(GCP)、Microsoft Azure(Azure)全てそういう収益モデルです。

 

でも何故かこの事業会社はそれとは違う収益モデルだと言っています。

 

意味不明

 

です。

 

あるわけない投資

 

順に見ていきたいと思います。既存物件をデータセンターとするのは難しいことは説明したので、それ以外を中心に。

 

まず、「独自の液浸冷却」から。液浸冷却は普通にある技術です。独自というからには特許技術かと思って、この会社さんの特許を調べてみましたが、見当たりませんでした。だとすると、日本品質の中身は曖昧ですね。

 

次に「収益期間の向上」です。独自でなくても液浸冷却にすることでサーバー機器の寿命が延びるということを主張されたいのでしょう。まあ、それはそうかもしれません。しかし、サーバー機器の寿命はそんなことでは決まっていないのです。「ビックデータの解析, AI処理, ゲノム解析, ブロックチェーン技術, レンダリング処理」に特化しているのであれば、これらの計算を大量に高速に処理できるとユーザーに評価して貰える期間がサーバー機器の寿命になります。

 

半導体の性能向上についての有名な法則に「ムーアの法則」があります。N 年後の性能向上は 2 の N/2 乗になるという法則です。例えば、処理能力は 2 年後には 2 倍、5 年後には約 6 倍、7 年後には約 11 倍、10年後には 32 倍となります。2 年後に最新のものより性能が半分になる世界です。利回り 30% でも回収する前に投資したサーバー機器が陳腐化してしまいます。

 

そもそも、データセンターは運営されているのでしょうか。利用者を募集していることが確認できませんでした。ホームページには都内にある会社やショールームの住所はちゃんと記載されていますが、データセンターだけは何故か県市(北陸地方)までしか記載されていませんでした。

 

特徴的な建物だったので、賃貸募集の情報が残っているかと思って探したら意外と簡単に見つかりました。公開終了が昨年の 11 月でした。そこからデータセンター化する工事をしてサーバー機器を設置してユーザーを集めるのは、、、まあ無理でしょうね。だって、稼働しているはずのデータセンターを勤務地としてサーバーを組み立てる人の求人を今も募集しているのですから(笑)

 

ということで、データセンターとして収益がほとんどないか少ないと思われます。

 

そもそも、ビック・テックがしのぎを削っている市場なので参入障壁は非常に高いです。サーバー機器を調達して設置しただけではただの箱です。サーバー OS やソフトウェアの整備だけでなく、クラウドサービス特有のインスタンスの構築や運用モデル設計、各種最適化などソフトウェア技術者が大量に必要です。サーバー機器のお金を投資家に出してもらうような会社に運営なんかできるわけないです。まあ、独自の超高速のハードウェアを開発できれば差別化できるかもしれませんが、ソフトウェア技術者はやはり必要です。日本で技術的に対抗できる会社はほとんど皆無ですが、可能性があるとしたら、ユニコーン起業として名の知られている PFN くらいでしょう。ちなみに、PFN は深層学習に特化した NM-core という ASIC(特定用途向け集積回路)を開発しています。人材もビック・テックとの争奪戦です。PFN の採用担当者によると、大卒初任給で 1600 万円とか提示しているそうです。これが普通みたいです。

 

IC 設計:1200~2400万円
IC 検証:1200~2400万円
FPGA 専門家:800~4000万円
SoC アーキテクト:1400~3000万円
CPU/GPU・ヘテロ設計:3000~1.2億円

 

とかありました。これは中国の大学の就活イベントで提示されていた額(元を日本円に換算)だそうです。下限が初任給でしょうか。

 

データセンターは新規参入するにはレッドオーシャン過ぎる市場

 

なのです。

 

あるあるだったこと

 

2 つあります。1 つはショールームに芸能人が訪問しましたと宣伝していることです。言葉は悪いですが、素人が訪問して何が分かるのでしょうか。まあ、サーバー機器は電源が入っているだけで素人目には何か凄い処理をしているように見えるかもしれませんけどね。もう 1 つは、事業会社の役員の方がデータセンター事業の専門家ではないということです。経歴を見ると投資関連の事業をされているようです。

 

凄い既視感

 

を感じます。何かというと、仮想通貨のマイニング投資です。マイニングする機器に投資するというものでした。有名な大家さん(だった人)が参入されたり、セミナーに参加したと楽待のコラムニストの方がコラムを書かれていたり、楽待で広告する事業会社が出てきたり。ブームがありましたが、今はほぼ全て消えてなくなりました。そういえば、その会社も都内にショールームがあってマイニングセンターは青森県でしたね。仮想通貨の相場が悪くなって儲からなくなったらデータセンターとして運営すると謳ってました(笑)

 

あれっ、このデータセンターの事業会社、仮想通貨の取引所も運営してますね。同じ穴の狢でしたか(;^_^A

 

投資してはダメですよ。

 

それでも心惹かれてしまう方は利回り 30% の不動産投資を装置ビジネスとして評価してみたらどうでしょうか?

 

リスク低いですか?高いですか?