<不動産投資業界の過熱>
不動産価格もどんどん上がってきて、気持ち的には買い辛い状況。
でも、融資は付く状態。
これを世間一般には ”バブル” と呼ぶのだろう。
振返ると、業界内では何でもありの状態だったようにも思う。
~~~~~~
「ようこそお越しくださいました。」
「お問い合わせいただいたこちらの物件ですが、月内で契約予定となってしまいまして。すみません。」
(え?!そうなの、せっかく来たのに・・・)
「でこさん、こちらの大分県のRC物件は如何でしょうか。ちょうど本日入った物件です!」
この不動産会社の営業マンがそう言った。
「え、大分ですか!?」
(そんな遠隔地の物件なんて考えたことすらない・・)
「価格は三億円ですが、でこさんでしたらスルメ銀行で融資してもらえる可能性があります。」
(え?三億円!?)
「外壁塗装、屋上防水などの大規模修繕が終わっているので購入後も安心です。」
「入居状況は良くないですが、室内の原状回復リフォームも終わっているので後は客付けのみです。」
「年間の賃料収入が満室で約3300万円なので、キャッシュフローベースでも一撃で年収700万円ですよ!」
「どうです?すごくないですか!!」
と、担当者は矢継ぎ早に言った。
「うっ!一撃700万円・・・」
(確かに、凄い!!)
キャッシュフローにフォーカスしていたでこひろしは、正直、かなり心がグラついた・・・
スルメ銀行4.5%、諸経費込みのオーバーローン、場所は九州の大分県、入居率は40%程度。
(うーん。。。)
いわゆる ”三為案件” だった。
”三為” というと印象が良くないのは何故だろう。
「第三者の為にする契約」
単なる契約形態の問題であり、本来であれば良いも悪いもないはずなのだが、どこぞの不動産会社が、どこぞの銀行とタッグを組み?、無知な売主に高値での売却が横行したことから悪いイメージが先行したのだろう。
でこひろしは、物件の是非について検証してみた。
・表面利回りは11%超と悪くはない
・大規模修繕は済んでいるので、購入後の大きな出費の心配は少ない
・空室の現状回復は済んでいる
・周りの不動産会社に賃貸需要をしっかりと確認しさえすれば有りなのでは
(心の奥では、”大分県” と ”三億” という部分に引っ掛かりは感じたものの、一旦は前向きな印象を持った)
「ひとまずは、買付申込書と、融資の申込書の記載だけでもお願いします」
営業マンは急かした。(ように感じられた)
「融資の申込書は分かりました。ただ、”買付” は持ち帰ってからもう一度検討したいのですが・・・賃貸需要も自分なりに調べてみます。」
と冷静に回答した。
「こちらの物件は、社内でも共有されており、しかもかなり条件も良いので他に回ってしまいますよ!」
営業マンは即座に答えた。
(ムムム・・)
「うーん、なるほど。。では、買付申込書もお願いします。」
「ありがとうございます!」
不動産屋を後にし、建物を出た。
時計を見ると 22時40分。
(もうこんな時間か。あぁ、疲れた。。)
そもそも今回は、3000万円の木造物件の問合せで来たのに何故かこんな展開になってしまったことには、モヤモヤが残った。
~~~~~~
「この物件なんだけどさぁ」
でこひろしは、重い口調で妻に切り出した。
「場所が大分県なんだけど・・・」
物件概要を妻に見せる。
「は?大分?」
「何か(建物が)大きくない!?」
「そうなのよ。3億円くらいするんだけど・・」
「・・・」
(一瞬、冷たい空気が流れた)
「ごめん。意味が分からない。。」
いつも好き勝手なことを言い出す旦那に、だいぶ免疫が出来てきたと思うが、、流石にこの時ばかりは反応が明らかに違った。
当たり前だが、しごく真っ当なリアクションだろう。
不動産投資家の奥さんは本当に大変だと思う。
「だよね。。ちょっと厳しいかな?」
「ないない。あり得ない。まさか買わないよね!!」
「・・・」
自分自身でもリスクが高いことを承知していたが、改めて客観視した。
<ローボールテクニック(承諾先取り法)>
「魅力的、もしくはあまり面倒でない条件をはじめに提示し、受け入れさせた後に、理由をつけて魅力的な条件を取り除いたり、相手にとって都合の悪い行動を追加したりする手法」
確かに、この不動産屋自体が怪しいし、この先進めていく中でも嫌な予感がする。
「もしもし、でこひろしです。先日はありがとうございました。
実はですね・・あの物件、妻に話をしたのですが、どーーーしても妻からの賛成が得られなくて、説得に説得を重ねたんですけど、どうにも前に進まなくなっちゃいまして・・・本当に申し訳ありませんが・・・」
でこひろしは、不動産業者に断り(撤回)の電話を入れた。
【自分ではなく、妻がどーしても!】
本当にどうにも断り辛くなってしまった時に使う、でこひろしの常套手段だ!(笑)
今思えば、物件自体のスペックは悪くなかったので、購入していたとしても、もしかしたら何とかなったかもしれないが、精神的には厳しい物件だっただろう。
そもそも、一介のサラリーマンが頭金をほとんどいれないで、3億円の一棟マンションを購入できること自体が不自然なことなのかもしれない。
(そういった人に、その後、何人も出会ったが・・・)
また、想像だが恐らく、「二重売契」、「源泉徴収票や銀行口座の改ざん」などが前提だったのかもしれない。
こうして、でこひろしの一撃ひっさつの夢物語は幕を閉じたのだった。
<つづく>
※ この物語は事実をベースにしていますが、あくまでもフィクションです。実在の人物や団体、また出来事に関しては、類似があったとしてもそれは偶然です。
プロフィール画像を登録