『お世話になりますっ!
ピタットハウス市原土地建物店(仮称)の木村(仮名)です。
いまお客様を(内見に)ご案内しているのですが…ちょっとお時間宜しいでしょうか?』
普段は大人しい雰囲気の賃貸担当者の木村さん
電話越しに聞こえる声のトーンがいつもより高い
夕方から内見の予約が入っていると伺っていたが…朗報を期待してしまう
通話中のまま
周りの雑音が聞こえてこない場所に移動
一言一句聞き逃さないよう、汗ばんだ手でスマホを耳にギュッと押し当てる
『お客様がタカボンのパパ様の物件をとても気に入られて、すぐにでもお申し込みしたいと仰っているのですが…お申し込みにあたり、いくつか条件…いえ、ご要望がありまして…』
募集を開始してからここまで3組の内見があった
しかしながら内見中に連絡があったのは今回が初めて
今までとは比較にならないほど確度が高い好機で決めなれば…と本能が騒ぐ
『まず…テレビについてですが、ケーブルテレビではなくアンテナを設置して欲しいそうです』
これは即答でOKですと伝える
補足になるが、今回の物件はもともとアンテナが無く
前所有者さんはケーブルテレビを利用していたのだ
『ありがとうございますっ!
続きまして、フリーレントを1ヶ月お願いしたいとのことですが…いかがでしょうか?』
これも即答で満額回答する
フリーレントも想定の範囲内…とはいえ正直言って痛い(涙)
しかし目先のお金を渋っていたら、会社員が不動産賃貸業は営めない
『重ねてありがとうございますっ!
えぇっと…最後に…お家賃なのですが…お気持ちだけでもお値下げしていただければ、お客様はこのあと直ぐにお申し込みしたいと仰せなのですが…』
やっぱりきたか
こちらも想定の範囲内なのに…痛い、痛すぎる
『家賃値下げは無理無理無理いぃぃいっ』と、叫びたくなるのをぐっと堪える
『…かしこまりました。
それでは70,000円のところ68,000円でいかがでしょうか?と、お客様にお伝え願えますか?』
ご要望が本当にお客様からだったのか
それとも賃貸担当者さんのご提案だったのか定かではない
結果的にその日のうちにお申し込み頂いたことが事実
その結果に対して
後からあれこれ言うことは容易いが
それでも最善の選択をしたと自分が思えたのならば、それが全て
最終回に…つづく
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