こんばんは!地主の婿養子大家です!
※最高裁判所ホームページより引用
前回のコラム文末にてクイズを出してみました。
もしかしたらテナント物件は売却に有利になる時代が来るかもしれない
それは何故か?
その理由の一つになるのではないかと私が勝手に思う。
ムゲン事件
ADW事件
本日は、私には珍しい時事問題コラムになります。
勿論、
私的には単なる時事問題コラムに留まるつもりはなく、本件が与えるであろう業界の変化に主眼を置き、その変化に対してどう考えていくか?について考察を深めたいと思っております。
苦手な税務分野の時事ですので、
もしかすると見解が甘かったり、認識を間違えていたりするかもしれませんが、その場合にはコメントでご指摘いただけますと幸いです。
ムゲン事件、ADW事件とは?
2023年3月6日
最高裁判所まで争いが続いていた、通称ムゲン事件、ADW事件は、
納税者側の全面敗訴
という形で幕を閉じた。
ムゲン⇒ムゲンエステート
ADW⇒エーディーワークス
の事ですが、ネットなどでの紹介を見ると、中古マンションなどの再販、転売業者と呼ばれている。
中古マンションなどという呼び方は非常に便利なあいまいなものですが、確かに私が仲介業者に勤めていたころは、主に居住用の分譲マンションの一室をリフォームして再販売する業者としてよくお世話になったものだった。
しかし、
一方で投資家としては、収益不動産市場でも良く見かける存在でもあった。一棟マンションを買取り、再販売する事業である。
ムゲン事件では、
2013年12月期から2015年12月期の3事業年度について、税務調査が入り国から消費税の仕入税額控除の修正依頼を受けたようです。
そこから最高裁まで争う事になりますが、
判決を見ても、ムゲン事件とADW事件で途中判決が割れていて、それが最終的に最高裁判所で納税側の全面敗訴となったのでした。
この背景としては、平成17年に遡る事になるようです。。。汗
それまでは、
マンション販売業者が中古のマンションを仕入れて売る場合、その仕入れに係る消費税はその全額が売上に対する消費税から控除することが出来ると国税が解説していたようですが、
平成17年頃になって突然、
国税はその見解を変え、仕入れた中古のマンションに入居者がいて、そこから賃料収入が発生していれば、その仕入れに係る消費税については、一部しか消費税を控除出来ないと言い出しましたのでした。
争点はどこか?
少し前から消費税の話が続いており、恐縮ですが、インボイス制度も始まりますし、2030年までに消費税率を15%に上げたいという国の目標もあることから、個人的に消費税に理解を進めていくことには我々のような零細企業においても必須になってくるように思うので、まさに実践大家として、私自身が今勉強をしている感じです。。。汗
さて、
この裁判、争点はどこにあるのか?を整理しておくと理解が進みやすかったですが、
消費税課税における、
居住用不動産
に取引における
仕入税額控除
にあります。
ムゲンやADWは、例えば中古マンションを購入し再販売するわけですが、その仕入れと売上げに係る消費税について区分ビルならば以下のようになります。
<例>中古区分ビルを1500万円で購入し、2,500万円で売却。
この取引における仕入れと売上げの仕訳を簡単に以下のようにすると、
【仕入れ】
建物:1,000万円
消費税:100万円
土地:400万円
【売上げ】
建物:1,500万円
消費税:150万円
土地:850万円
この取引における国に納める消費税は
売上消費税150万円-仕入税額控除100万円=納税50万円
綿密な計算は無視していただきたいと思いますが、概要はこんな感じなわけです。
ここで、
令和2年度の税制改正
を思い出す必要があります。
この話は、ここの読者の多くはご存知である、多法人スキームの消費税還付スキームの網掛けの為と思われた税制改正です。
新築投資家で経験のある人ならば具体的なその威力について詳しいと思いますが、おそらくは、利回りにしてみれば0.5%くらいの威力があったのではないでしょうか。汗
この税制改正により
居住用賃貸建物の課税仕入れについては、原則仕入税額控除が認められなくたったため、それ以降では本件のような争いは生じないと考えられます。
先ほどの例題ですが、令和2年度までは、大雑把に言えば、再販業者は以下のような仕訳で居住用中古マンションでもあくまでも販売用の不動産として課税対象として処理していたのでしょう。
【仕入れ】
建物:1,000万円
消費税:100万円
土地:400万円
【売上げ】
建物:1,500万円
消費税:150万円
土地:850万円
ここで、国は居住用賃貸建物では、仕入れから販売までの間に非課税対象である賃料収入が売り上げられている事からその仕入れに係る消費税については、一部しか消費税を控除出来ないと主張したのでした。
ここで消費税還付スキームの威力を思い出して欲しいのですが、この中古マンション再販スキームはそれまでは私たちのように居住用不動産の仕入れ控除は出来ない取引がデフォである投資家に対して、
取引利回り0.5%程度のアドバンテージを持っていた
と仮説する事が出来そうです。
事件の向こう側
この事件、業界に携わってきた人間にとっては、非常にショッキングな事件で、先日、売買契約であった時も仲介会社社長はずっとこの話を大変だ大変だと言っていました。
ただ、
元々、現行の税制では仕入控除対象外であるアパート、マンションを購入して賃貸で回すことが目的である我々大家にとっては、直接的な良い影響が望める事件であるわけではありません。
それでも
事件の向こう側を想像し、今できる事を少しずつでも広げていく事が業界で長生きするコツなように感じるのでした。
例えば、
もしかしたらテナント物件は売却に有利になる時代が来るかもしれない
それは何故かとクイズにしましたが、
この事件の向こう側には、
非課税対象の居住用賃貸物件の税圧力アップ
と
課税対象のテナント物件への可能性アップ
の可能性が見えてきます。(私には。苦笑)
ネットで税理士のブログなどを読んでいてもムゲンエステートが一棟ものも多く取り扱っている事実については言及されている記事は見つけられませんでしたが、彼らは一棟ものも多く取り扱っています。
その中で、
一般法人が本業の消費税対策の一環として
課税対象のテナント物件
の仕入れを検討する機会が増えると仮定するならば、それらを出口としてムゲンやらの業者にとっては、本件の網掛け対象にならない、テナント物件の転売によるスキームをしっかり確立していく可能性も十分に考えられます。
実際に、
私の知り合いの業者社長も年間でとんでもない消費税支払いを回避するためにここ数年テナント物件を購入しています。
需要が高まれば相場も上昇
するかも知れませんね。汗
逆に、
居住用不動産高騰相場の追い風となっていた業者買取は少しずつ減少傾向にあるようにも感じられるので、それは我々の購入チャンスアップにもつながるかもしれませんよね。
先月終わりには消費税課税1,000万円の壁にかかわるシリーズを書いてみましたが、予想通り、あまり多くの読者から喜んでもらえるものではありませんでした。
しかし、
私の経験としては、昨年、今年とテナント物件を売却しましたが、両方とも居住用不動産よりもかなり低い利回りで売れた感じがしています。
これには、
市況の高騰感だけにとどまらず、
テナント物件
区分駅近物件
に対する好意的なバイアスがかかった気がします。
尚、今回はムゲン事件、ADW事件の判例から
テナント物件高騰の可能性
居住用不動産購入のチャンス
などを考察してみましたが、
一方では、
消費税増税圧力(15%へ)
インボイス制による混乱
弱体化したテナントの退去
などでテナント物件の投げ売りも
今年秋以降
は目立ってくるかもしれません。
テナント物件の売却時は、居住用よりも税メリットもある事から、指値交渉においては売主として比較的優位に進められるケースもあると感じています。実際には私の直近2件がそうだったので。(この優位性を利用できる為に自信の課税売上高を把握しておく事や建物額の調整などが着眼点になってくるので先月シリーズにしてみました。)
しかし、
投資対象として購入を検討する際には、消費税絡みの税メリットはあくまでも副次的なものとして、
物件の真の価値が高いもの
を購入する意識については、居住用と変わりはないのだろうと感じてもおり、
本コラムを締めくくりたいと思います。
あと、最後に本事件においては税理士業界では
国が、
いきなりコロッと態度を変えて税金を取りに来た姿勢
追徴課税まで取ろうとした姿勢
に批判が集まっていました。
この姿勢については、私たちにも気を付ける部分があり、今後も税関連の勉強も大事だなと感じた次第です。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。m(__)m
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