フリーインターネットの物件を作ろう

筆者、テック大家さんは、箱根に16世帯が入るRCの物件を所有している。中古で購入 した後、建築家の妻が監修のもと数年に渡るフルリノベーションを実施。2023年春に入居を開始したものだ。

ここにテック大家さんがDIYでフリーインターネットを導入したというのが、今日の記事のテーマである。

 

フリーインターネット導入の動機

リノベーションにあたって、妻は明確なコンセプトを考えた。

それは、都心と、観光地箱根の2拠点で生活する遊び上手なオトナ向けに1Kの賃貸を提供するというものだ。そのためのプランおよび設計にかなり頭をひねっている。

1Fのオートロックを入ると、1Kの各戸までは内廊下。オートロックの内側には、入居者が自由に使える共用のリビングもある。館内にコインランドリーを設置し、入居者がわざわざ洗濯機を購入しなくていいように考慮した。

 

このような建物なので、館内どこでもつながるフリーWiFiを引くというのは、割と明快なアクションであった。

 

今やネットがないと生活ができない時代だ。街に出かけても、フリーWiFiを導入しているお店をよく目にするようになった。

一方、個人が部屋に固定のインターネット回線を引こうとすると、金銭的負担が大きくなる。ましてや、2拠点生活者用の物件というコンセプトであれば、入居者は1年中常にWiFiを使うわけでもなかろう。であれば、大家さんがフリーでインターネットを提供してあげようというわけだ。

テック大家さんがフリー・インターネットを導入する箱根の物件。共用のリビングやランドリー室がある

 

業者に頼んだ場合の固定費を削減

実は、当初は業者に依頼してフリーインターネットを導入することも検討した。しかし、問題になるのは、やはりコスト。業者から出てきた見積書には、月に管理費が二万円ほどとある。

 

うーん。やはり固定費がかかるのか…

 

だったら、テック大家さんの出番だ。

そこで筆者テック大家さんは、業者から提供された資料から、使われている技術を割り出すことにした。言ってみれば、考古学者が古文書から当時の生活を理解するような作業だ。

 

ある程度そっちの知識がなければ、資料を読み解くことすら難しいかも知れない。しかし、筆者テック大家さんの本業は、まがりなりにもソフトウェア開発である。テクノロジーはそこそこ理解できる。

こうして、設備や仕様を参考に、DIYでフリー・インターネットのしくみを導入することに決めたのだった。(業者さん、ごめんなさい…)

 

導入後は、もちろん大家さん自身がネットワークの管理者になることにはなってしまう。それでも、業者に支払うはずの月額二万円ほどの管理費は不要になる。ここは頑張りどころである。

画像引用: pexels

導入の方針としてはこうだ。

まず光回線を建物まで引き込む。その回線を何かしらの方法で入居者全員で共有するのだ。ただ、そのやり方がポイントとなる。

業者がやっていたことを全て大家さんがやるとなれば、技術的な課題がでてくるのは当然である。それをどうしたか。

大家さんがDIYする際のIT知識とは

テック大家さんが解決しなければいけない技術課題は、大きなところで以下の3つだった。

  • ・”館内どこでもつながる”を実現するためには?
  • ・回線を共有する。プライバシーはだいじょうぶ?
  • ・共有したら速度低下!?その場合どうする?

一つづ見ていこう。

”館内どこでもつながる”を実現する「WiFiローミング」

設置しようとしている物件は、RC3階建てだ。強力なWiFiアクセスポイントをひとつ導入したとしても、鉄筋コンクリートの壁を通過して通信するには無理がある。

たった1台のアクセスポイントで館内どこでもつながるようにするのが困難であることは容易に想像できるだろう。

 

そこで、WiFiアクセスポイントは複数台設置することになるわけだ。

ただし、入居者がそれぞれのアクセスポイントとの接続設定をするのはいただけない。共用リビングでWiFiの設定して、部屋に戻ってまた別のWiFiの設定して…というのでは面倒すぎるだろう。

 

なにより、筆者テック大家さん的にはそんなのカッコ悪い。病院をネットで予約して行ったのに、なぜか待合室で1時間待たされる、みたいな不格好なIT活用だ。ここは技術的な「美」を追求したい。

 

つまり、一度館内のWiFi設定したら、どこにいようともWiFiにつながった状態にする。

 

はたからみると、ものすごく当たり前に見えるこの状況。実は、技術的には工夫が必要なのだ。これを実現するのが「WiFiローミング」というしくみである。

 

それぞれのアクセスポイントの設定画面で、SSIDというWiFiで使うIDを共通にしておく。加えて、無線チャンネルが被らないようにいい具合に調整してやるのだ。

これで、「館内どこでもつながる」が実現できた。

WiFiローミングのしくみ。全てのアクセスポイントでSSIDを揃える

 

ちなみに、館内に設置したWiFiアクセスポイントは、数千円で購入できる家庭用の格安品だ。業務用のものを購入しようとすると数万円のものもざらだが、そういうものは採用しない。

一台のアクセスポイントがカバーする入居者はそれほど多くない。それならこれでOKだろうと踏んでテック大家さん自身が決めたのだった。

 

1年近く使っているが入居者からの苦情は今のところ入っていない。使い方をちゃんと想定すると家庭用でも格安でも問題ないというわけだ。

こんな安物で事足りるなんて、つくづく技術の進歩が目覚ましいと実感する。でもこの事実を知らないと要らぬ費用を払わされる。まさに世の常、である。

回線を共有する。プライバシーは「VLAN」で解決

さて、一つのネットワーク回線をみんなで利用するならもうひとつ考えておく必要がある。

 

それは、館内のネットワークに接続する機器間のプライバシーの問題だ。

例えば、103号室の入居者が305号室のパソコンにつながってしまうという状況は、あまり気分の良いものでないだろう。

 

加えて、ここだけの話だが、このネットワークにはセキュリティーカメラやオートロックシステムなど、入居者には触ってほしくない大家さんの所有物も接続している。

それらの機器間の通信を遮断して、それぞれのプライバシーを保護したいというわけだ。

そこで、プライバシー問題を「VLAN」というワザで解決することにした。

ネットワーク回線を分配するときに、「レイヤ2スイッチ」という専用の機器を使うのだ。

私はVLANを組むのは初めてだったが、機器をちゃんと選定すれば意外と簡単にプライバシーを守って、ネット回線の共有ができたのであった。

VLANによるプライバシー保護の概要

回線共有したら速度低下!?「光用配管」を使って分離

ところで、ネット回線を入居者全員で共有するとなると、速度低下が心配だ。

たとえば、ゲームなど多くの帯域を専有してしまうような使い方をする入居者がいた場合。利用者全員の速度低下が問題になるだろう。

だが、そんな状況になったら、ヘビー・ユーザーさんは共用のネットワークから退出していただこうと当初から考えていた。そういう人には、個人で別の光回線を契約してもらって、自分の光回線を専有してね、という想定だ。

そのため、各部屋へは個人で光回線を引けるよう、光ケーブル用の配管だけ通してある。建物にNTTなどに回線を引き込んでもらったら、その先、契約者の1Kの部屋まで光を引いてもらうだけで解決なのである。

 

さいごに

いまや賃貸でフリー・インターネットを提供するのはトレンドになりつつある。

業者に頼むと固定の管理費がかさむ。

じゃ、その固定費を入居者から取ればいい、という話もあるだろう。でも筆者は自称献身大家さんだ。

自分で管理すれば費用かからないよね、という発想で検討を始め、実際にやってみた。

筆者テック大家さんがソフト開発してきたエンジニアだからできた、という面も大きい。この記事の内容も、初心者には難易度が高かったかも知れない。そうだとしても、エッセンスだけでも理解してもらえると嬉しい。

今後も筆者のコラムでは、自分が実践している賃貸経営におけるIT活用法をわかりやすく解説する、という方針でいくつもりだ。

今後に期待してほしい。