FIREというコトバがある。

英語で「get fired」といえば会社をクビになるって意味なのだが、ここでは大文字のFIRE。Financial Independence, Retire Earlyの略。つまり、経済的自由を手に入れて、早めにリタイアする、というコンセプトの話である。

2年前の出来事

筆者テック大家さんのプロフィールには、自分はサラリーマン大家だと書かせてもらっている。

だが実のところ、ここ2年くらい、サラリーマンとしての仕事はしていない。休職中の身なのである。

理由は病。流行り(!?)の精神疾患というやつだ。医者には不安障害と診断されている。

このことを人に話すと、50近くで鬱などの精神疾患になる人は多いと返される。休職するようになって知ったが、こういう人は世間にはよくいるのだそうだ。

「そうなんだ、自分もよくあるケースのひとりなんだ…」と安心する一方、ちょっと複雑な気持ちになる。

50歳といえば、定年まで10年。サラリーマンではバリバリの中堅よりも少し年がいっている。定年後を見据えて社内的にも社会的にもこれからどうする、なんて考え始める年齢だ。

そんな年齢の精神疾患患者が多い、などと言われると、

「日本の社会構造どうなってんの?大丈夫なの?」

と客観的に日本社会の心配をしてみたりするのである。

サラリーマンの自分が不動産を始めた理由

ところで、筆者がサラリーマンの傍ら不動産投資を始めたのは20年前のことだ。

別に、病気で仕事ができなくなるときに備えて始めたわけではない。30そこそこの青年!?が、当時なんとく考えていたのは次のようなこと。

定年まで会社に頼って生きるよりも、人生の途中からは会社の外でなにかするという可能性を探りたい。会社を辞めて自由に好きなことしてたい。そんな漠然とした想いを持っていた。

当時流行したロバート・キヨサキ著「貧乏父さん金持ち父さん」に触発されたのも大きかった。FIREなんてコトバはその当時はなかったんじゃないかと思う。

以来、中古でアパートを1棟買い、また1棟、また1棟と買い増す。途中でうまく行かないものを売却したり、退去しない住民を追い出す裁判したり…20年もやると、やっぱりなんだかんだ事件があるわけで、順風満帆とはいかないものなのだ。

 

でも建築家の妻が自営だったことも幸い。少しずつ上向く。

安くリノベして、満室にするどころか中古で買ったときよりも高く貸すこともできるようになってきた。

一番あたらく購入した物件は、一気にお金をかけずにゆっくり、ゆっくりフルリノベしてるので3年(いや4年か?)かかっても完全に工事が終わっていない(笑)。

箱根にリノベで作った貸しアトリエ

本当に突然だった休職

そんな中で2年前に突然、会社を休職することになった。

当時1週間くらい仕事ができない日が続き、医者に行ったら仕事を1ヶ月休め言われたのだ。診断は「不安障害・抑うつ状態」。

この病気。仕事ができないくらいのなので、当然、めちゃくちゃ辛い。

最初の頃の症状は、まあ酷いものだった。腹痛とか倦怠感がひどくて布団から起きられない。布団から出られても、大のオトナが、なぜか泣く。または、どうも不安でじっとしていられない。などなど、頭とカラダがとにかく普通でない。

こんなアタマの状態、想像できるだろうか。以前の自分なら、うつの人の話を聞いても全然ピンと来なかった。だから想像できないと言われてもムリはない。

休職を始める時、医者には、治るのに何ヶ月もかかると言われた。この言葉をを聞いたときはかなりショックだったのを覚えている。冗談でしょ、とも思った。そして、突然仕事に開けたアナをめちゃくちゃ心配する。すぐに仕事に戻って、あれしなきゃ、これしなきゃ…。収入が止まった、この先どうなるんだろう。などと、あれこれ考える。

だが、不安障害ってのは、そんなことをマジメに考えてしまう性格だからこそ治らない病気なのだ。

で、気がつくと2年以上経って、未だに会社に戻れないというわけだ。

抗うつ薬のみ中…

療養生活と物件施工

本当に厄介な病気になったものだ。

しばらく休むとそこそこ元気になる。でも、元気になったと思って何かを始めると、また不調になってめちゃめちゃ辛い。波があるのだ。特に、最初の頃はその波の振れ幅が大きい。加えて、下りの予兆が自分でわからないときている。朝目覚めると「あれ、今日なんか変」って感じ。

元気なときに医者に行っても、波の話をすると「それじゃ、仕事できないでしょ」と言われる。ごもっとも…

 

仕事をパタっと止めて、半年くらいした頃の話。

所有する箱根の物件は、リノベが真っ最中だった。リノベの企画・設計は建築士の奥さんの仕事。一方、自分は、元気なときに自分の物件の施工現場の仕事をするようになっていた。以前は、工事の費用の一部は自分のサラリーマンの給料から出ていた。だから自分で工事(DIY)するのは、その補填とも言える。

壁紙貼ったり、ペンキ塗ったり、床材貼ったり…

部屋数が多いので、自分で言うのも何だが、施工の腕前はかなり上達した。

このコラムでもご紹介しているが、フリーWiFiの設置・設定や、セキュリティ・カメラの設置、ネットから使うオートロックシステムなど、テック系も自分の「仕事」。

完成が見えてきてたら、物件サイト立ち上げてネットで入居者を集める、不動産屋に募集依頼する。

とは言え、なにぶん病気療養中の身である。病気の症状によって数日寝たきりになることもある。したがって、リハビリするみたいに体調と相談しながら自分の物件の建築施工の作業をするしかないのだ

サラリーマン大家は片手間の不労所得と考えがちだが、本業をやってたらこれだけ多くの手間を掛けられなかっただろうと今にして思う。

 

さて、物件が完成(一部まだ工事中)すると入居者が決まってきた。コロナも終わり、箱根に観光客が戻るとホテルなどの従業員向けの部屋探しが盛り上がったのだ。おかげさまでウチも満室。

そうすると当然ながら、財務状況が突然よくなったのである。

これってFIREってこと?! 

現在は、自分の病状もかなり良くなった。体調管理のために、朝のヨガを続け、うつ症状を抑えるために始めた毎日1時間のウォーキングもする。肉体的には休職前より調子がいい。

未だに不調で寝込むことがはあるにはある。それでも、体調の波の振幅は以前より浅いので苦痛も軽い。

体調の良いときは普通に生活できる。休職の身で時間の縛りがないので、リハビリと言いつつ色々なことを始めた

テックブログを書く。好きなソフトウェアやテクノロジーの探求にふける。平日にほうぼうに旅行に出掛ける。自宅と自分の物件の2拠点生活を気ままにする。友達とたまに呑むこともある。

楽待コラムのコラムニストに応募したのも、リハビリと言っちゃなんだが実のところ、そんな感じだ。

夏頃からは25年ほど前に中断していたパラグライダーも再開した。高高度を飛びながら、鳥のように文字通り羽を伸ばす。

とにかく好き勝手に過ごしている。

空飛ぶ「テック大家さん」の写真

 

そして、月に2度程医者に行って抗うつ薬を続けるのだ。

給料をもらってないけど、なんとか不動産投資(と今のところ傷病手当)で生活をつなぐ。「つなぐ」どころか楽しんじゃってる。

 

そしてふと「これって、FIREしたってこと?」と思うのだ。

 

この状態(休職)が続くと会社の規定でそのうち「クビ」になるだろう。文字通り「get fired」になるのだ。

50過ぎで病気で今の状態にならなかったら、たぶん、モヤモヤとどっちつかずな状態で退職まで同じ会社でサラリーマンをやっていたのではと考える。

それよりは、病気持ちではあるが今のほうが断然いい。リハビリといいつつ始めた数々が、今後なにかの役に立つかもしれないと考えると、それはそれで悪くない。

人生、なにがあるかわからないものだ。