マイクロ法人
最近、不動産投資やFIREといった記事の中に、マイクロ法人という言葉を見かけることが多くなりました。マイクロ法人スキームは、不動産投資に限った話ではなく幅広い分野活用ができる社会保険料節約の方法です
ただ、不動産投資でFIREをするときや副業で不動産投資をやっていた人が定年退職を迎えたときにマイクロ法人スキームを利用するには、少し気をつけたほうがいいことがあります
それが、個人事業主と法人での不動産所有の割合の問題です
FIREや定年退職と不動産収入
FIREや定年退職をした、サラリーマンの収入がなくなったときにマイクロ法人スキームが利用できるか考えてみましょう
Aさん、Bさん、Cさんは、来年定年を迎える予定です。現在のサラリーマンの課税所得は3人共に800万円です。一方、副業として不動産投資を行っており、不動産所得が2000万円ほどあります
ただ、3人には大きな違いがあります。具体的には、不動産投資の個人事業主と法人の割合が違います
具体的には
Aさん:バランス型
サラリーマンの所得800万円
個人事業での不動産所得1000万円
法人での不動産所得1000万円
Bさん:個人事業重視
サラリーマンの所得800万円
個人事業での不動産所得2000万円
法人での不動産所得0万円(法人なし)
Cさん:法人重視
サラリーマンの所得800万円
個人事業での不動産所得0万円(個人事業主なし)
法人での不動産所得2000万円
という感じです
Aさんの定年退職またはFIRE
Aさんがサラリーマンを辞めた場合、所得は以下のようになります
Aさん:
サラリーマンの所得0万円(定年退職)
個人事業での不動産所得1000万円
法人での不動産所得1000万円
退職と同時に、Aさんは自分の法人から月6万円(年72万円)の役員報酬をもらうこととしました。この場合、Aさんが支払う社会保険料は月に約1.2万円(約年14万円)です。これで、健康保険(健保組合)と厚生年金を継続できます(ただし、同額を法人も支払うことになります)
法人からもらう月6万円(年72万円)の役員報酬では暮らしていけませんが、個人事業主でやっている不動産投資でのCF(税引き後手取り)があります。課税所得1000万円の不動産投資であれば、月の手取りは少なくとも50万円はあるでしょう
個人事業主の手取りと法人からの役員報酬で十分暮らしていけると思います
これがマイクロ法人スキームのベストな例です
Bさんの定年退職またはFIRE
Bさんがサラリーマンを辞めた場合、所得は以下のようになります
Bさん:
サラリーマンの所得0万円(定年退職)
個人事業での不動産所得2000万円
法人での不動産所得0万円(法人なし)
となります
法人がないので、マイクロ法人スキームは使えません
不動産所得2000万円であれば、生活に困ることはないですが、問題は社会保険料です
国民年金:月16,980円(約年20万円円)
国民健康保険:月86,667円(約年104万円):東京都新宿の場合
合わせて:月103,647円(年124万円)
となります
Aさんの社会保険料:年間14万円
Bさんの社会保険料:年間124万円
と100万円以上の差が出ていまいました
Cさんの定年退職またはFIRE
Cさんがサラリーマンを辞めた場合、所得は以下のようになります
Cさん:
サラリーマンの所得0万円
個人事業での不動産所得0万円(個人事業主なし)
法人での不動産所得2000万円
サラリーマンを辞めた後の生活は、法人からの役員報酬に頼らなければなりません
仮に月50万円(年600万円)の役員報酬をもらうとしましょう
健康保険料:約月2.9万円(約年35万円)
厚生年金保険料:約月4.6万円(約年55万円)
合わせて:約月7.5万円(年90万円)
を支払う必要はあります
法人があるので、マイクロ法人スキームは使えますが、豊かな生活をするには、役員報酬をもらって、高い社会保険料を払わないといけません。法人からの役員報酬が高いのでマイクロ法人スキームとは言えませんね
まとめ
Aさん、Bさん、Cさんの社会保険料(健康保険+年金)をまとめてみましょう
Aさん(個人法人バランス型):年14万円←マイクロ法人スキーム
Bさん(個人オンリー):年124万円
Cさん(法人オンリー):年90万円
不動産投資をしているサラリーマンがFIREあるいは定年退職して、サラリーマンの収入がなくなった場合、マイクロ法人スキームを利用すると、社会保険料を大きく節約できます
これが、60歳から90歳までの30年間続くなら、大きな金額の差になりますね
マイクロ法人を利用するポイントは
・個人だけ、法人だけと言うように不動産投資をどちらかに寄せずにバランスをもって物件を所有する
・生活費は個人事業主の収入でまかない、社会保険料はマイクロ法人スキームを利用する
ということだと思います
もちろん、私もAさんと同じようなやり方(バランス型)をしています
なぜ、3人にこれほどでの差が出たかと言うと、
法人からの収入がある個人事業主
の不動産所得に
社会保険料はかからない
という仕組みがあるからです
これは、そもそも、社会保険料は、給与所得に応じてかかるという国の考え方がベースにあります。言い換えれば、不動産所得は給与所得ではないので、社会保険料の対象ではないということです
ただし、定年などで給与所得がなくなり、不動産所得だけになってしまった場合、国民年金と国民健康保険にはいります。その時、その不動産所得に対して国民健康保険料が決まるので、高額な金額の支払いが必要になります(国民年金保険料の金額は、1カ月あたり16,980円です(令和6年度))
◇
ここ10年ぐらいで不動産投資を始めたサラリーマン投資家の中には、最初から法人を立ち上げ、物件をガンガン買っている方がいます。しかし、誰でも歳をとり、いつかはサラリーマンを終了することになりますが、不動産が法人だけの場合、社会保険料と生活費の捻出に苦労することとなります
物件の数が増え、法人にお金が溜まったとしても、簡単に法人のお金は使うことができません。つまり、法人だけで不動産投資を行っていても、お金持ちにはなれないということです。私が、二人の子どもを海外の大学に留学させることができたのも、都内に新築の戸建てを購入できたのも、個人事業主での不動産投資をある程度残しておきながらやってきたからです
そして、数年前、子どもたちが大学を卒業し、教育費の支出の必要がなくなった時を見計らって、自分の自宅を法人に購入させました。自宅の購入代金は、役員借入金として私が法人に貸し付けていることになっているので、私は、好きなときに、お小遣いとして法人の銀行口座からお金を引きだすことができます(法人から私への借金の返済です)
◇
繰り返しになりますが、私の持論は
不動産投資は個人事業主で始め、サラリーマン+不動産の所得が1800万円を超えた頃から法人での物件購入を考える
ということです
◇
実は、地主でない不動産投資家であった私の祖父は、家賃数億円のレベルまで賃貸業を拡大しましたが、最後まで個人事業主だけで、法人の設立は行いませんでした
お陰で、祖父から父とその兄弟たちへの相続は非常にシンプルな形で行えました。それは、祖父が相続税対策などせず、しっかりと所得税を支払い、残った現金を自宅の耐火金庫に貯めておいておいてくれたからです(この意味のわかる方は相続の上級者ですね・笑、違法行為なので自分はやりません)
みなさんも、法人での不動産投資については、よく考えて行ってほしいと思います
◇
ちなみに、私は、家賃収入約1億円のうち、約30%が個人事業主、約70%が法人です
役員報酬は
私:月6万円(社会保険料月1.3万円)
家内と二人の子ども(非常勤役員):月数十万円の報酬、社会保険料はサラリーマンの会社で支払うので法人はなしです
主な生活費と娯楽費は、個人事業主の収入と法人からの借金の返済です
まさに、サラリーマン+不動産所得=1800万円まで我慢してから、法人化を行い作り上げた理想的なマイクロ法人スキームだと思っています
とにかく法人を作って、物件の数を増やすことを目的にしなかった
サラリーマン大家の理想の完成形
だと考えています
プロフィール画像を登録