こんばんは、aloeです。

 

少し前になりますが、楽待編集部から

「現役世代にカネを返せ」、ベストセラー作家が考える「年収の壁」問題の本質

というコラムがupされました。

 

端的にまとめると

『本質的に「私達現役世代がなぜ103万円の壁撤廃を望んでいるのか」について、文中に記載の通り「基礎控除の引き上げは所得のある現役世代への大規模な減税」つまり「これ以上高齢者への過剰な支援のために現役世代を犠牲にしない」というメッセージだからです。』

と私がコメントした通りかと思いますが、とてもいいコラムなのでまだお読みでない方はぜひご一読ください。

 

さて、私のコメントに対していくつかコメントをいただいたのですが、それへのお返事も兼ねて、また医師という立場から無駄な社会医療費の最たるものと思われる過剰な医療費についての現状をコラムにしたいと思います。

 

日本の医療費の現実を直視してみよう

まずは客観的なデータから。

こちらは厚労省の国民医療費(2022年度)から抜粋してグラフ化したものです。

 

こちらのグラフは世代別の医療費(総額)です。

 

そしてこちらのグラフは世代別の医療費(1人当たり)です。

 

皆様こちらのグラフを見てどう感じますか。

 

医療費(社会保障費)増加の諸悪の根源は安すぎる医療費自己負担にある

日本の医療は「安い・早い・うまい」を実現していた世界に誇る医療システムだったといえるでしょう。あえて過去形にしていますが、なぜならこのシステムは

・日本人の倫理観

・年齢構成

・医学の未熟さ(昔は救おうと思っても救えない患者さんがたくさんいた。今でも救えない患者さんはたくさんいるが、「各種機械に繋いで生かしておくこと」はできるようになってしまった)

 

などに起因していたもので、到底持続可能なシステムではなくすでに崩壊が始まっているからです。

 

医療費の抑制を、というとすぐに「患者を見殺しにするのか!」みたいなコメントをする人がいますが、そうではありません。

 

まず真っ先にすべきは医療費自己負担割合の増加(一律3割負担)。

かつ高額療養費制度の見直し(現在の不平等を是正)

 

今の日本の医療制度では高齢者や住民税非課税世帯などの自己負担割合は極めて低いです。ですが、自己負担割合が低いことで「不要な医療を受ける」人が増えるだろうことは各種研究で示唆されているのです。

2例挙げてみます。

 

#Is Zero a Special Price? Evidence from Child Healthcare

こちらは東京大学による医療のゼロ価格効果を検討した論文です。

「ゼロ価格効果(Zero Price Effect)とは、商品やサービスが「無料」で提供されると、その価値や魅力が通常の価格で提供される場合よりも大きく感じられる現象」のことです。例えば道端でティッシュを配られた時、1円だと多くの人が買わないでしょうが0円だと貰う人が結構いる、というのが一例でしょうか。

 

この論文によれば「子ども医療にゼロ価格効果が存在すること、及び、価値が高いとされる一部の治療を除けば、自己負担を「ゼロ」にすることは、不必要な医療(≒その医療を受けなくても健康に影響がない)を増やす可能性が高いことが分かった」と結論しています。(自己負担が少額あっても健康状態の良くない子供の受診頻度は変わらない、など)

つまり、「子供の医療費ゼロ!」などは政策的なウケはいいですが、社会コストや医療負担的には100円でも200円でもいいから少額のコストを徴収した方がいいということですね。

 

#ランド医療保険実験

こちらはアメリカでの大規模研究で300億円が投じられたと言われているそうです。

この研究は自己負担を0、25%・・・と段階的に分けて、その影響を検証したものとなります。

こちらの研究でも負担0の群と25%の群で最も受診行動に差が出ており、つまりゼロ価格効果を示唆していそうです。

 

そして、なんと全体としては自己負担がある群とない群で健康のアウトカムに差がない、という結果となっています。

 

これらの論文が示唆することは、自己負担を減らすと文字通り「不要」の受診(医療費増加)だったわけで、コストとリターンに見合わないとかそういった話以前の問題です。

 

つまり、現在の年齢別や収入別の負担割合の変化(減額)はには政治的な意味しかなく、実際には全員一律3割負担としても「集団全体での健康結果に統計学的な差はでない可能性がある」といえるのではないでしょうか。

 

そう、所得や年齢による医療費負担減は政治家のただのパフォーマンスと既得権益(高齢者・非課税世帯)の我儘です。

 

ここでポイントは「集団全体」と書いたように、個々の事例でみれば(優位差のない範囲で)医療費自己負担の増額でデメリットが出る人もいるでしょうし、その可能性は上の論文でも指摘されています。

 

ただし、社会保障というのがその国全体の利益を考えたシステムなのであれば、統計学的な優位差がでないレベルの個々の事例については無視せざるを得ないでしょう。特に日本の悲惨な現状を考えれば。

そういった人達の助けをしたければ、慈善団体なり個人の意思でやればいいもので、社会保障費として強制徴収されるべきものではありません。

 

また、長くなるので詳細は省きますが、そもそも「高所得者の高額療養費の負担増加による逆不公平(自己負担の上限が高すぎてベストの治療を受けられない)」ということがすでに現実となっている以上、万人に平等かつメリットがあるシステムなど存在しません。

 

ちなみに余談ですが、2022年度で同じ診療科を月15回以上受診した生活保護受給者は1万人もいるそうです。異常でしょ、こんなの。絶対不要。

こういうのを防ぐためにもマイナ保険証は必要と私は考えています。

 

日本で医療費が全員一律3割負担となるとどうなるか

まず同じ医療が提供されるとして、高齢者や住民税非課税世帯の自己負担が増える(税金からの支出が減る)ことで、めちゃくちゃざっくり数兆円は社会保障費の削減が可能でしょう。

(正確な計算は高額療養費や3割負担の人の割合などかなり煩雑なのですいませんが今回は割愛します)

 

さらに、上記のようにそもそも「不要な医療」が減少する可能性が高いと思われるので、医療費の総額そのものも減る可能性が高いでしょう。

 

そうすると医療業界は縮小する可能性がありますね。

私自身も医師ですが、現在は医療業界全体としては国力を下げているという事実がある以上、致し方ないでしょう。産科小児科など、目にみえる(短期的な)コストを無視しても世の中にとって必要な科などももちろんありますが。

 

また、今回は思ったより長くなったので次回のコラムに続きますが、「不要とは言い切れないけどコストとリターンが合わない治療」も減るでしょうから、医療費(社会保障費)はかなり削減できるはずです。この財源だけで103万円の壁撤廃での税収減に対する支出減は十分カバーできてるはずです。

 

次のコラムに続きます。

 

aloe